リーガエスパニョーラ第37節エイバル対スポルティング・ヒホンの一戦は、ブルギのゴールで0-1とアウェーチームが勝利した。日本人MF乾貴士は先発出場し、77分までプレーしている。今季はここまで27試合に出場。残すは最終節バルサ戦のみとな…

 リーガエスパニョーラ第37節エイバル対スポルティング・ヒホンの一戦は、ブルギのゴールで0-1とアウェーチームが勝利した。日本人MF乾貴士は先発出場し、77分までプレーしている。



今季はここまで27試合に出場。残すは最終節バルサ戦のみとなった乾貴士 不思議な光景がエイバルの本拠地イプルアで繰り広げられた。主審の試合終了の笛が鳴り響くと、勝利を手にしたはずのスポルティング・ヒホンの選手たちはベンチで涙を流し、駆けつけたサポーター達は頭を抱え沈黙していた。レガネスがアスレティック・ビルバオと引き分けたことから、最終節を待つことなく、18位スポルティングのセグンダ(2部)降格が決まっていたからだ。

 一方、敗れたエイバルには笑顔があった。ホーム最終戦を勝利で飾ることはできなかったものの、目標であったプリメーラ(1部)残留は早々と決めていた。試合終了後には、クラブの規模に見合ったこじんまりとしたセレモニーが行なわれた。3シーズン連続のプリメーラ残留とチームの1年の働きをねぎらう、幸福な空気がそこにはあった。

 小さな花火の花道を通り、ピッチの真ん中に集う選手たち。そしてホセ・ルイス・メンディリバル監督を先頭に、スタンドの拍手に応えながら。紙吹雪が舞ったピッチを一周した。

 エイバルがそんな大団円を迎えていたまさにそのとき、ミックスゾーンではセグンダ降格で一番つらい思いをしているはずの選手たちに向けて、ヒホンの地元メディアのマイクが向けられていた。シーズン終盤、サッカーというフィルターを通して映し出される明と暗のコントラスト。喜びに満ち溢れる側に回ることができたならこれ以上幸せなことはない。だが、悲しみに押しつぶされる側に回った苦しさは、言葉では容易に伝えることができないものだ。

 幸福に包まれたエイバルにとっても悲しみはあった。それはここまでチームを牽引してきた選手の1人であるアドリアン・ゴンサレスが今季限りで退団することが正式に決まったことだ。

「いつまでも自分の心の中にエイバルはあり続ける」と話したマドリード出身のMFには交代時に大きな拍手が送られた。苦楽を共にしてきた選手がチームから去ることで生まれる虚脱感や寂しさを紛らわすような拍手がイプルアを包んだ。

 一方、乾にとってこの試合は悔いが残るものだった。左サイドを舞台に積極的にゴールを目指したが、無得点に終わった。

「エイバルの人々が自分に与えてくれる愛情に応えるためにもホームでゴールを決めたい」と普段から話している乾。自らのゴールで歓喜するイプルアのスタンドを夢見ていたからこそ、ホーム無得点でシーズンが終わることになった自身の不甲斐なさに腹を立てていたに違いない。

 リーガで成功した日本人。日本ではエイバルで2シーズン目の乾に対して、そんな評価が定着したように思える。だが、今シーズンも試合のたびに反省の言葉を口にする乾を見ていると、成功をつかむための挑戦を続けている印象のほうが強い。実際、今季も序盤は、出場機会に恵まれず、悔しい日々を過ごしていた。

 べべやルベン・ペーニャと争う左サイドは昨シーズン以上の激戦区であり、置かれた状況は決して楽観できるものではなかった。それでも守備面での意識改善や労を惜しまない運動量をブラッシュアップし続け、攻撃に関しても、ただ監督の指示を忠実に聞くだけでなく、いい意味でエゴイスティックなプレーを見せるようになった。

“いい子ちゃんの日本人選手”から”戦える日本人選手”と、乾は変貌を遂げた。メンディリバル監督の信頼も勝ち取り、今季はここまで27試合に出場(うち先発は25試合)と、開幕前に個人として挙げていた大きな目標のひとつである定位置確保は達成した。だが、もうひとつの目標であった二桁得点には全く手が届かないまま終わることになった。

 エイバルの2016~17シーズンは、次節、カンプ・ノウでのバルセロナ戦で終わりを告げる。リーガ優勝を目指す、本気のバルセロナとの対戦だ。もしその試合で日本人MFがゴールを決めることができれば……ホームでのゴール以上に、それはエイバルの人々を喜ばせるに違いない。