スケートと睨み合いを続けた8年間、現在は少し長めのオフを満喫「本は……あ、でも、この話をするとインテリ風に思われるんですよね(笑)」 冗談めかした口調で照れ隠しの笑顔を浮かべるのは、スピードスケート日本代表・高木美帆だ。2018年の平昌五輪…
スケートと睨み合いを続けた8年間、現在は少し長めのオフを満喫
「本は……あ、でも、この話をするとインテリ風に思われるんですよね(笑)」
冗談めかした口調で照れ隠しの笑顔を浮かべるのは、スピードスケート日本代表・高木美帆だ。2018年の平昌五輪では金・銀・銅の3つのメダル、今年2月の北京五輪では1000メートルでの金を含む4つのメダルを獲得し、五輪では夏冬を通じて日本女性選手最多メダル数を更新した。
2014年のソチ五輪出場を逃して以来、北京までの8年間は「自分がスケートから目を背けたり、逃げたり、辛いと諦めたり、そういうことをしてはいけないと思ってやってきた」期間だったという。
先に目をそらした方が負けと言わんばかりの真剣勝負。ピンと気持ちを張り詰めたまま、試行錯誤を繰り返し、成功も失敗も経験として積み重ね、一段、また一段と成長の階段を上った。
「それなりにオン/オフはつけているつもりだったんですけど、心の根っこの部分ではずっとスケートと向き合う気持ちを抱えていたのかなと思います」
五輪シーズンを終え、普段よりも少し長めのオフシーズンを過ごす現在は、心をスケートから解放。久しぶりに友人・知人と会ったり、「暇があればマンガを読んでいます。マンガ好きですね」と茶目っ気たっぷりに笑う。
「本から知見を増やしたいというよりも、ヒントを得たい」
知る人ぞ知る読書家。日本スケート連盟公式サイト上のプロフィールには、趣味として「本屋巡り、読書」と書かれていたことがある。
スケートと向き合った真剣勝負の束の間にも、引き寄せられるかのように本屋に足を運んだ。
「『今、凄く本を読みたい!』と思って本屋さんに寄って、そこで目に留まった本を買うタイプ。買いたい本を決めて行く方ではないです。そんなに深くは考えていないんですけど、『これ面白そう』と思って手にした本から、その時に向き合っている課題や解決すべきことをクリアするためのヒントをもらっている気がします」
本屋に行った時に置かれた状況を反映しているのか、本棚を見渡すとそのジャンルやテーマは不思議と多岐にわたる。「本から知見を増やしたいというよりも、ヒントを得たいという方が大きいですね。だから、同じ本でも興味を持つ時と持たない時とあるんです」と明かす。
コロナ禍に出会った2冊の本とは
最近、印象に残っているのは脳神経科学を生かした起業家・青砥瑞人さんが記した「4Focus 脳が冴えわたる4つの集中」と「BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは」の2冊だという。
前者は脳のポテンシャルを引き出して記憶力・思考力・発想力・創造力を最大化する指南について、後者は変化の激しい時代を生き抜く術について掘り下げた作品。全世界がコロナ禍に襲われた2020年から「4Focus――」を読み始め、その後「BRAIN DRIVEN――」にも手を伸ばした。
「凄く面白かったです。『BRAIN DRIVEN』はめっちゃ難しくて、読み切るのにめっちゃ時間が掛かったんですけど、面白かったですね」
未曾有のコロナ禍の只中で、スポーツは不要不急のものと位置づけられた。活動を制限されたアスリートたちの中には、これまで信じて疑わなかったスポーツをやる意義やスポーツそのものの価値が揺らぎ、戸惑った人も少なくない。そんな時、高木がこの2冊に手を伸ばしたのも頷ける。
充電期間中の4月5日に行われた記者会見では「スケートを続けるかどうかを考えるべきだと思っていたけれど、スケートを滑ることに対して前向きに思っている自分がいると気付きました」と現役を続ける意向を示した。
5歳から続くスケートとの特別な関係。ここから歩む道の途中で成長に繋がるヒントが必要になった時、その足は自然と本屋を目指すのだろう。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)