今季、3000m障害では初レースとなった三浦龍司(順天堂大)は、5月8日のセイコーゴールデングランプリで優勝し、昨年の東京五輪7位入賞の力を見せた。 その東京五輪では、初出場ながら8分09秒92の日本記録を出して、日本の3000m障害に新…
今季、3000m障害では初レースとなった三浦龍司(順天堂大)は、5月8日のセイコーゴールデングランプリで優勝し、昨年の東京五輪7位入賞の力を見せた。
その東京五輪では、初出場ながら8分09秒92の日本記録を出して、日本の3000m障害に新しい歴史を刻んでいる。そして冬の駅伝シーズンを経て、トラックシーズンを迎えた。
駅伝シーズンを経て、3000m障害でしっかりと結果を出した三浦龍司
スタートから4番手あたりについてレースを進め、1000mをすぎてからは高校時代から競り合ってきたルトフィレモン・キプラガット(愛三工業)に次ぐ2番手に。そして2000m通過直後の水壕手前から前に出ると、それまでの1000mのタイム2分53秒を2分41秒に上げてキプラガットを突き放し、5秒02差をつける8分22秒25で勝利した。
このレースを三浦はこう振り返る。
「今日のレースプランとしては、ラスト1000mで切り替えて上げられるところまで上げようというのがありました。そこまでは、意図的に集団のなかでレースを進めていましたが、危ないという場面はあまりなかったので、レースにしっかり合わせることができたかなと思います」
前日の会見では「タイムの目標は考えていないですが、最低でも8分30秒を切るペースにはなると思う」と話していたが、結果は世界選手権の参加標準記録にあと0秒26まで迫る好記録。
それでも三浦は冷静だった。
「8分22秒も思っていたよりうれしくなかったです。ラストで逃げきれてしっかりまとめられることができたのは評価したいですが、タイムはもっと目指していかなければいけないと思う。それでも初戦なのでこれくらいかなとも思います」
東京五輪のあとは、9月の全日本インカレで3000m障害に出場して優勝したが、そのあとは駅伝シーズンに入り、全日本大学駅伝や箱根駅伝と、長い距離を走り込むようになった。三浦はそれを、「脚作りや走り込みができた鍛錬期」と捉えていた。
そして今季、シーズンインをしてからは、4月9日の金栗記念選抜陸上で1500mに出場して遠藤日向(住友電工/5月4日のゴールデンゲームズ延岡の5000mで、世界選手権参加標準タイムを突破する日本歴代2位の記録で優勝)とゴール前まで競り合って0秒10差で勝ち、日本歴代2位の3分36秒59を出した。
さらに29日の織田幹雄記念陸上の5000mでは「自己記録の13分20秒を狙っていた」と話したが、強風で集団のペースが上がらないなかでも余裕を持って走り、最後のスパートで東京五輪代表の松枝博輝(富士通)に0秒76差で競り勝ち、13分32秒42で優勝。
「相手の実力も、自分はどれだけ通用するかもわかっていたので冷静に判断できました。微妙な勝負でしたが、仕掛けるタイミングがよければ勝てるとわかっていました。そこは金栗の1500mで少し学んだところだったので、うまく生かせました」と、スタミナ強化の成果も見せた。
そんな底力アップへの手応えにも、先を見据えこう分析している。
「スピード強化に関しては1500mで自己ベストを出せたことでいい具合にきているかなと思うけれど、それを海外勢との試合で出すとなると自分の力でというか、ゲームメイクをする力がもっと必要になると思う。1500mの瞬発力やスピードと、3000m障害でレースを自分で作っていくスピードとはまた別。そこはまだシーズンが始まったばかりで手探りの部分ではあります」
そんな三浦にとって今回のグランプリは、これまでの鍛錬期の成果を試すという意味もあった。
そのレースでしっかり自身の成果を認める走りができた三浦だが、これからの課題についてはこう話す。
「ラスト1000mはハードリングもまだ合っていない感覚があったので、越えるときにハードルに足を掛けたところもありました。ラストのスピードが上がりきったところは足をかけないでハードルを越えないとスピードを殺してしまうので、そこは技術的な向上も必要だし、これから場数を踏むことでハードルとの距離感などもつかんでいかなければいけないと思っています」
慎重な言葉の裏には、昨年の東京五輪で7位になったとはいえ、「世界のトップはまだまだ強い」ということを体感したからだ。
「東京五輪に出てきた選手たちがフルメンバーかと言えばそうではないし、自分も今年はある程度は頭打ちのような状態になるかとも思っていて、現実を知る1年になるのではと思っています。実際に自己ベストの8分09秒も、そんなに簡単に出せる記録ではないと思っているし、もし同じくらいの記録を出せたとしても、国際大会で表彰台に上がったり、入賞するというのは簡単ではないと思っています。
期待に応えたいという気持ちはもちろんありますが、あまり非現実的な目標を立てても仕方ないかなと思います。だから今年は、タイムと勝負の時の順位は区別しながら、自分で目標設定をしていきたいと思います」
今回、前半を抑えて集団の中で走り、ラスト1000mからペースを切り替える走りをしようとしたのは、世界大会では遅いペースで始まり、終盤から一気にペースアップするレース展開が多いからだ。「先勝集団がペースをきり替えた時や、自分で(前に)出なくてはいけないという場面で、最後まで押しきったり差しきる力、ゲームメイクをする力というのは必要になってくると思うので、それをやってみる意味もありました」と説明する。
「今までの自分のレースから見ればイレギュラーな展開でしたが、そのなかでレースを楽しむことができたし、『こういう展開の方法もあるんだ』という自分のなかの引き出しにもなったので、大きな収穫になったと思います」
3000m障害で勝負して、世界大会でのメダル獲得を目標にする三浦。次のパリ五輪へ向けて、まずは今年の世界選手権へ、冷静に自分の走りを作っていくところだ。