世代トップを走り続けている「サトケン」こと早稲田大ラグビー部2年・佐藤健次が、ついに「2番」を背負ってピッチに立った。 5月1日、北海道・札幌ドームにて関東大学春季交流大会グループAの早稲田大対明治大が行なわれた。「春の早明戦」は両校とも…

 世代トップを走り続けている「サトケン」こと早稲田大ラグビー部2年・佐藤健次が、ついに「2番」を背負ってピッチに立った。

 5月1日、北海道・札幌ドームにて関東大学春季交流大会グループAの早稲田大対明治大が行なわれた。「春の早明戦」は両校ともに、今季初となる公式戦。伝統の一戦は今年も最後まで競った展開となったが、最後は明治大が26−19で春の対決を制した。



注目の早明戦にHOとして出場した佐藤健次

 早稲田大は12点差から19−19まで追いついたものの、惜しくも僅差で敗れた。そのなかでも注目されたのは、昨季1年生ながらNo.8(ナンバーエイト)として関東対抗戦に全試合出場して6トライを挙げた佐藤の存在だ。今季は「2番=HO(フッカー)」に転向し、早明戦でデビューとなった。

 満面の笑顔でグラウンドに入場した佐藤は、試合をこう振り返る。

「(新しいチャレンジを)最初、楽しもうと思っていました! 今まで8番だったので(FWのなかでは)後ろにいましたが、2番だと試合のなかで『ここぞ』っていう場面のセットプレーにおいて重要なポジションなので、楽しみが増えましたね!」

 中学時代からパワフルなボールキャリーで名を馳せていた佐藤は、桐蔭学園でウィングからFWに転向。高校屈指の1年生No.8として全国高校ラグビー大会で準優勝に貢献し、2年時と3年時は連覇を達成した。つまり、花園では1回しか負けずに卒業している。

 ただ、身長177cmの佐藤はバックロー(フランカーやNo.8の総称)としては世界的に大きくないため、高校時代から「2番に転向しては?」と言われていた。それらのことも踏まえ、早稲田大学に進学した佐藤は意を決し、希望ポジションを「HO」と書いて提出した。

 昨季から早稲田大を率いることになった大田尾竜彦監督は、1年生の佐藤をNo.8として試合に出場させた。理由は「大学ラグビーに慣れさせるため」。一方、佐藤も今後の転向を見越して、ラインアウトのスローイングの練習を重ねるなど準備をしていたという。

No.8→HOで大成した選手は?

 昨季の早稲田大は、対抗戦では10度目の大学王者に輝いた帝京大に敗れて2位。大学選手権では準々決勝で明治大に敗北を喫し、年越しができずにシーズンを終えた。敗因はフィジカルで、ライバル勢に劣っていたのは明白だった。

 そして今季、大田尾体制2年目を迎えるにあたり、佐藤は自ら「2番で行かせてください!」と指揮官に伝えると、監督もそれを承諾。双方の意見が合致し、今季からHOとしてプレーすることになった。

 あらためてHOに転向した経緯を聞くと、佐藤は「やっぱり僕の(ラグビー選手として)最終的な目標は、日本代表のキャップを取ることです。背丈もないですので、HOは自分に合っているポジションなのかなと思います。器用なHOになって、日本代表という目標に近づけられればいいな」と話した。

 No.8からHOに転向し、日本代表として大成した器用な選手として真っ先に思い浮かべるのは、やはり堀江翔太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)だろう。

「堀江選手はうまい選手で、しかも強さもある。堀江選手からは吸収する部分がとてもあるのでプレーもよく見ています。目標としている選手は(オールブラックスの若きHO)アサフォ・アウムアです」(佐藤)

 2月中旬から新チームがスタートし、HOとなった佐藤はラインアウトのスローイングや最前列で組むスクラムの練習に精を出してきた。さらに、帝京大のフィジカルに負けないために「春は体を大きくすること」をテーマに掲げ、大学入学時に90kg台だった体重を110kgまで増やした。「まだ動けるので、もう少し増やそうかな」と、さらに体を大きくする予定だという。

 そのHOとしての成長を見る機会が、この「春の早明戦」だった。転向してわずか3カ月あまり。佐藤のプレーは十分に及第点を挙げることのできる内容だったと言えよう。

 大田尾監督は「筋力的なフィジカルレベルも高く、佐藤にはスクラムの要、攻守の要として期待したいなと思っています。今日はその片鱗を見せてくれたんじゃないかな」と高く評価し、キャプテンのNo.8相良昌彦も「本当に短い時間でセットプレーもフィールドプレーも仕上げてきていて、本当に一流の選手だと思います」と佐藤の出来を称えた。

桐蔭学園出身HOが多い対抗戦

 前半早々、佐藤はラインアウトのボールを明治大の190cmを越える長身LO(ロック)に2回連続スチールされるなど、安定感を欠くプレーも見られた。それに対し、試合後の反省も欠かせない。「スローイングはまだ始めたばかりですが、しっかり(課題を)持ち帰って、球の種類などひとつひとつのディティールにこだわってやっていきたい」(佐藤)

 一方、スクラムではコラプシング(スクラム、ラック、モールを故意に崩す行為)の反則を一度取られたものの、しっかりと組めている場面が多かった。佐藤自身も手応えを感じていたようで「自分の引き出しが多くない。だから(元日本代表プロップの)仲谷(聖史)コーチもいるので、引き出しをもっと多くしてスクラムを安定させるHOを目指していきたい」と前向きに捉えていた。

 これからの対抗戦を見据え、「(相手チームには)桐蔭学園出身のHOが多い」と語る佐藤は、先輩・同期とのマッチアップを楽しみにしているという。

 今回の試合でも2学年上の明治大HO紀伊遼平(4年)と相対して、「スクラムのなかで話す機会がありました!」。筑波大には1年先輩のHO平石颯(3年)、さらに慶應義塾大には一緒に花園連覇を成し遂げた同級生のHO中山大暉(2年)もいる。

 早稲田大の今季の目標はもちろん、打倒・帝京大、打倒・明治大、そして大学王座を奪還することだ。佐藤は「機動力はNo.8のまま、セットプレーを安定させるHOになりたい。そして2年生になったので、しっかりとチームを勝たせる選手にならないといけない」と意気込む。

 日本代表になるため、そして世界で戦える選手になるため、佐藤は「2番」として新たな道を歩み始めた。

「あらためて(HOというポジションは)楽しかったです! 明治大に負けたことは悔しいですが、スローイングやスクラムで課題が出たので、すごく意味のある試合だったと思います。この負けが最終的に自分を成長させてくれたと思えるようなシーズンにしたい!」

 そう言って、佐藤はトレードマークである大きな笑顔を見せてくれた。