2022年1月から装い新たに始まったラグビーの新リーグ「リーグワン」。ディビジョン1に所属する12チームはレギュラーシーズン16試合を戦い抜き、そのなかの上位4チームがプレーオフに進出した。5月21日・22日にリーグ戦1位と4位、2位と3…

 2022年1月から装い新たに始まったラグビーの新リーグ「リーグワン」。ディビジョン1に所属する12チームはレギュラーシーズン16試合を戦い抜き、そのなかの上位4チームがプレーオフに進出した。5月21日・22日にリーグ戦1位と4位、2位と3位がプレーオフ準決勝で対戦し、決勝は5月29日に国立競技場で行なわれる。



S東京ベイが誇る韋駄天WTB根塚洸雅

 準決勝に駒を進めたのは、トップリーグ最多タイの優勝5回を誇る東京サントリーサンゴリアス(東京SG/リーグ戦1位)、最後のトップリーグを制した埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK/2位)、強力なFWを武器とするクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ/3位)、そして2009年度以来の頂点を目指す東芝ブレイブルーパス東京(BL東京/4位)の4チーム。

 5月21日に東京SG対BL東京の「府中ダービー」、翌22日に埼玉WK対S東京ベイが激突する。両試合とも見どころは多いのだが、今回はトップ4に残った強豪の「韋駄天」たちに注目してみたい。

 まず紹介したいのは、昨年3月に大学を卒業したばかりにもかかわらず、今季10試合に先発して4トライを挙げたS東京ベイのWTB(ウィング)根塚洸雅(ねづか・こうが/23歳)だ。

 兵庫県尼崎市生まれの根塚は東海大仰星→法政大で鋭いランを見せ、高校代表やU20日本代表などで脚光を集めてきた。今年は1シーズン目ながら22回のラインブレイクを記録し、日本代表や世界のトップ選手を差し置いて「ベストラインブレイカー」の個人タイトルを獲得した。

 今季いきなり活躍できた要因について、根塚はこう自己分析する。

「最初の一歩の仕掛けるタイミングや、相手との間合いをすごく気にしています。カウンターでは(前に立つ選手がFW選手という)ミスマッチがあったら思いっきり勝負しようと決めているので、それが結果につながっているのかな」

王道を歩む25歳のスターWTB

 もちろん、今季リーグワン新人賞候補の筆頭だ。根塚は新人王について謙虚な姿勢を崩さず、トレードマークである笑顔でこう語る。

「昨シーズン(ひとつ年上の同僚)金秀隆選手が獲っているのを見てうらやましかったし、自分も選ばれる選手になりたいと思っていました。だけど、試合をやるにつれて、そこを目指してというより、ひとつひとつの試合にフォーカスしているほうが(気持ちとして)大きい。

 チームがしんどい時でも、楽しもうという意識を持ってプレーしています。チームが乗っている時や自分がいいプレーをしている時は楽しんでいることが多いので、自然と出る笑顔は本心だと思います」

 1978年のスピアーズ創設以来、優勝の経験はない。若さとスピードが魅力の根塚ならば、きっとチームが苦しい時に勢いを与えるはずだ。

 S東京ベイと対戦する埼玉WKは今季、コロナ禍の影響で開幕2試合が不戦敗スタートとなった。しかしその後、14連勝を成し遂げてリーグ戦2位でプレーオフに進出。そのチームで「不動のWTB」として君臨しているのが、3シーズン目の竹山晃暉(25歳)だ。

 3歳からラグビー競技をはじめ、御所実業時代は花園準優勝を経験。帝京大でも1年生からレギュラーを張って7〜9連覇に貢献したスター選手である。ランだけでなく、パス、キックのスキルの能力も高く、的確な状況判断や決定力にも長ける韋駄天だ。

 強豪パナソニックでも加入早々に先発の座を掴み、1シーズン目は6試合で7トライ、2シーズン目は7試合で6トライを挙げて新人賞に選出。そして今シーズンは14試合中13試合に先発し、10トライを挙げてトライランキング3位タイに食い込んだ。

 昨季のトップリーグMVPに輝いた日本代表WTB福岡堅樹が、夢であった医者の道を志すためシーズン終了後に引退。それを経て迎えたシーズンだけに、同僚だった竹山はより意気込んで臨んだ。

「堅樹さんがいなくなって弱くなったと言われないように、チームの底上げをしないといけない。個人的にもプレーヤーとして、堅樹さんの穴を埋めたい。堅樹さんとは違う僕の見せ方をアピールできれば」

フィジーが生んだ怪物ランナー

 竹山はWTBのポジションながらトライを取るだけでなく、つなぎのプレーでも光を放つようになった。いろんなシーンで「積極的にボールを触ること」を意識し、ボール争奪戦でも目立つようになり、さらにはSO(スタンドオフ)としてプレーするなど成長の幅を見せた。

 昨季はプレーオフの前にケガを負い、優勝に貢献できず悔しい経験をしたという。フットボーラーとして大きく進化した竹山の「リーグワン初代王者」にかける思いは強い。

 一方、今季4シーズンぶりにベスト4に進出したBL東京からは、フィジー出身のWTBジョネ・ナイカブラ(28歳)に注目したい。ニュージーランド留学を経て来日を果たし、摂南大学時代には7人制日本代表にも選出。2018年のセブンズワールドカップでも活躍した生粋の韋駄天である。

 力強いランとスピード、ステップを兼ね備えたランナーで、自分の役割を「トライのチャンスでフィニッシュすること」と言うように、2018年から昨シーズンまでリーグ戦26トライを積み上げてきた。今シーズンも14試合に先発して9トライを取るだけでなく、クリーンブレイク数もリーグ4位の13回を記録するなど、アタック系のデータすべてにおいて上位にランクインしている。

「スピードとフィットネスでハードワークをして、(福岡)堅樹のように活躍したい」と話すように、ナイカブラの志は高い。個人で突破する能力が発揮されれば、優勝への可能性はさらに広がるだろう。

 そして最後に紹介する韋駄天は、日本のラグビー界を引っ張ってきた東京SGのWTB/FB(フルバック)尾崎晟也(せいや/26歳)だ。

 ユニチカでプレーした父の影響で3歳から競技を始めた尾崎は、伏見工業(現・京都工学院)時代から快足ランナーとして名を鳴らし、帝京大時代は9連覇に大きく貢献。大学在学中の2017年にはアジア勢との対戦で日本代表キャップも得た。

 ワールドカップイヤーの2019年春には、日本代表候補選手チームに選出され、6試合で5トライと気を吐いた。しかし、松島幸太朗や福岡とのポジション争いに敗れ、ワールドカップメンバーから落選した。

リベンジを誓った26歳の韋駄天

「2019年はスタンドから(ワールドカップを)見て悔しかった。2023年は絶対、日本代表に入ってワールドカップに出場したい」

 尾崎は強い気持ちを奮い立たし、ハードな練習に向き合ったという。そして、ランの鋭さや力強さはそのままに、タックル、ジャッカル、ハイボールキャッチの技術を磨き上げ、総合力の高いバックスリー(WTB/FBの総称)へと成長した。

 今季はオールブラックスFBダミアン・マッケンジーがチームに加入したため、WTBとしてプレーする時間が長かった。だが、「両方プレーできるのがベスト。今はプレーに自信がある」と胸を張るように、尾崎はWTBでもFBでも安定したパフォーマンスを見せた。日本代表CTB(センター)中村亮土が欠場した時はゲームキャプテンも務めるなど、リーダーシップも発揮していた。

 今回取り上げた彼ら4人は、来年のワールドカップメンバーを見越した2022年ラグビー日本代表候補に選出されている。ナイカブラは昨季に続いての代表入りだが、根塚と竹山はキャリア初、尾崎も社会人になってから初の選出となった。

 2023年9月にフランスで開幕するワールドカップまで、残り1年半を切った。初代リーグワン王者に貢献し、存在を大きくアピールする韋駄天は誰だ。