天国から地獄とは、まさにこのことだった。 初開催のマイアミGPで、角田裕毅は今季初の予選Q3進出を果たした。ただし、角田が喜んだのはその結果ではなく、金曜からの"内容"だった。「今日の内容にはとても満足です。特にFP1からかなり苦しんでい…

 天国から地獄とは、まさにこのことだった。

 初開催のマイアミGPで、角田裕毅は今季初の予選Q3進出を果たした。ただし、角田が喜んだのはその結果ではなく、金曜からの"内容"だった。

「今日の内容にはとても満足です。特にFP1からかなり苦しんでいたので、ここまで挽回できたのはよかったと思います。

 実際、今回もFP1ではかなり苦しんでいましたし、そこからうまく挽回することができたのは、僕自身としてもこれまでのF1のなかでもベストと言える、レース週末でのステップの進め方でした。もし去年の僕だったら、FP1ですでにウォールに刺さっていたと思います。自分でもすごく自信になりました」



初開催のマイアミGPを12位で終えた角田裕毅

 アルファタウリの2台は、金曜フリー走行でグリップ不足に苦しんだ。

 路面自体はシルバーストン並みのグリップがあるものの、それを引き出すことができない。さらにはレーシングラインを少しでも外れるとダスティでグリップが低く、カルロス・サインツ(フェラーリ)やエステバン・オコン(アルピーヌ)のように激しいクラッシュを喫するリスクもあった。

「路面は予想していたよりも、かなりスリッパリーでした。レーシングラインからタイヤ1本分でもはみ出ると、大きくグリップを失ってスナップしてしまうような状態でした。

 走り始めの路面はかなりダーティで、20台のマシンが走り込んだとは言ってもみんな理想のラインはひとつなので、そのライン以外はまだダーティなままなんだと思います。でも、サーキットレイアウトはかなり特殊で、ドライバーとしては走っていて楽しいサーキットでした」(角田)

 金曜から土曜にかけてセットアップを大きく変更したものの、FP3でもまだマシンは完調とは言えず、「Q3に行けるか行けないかくらいだと思っていた」という。しかし、予選に向けて加えたさらなるセットアップ変更が当たり、アルファタウリは2台揃ってQ3に進出。ピエール・ガスリーも「今季最高の予選」と語り、角田にとっても今季初のQ3進出となった。

ガスリーのマナー違反にも冷静

 だが、一度しかないQ3の新品ソフトタイヤでのアタックは、完璧とは言えなかった。

「アウトラップでトラフィックに引っかかってしまって、タイヤの温度が冷めてしまってセクター1を思うようなグリップで走ることができなかったんです」

 その"トラフィック"とは僚友ガスリーのことだ。ターン7でインに入られ、前に行かれてしまった。

「結構無理に抜かれてしまったんで、それもいい学びになったなと思います。次はさせないようにというか、いいことを学ばせてもらったなと思います。行かせてしまったのも自分の責任ですし」

 マナー違反に当たるこのドライビングだが、角田は自ら名指しで批判することはしなかった。うまくいかなかったことに対し、自分のなかによくなかった点を見つけ出そうとする。これはレーシングドライバーとして大きな成長であり、今後さらに成長するために欠かせないスタンスでもある。

 予選の失敗からスプリントレースと決勝で順調に挽回を果たした前戦エミリア・ロマーニャGPに続き、今回も苦境のなかでこそ角田の成長がはっきりと見えた。

 決勝ではトップ10圏内でさらに飛躍が期待されたが、現実は真逆となってしまった。

「最初からペースがまったくなく厳しい状況で、タイヤのグリップもまったくない状態で最初のスティントを終えました。なぜなのかはまったくわかりません。イモラとは真逆の状況でした」

 ミディアムタイヤでペースが伸び悩む角田は、状況を打開すべく11周目に早めのピットイン。しかし、ハードタイヤに履き替えてもペースは思わしくはなく、ウイリアムズに引っかかって抜けない状況が続いた。

「そもそもペースがなかったので難しかったですね。ハードに換えた後もペースが上がらなかったので、何だったのかはこれから分析する必要があります。症状としてはオーストラリアGPの時と同じような感じだったので、そこはチームと一緒にしっかりと確認していきたいと思います」

 予選とは真逆のパフォーマンスにショックを受けるほどのレースを終えて、角田は言葉少なにそう語った。

地獄から這い上がって強くなる

 最後のセーフティカー導入でソフトに履き替え、ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)を抜き返してからのフリーエアでは、中団上位勢を上回るペースを刻んでいた。だが、前で接触やリタイヤの混乱があっても、入賞圏に届かず12位。角田にとっては慰めにもならなかった。

 ガスリーもペースの上がらないマシンでなんとかフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)を抑えて、実質7番手のポジションを守っていた。しかし、レース後半に入ってからのペース不足は明らかで、アロンソに追突されて結果的にレースを失うこととなってしまった。



マイアミGPを制したのはレッドブルのフェルスタッペン

 パフォーマンスがいいほうに振れる時も悪いほうに振れる時も、アルファタウリはまだこの2022年型マシンを完全に理解しきれていない向きがある。前戦イモラでのフロアアップデートによってマシン性能の底上げができたとはいえ、大接戦の中団グループでしっかりとポイントを積み重ねていくためには、このマシン理解をさらに深めることが急務となる。

 予選から決勝へ、そして前戦の快走から今回の低迷へ。天国から転げ落ちた地獄のなかで徹底的に苦しみ抜いて、そこから這い上がることで、アルファタウリと角田はさらに強くなるはずだ。