スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月7~14日/賞金総額543万9350ユーロ/クレーコート)の男子シングルス準決勝で、第4シードのラファエル・ナダル(スペイン)が第2シードのノバク…

 スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月7~14日/賞金総額543万9350ユーロ/クレーコート)の男子シングルス準決勝で、第4シードのラファエル・ナダル(スペイン)が第2シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)を6-2 6-4で下し、決勝進出を決めた。

 前日の準々決勝で非常にハイレベルのテニスを見せていたナダルは、その勢いを維持。ジョコビッチも第2セットが進むにつれ、じりじりとプレーレベルを上げ、終盤はより接戦となったが、ナダルがプレッシャーを押し返しストレートで振りきった。

 ナダルとジョコビッチの対戦は今回が50回目で、これはオープン化以降の時代における、ふたりの選手間の対戦数で最多となる。2014年全仏決勝以来、ここ7試合連続でジョコビッチに敗れていたナダルは、この勝利で連敗に終止符を打ち、対戦成績を24勝26敗とした。

「ジョコビッチ相手に、何度も負けた。でもその敗戦は、何らかの理由のもとに起きたのかもしれない」とナダルは言う。◇     ◇     ◇

 ナダルの復活は、今回こそ本物であるようだ。世界2位のジョコビッチを相手に、序盤、試合を完全に支配したナダルは、第1セットの第1ゲームでブレークを果たし、面白いようにポイントを重ねていく。深いストロークでジョコビッチを下げてから、鋭角のフォアハンドの逆クロスを決めてナダルが2度目のブレークを果たすと、観客席は早くも轟音を立て始めた。

 ナダルが第1セットで5-1とリードを奪ったときには、ジョコビッチが以前にどうやってナダルに勝っていたか、思い出せないほどだった。しかしそこから、状況は少しずつ変わり始める。

 第1セットを2-6で落としたジョコビッチは、第2セットでも最初のサービスをブレークされるが、次のゲームで競り合い始めたあたりから、ストロークがより正確になり始めた。ナダルの甘いリターンを叩き、ラリーの末にバックハンドのクロスを決めて、この試合初のブレークポイントをつかんだジョコビッチは、ナダルのショットがやや浅くなったところをバックハンドでクロスに叩き、ブレークバックに成功する。

「第1セットには、すごくいいプレーができた。フォアもバックも決まったし、サーブもよかった。出だしにああもいいプレーをしたので、すべてをコントロール下においていると感じていたが、第2セットは違った」とナダルは振り返った。

「第2セットに入ってから、僕は少しナーバスになった。ボールが少し短くなってしまい、ラリーでコースを変える頻度も減ってしまった。フォアでよりダウン・ザ・ラインを狙っていくべきだった。ジョコビッチに対しては、コンスタントにコースを変え続けることが不可欠なんだ」

 それはまた、ジョコビッチがより正確に、より厳しいところをつき始めたからでもある。

「テニスとはそういうものだ。ひとりが押し始め、ラリーの主導権を握ると、もう一方が引き、受け身になることを強いられる。この主導権の奪い合いが、戦いの基本なんだ」

 ジョコビッチは、昨年のローマ(ATP1000)で錦織圭(日清食品)に辛勝したあと、こう言っていた。こうして、どちらが主導権を握るかの、より激しい凌ぎ合いが始まるのである。

 ジョコビッチは、ブレークバックした直後の自分のサービスゲームをふたたびブレークされるのだが、プレーの内容は、間違いなくより競ったものになっていく。故障による休止を経て大会に戻ったジョコビッチは、本調子ではなかったかもしれない。しかしナダルとやり合ううちに、真のジョコビッチが、じりじりと頭をもたげ始めた。

 お互いに厳しいコースを突き合いながら、長く激しいラリーが続く。ナダルを相手にした選手は、決めたと思ったショットが返ってくるために、不意を突かれることがよくあるが、第2セット終盤では、ナダルが決めたと思ったボールをジョコビッチが切り返し、ナダルが不意を突かれる場面さえあった。

 こうして、リードしているにも関わらず、ある種のプレッシャー下に置かれたナダルは、5-4からの自分のサービスゲームで、ジョコビッチから最後の厳しいチャレンジを受ける。しかし彼は、そこから勝者として抜け出る強さを持っていた。一時はブレークポイントを握られ、互いに際どいところを狙い合う、息詰まるようなラリーが続いたが、ナダルは長く激しいラリーの中で突如、ドロップショットを放つ度胸を見せて、この危機から脱出。最後は前に出ようとするジョコビッチにミスを強い、6-4でセットと試合に終止符を打った。

「第2セットはより拮抗しており、どんなことも起こり得た」と振り返ったとおり、ナダルには、そこで締めなければどう転ぶかわからない、ということがわかっていたのだろう。そして7連敗しているという事実も、多少は心に影を落としていたようなのだ。

「大舞台では、いいプレーをしているときでさえ、勝てないことがある。そう知りつつ、僕はコートに向かったが、今日、僕は勝ちきることができた。ナーバスになったのは、これが僕にとって、すごく重要な試合だったからだ。僕は彼に連敗していた。その悪い連鎖を絶ちきろうとするときには、少しナーバスになってもおかしくないだろう?僕はここにきて、そう正直に言うだけの謙虚さを持っている」と試合後、ナダルは言っている。

「特に最後のゲーム、40-15から巻き返され、ブレークポイントを握られてしまったときは、僕にとって本当に厳しい瞬間だった。でも僕は次のポイントを取るため戦い続け、最終的に勝つことができた。ノバク相手にこのスコアで勝ったなら、僕はいいプレーをしていたに違いない。これは大きな自信になるよ」

 一方ジョコビッチは、「今日、ラファは明らかに僕よりすぐれた選手だった。彼は勝利に値する。彼は最初から最後まで、試合の手綱を握っていた」と潔く認めた。

「第2セットはより競り、2-2からリードを奪うチャンスもあったが、競り合った末にブレークされてしまった。でも、全力は尽くしたよ。特に第1セット、多くのアンフォーストエラーをおかしてしまったから、僕の側の質は、すごく高かったとは言えないけどね」

 とはいえ、故障上がりのジョコビッチにとって、これはいい再出発だったようだ。

「ふたたび大きな大会の準決勝で、人生最大のライバルのひとりと戦う、というのはすごくいいものだった。もう何ヵ月も、この感覚を味わっていなかった。素晴らしいフィーリングだ」とジョコビッチは振り返った。

「とてもポジティブな一週間、ポジティブな経験だった。来たるローマに向け、ネガティブなことよりポジティブなことに注意を向けるよ。このままよりよく、より強くなっていきたいね」

 ナダルは全仏オープンの優勝候補か、と聞かれ、ジョコビッチは即座に肯定した。一方ナダルは、「君ら記者たちはそういう予想が好きだが、そういうことは、根本的にはナンセンスだ」と言う。「唯一の優勝候補は、その2週間に、本当にいいプレーをする者だ。誰であれそれをやってのけた者が、2週目の日曜日にトロフィーを勝ち獲る。僕はいいプレーをしている。いい形で年を始めた。僕は今、重要な大会の、重要な決勝に至った。僕が考えているのはそれだけだ。ほかのことは、どうでもいい」。

 それでも見る者たちは、王者の復活について話し続けるだろう。1月の全豪オープンでロジャー・フェデラー(スイス)に起きたことが、クレー上でナダルに起きるかもしれない――この試合に漂っていたのは、そんな予感だ。(テニスマガジン/ライター◎木村かや子)

※写真は「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000)の準決勝で世界2位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)を倒した、4位のラファエル・ナダル(スペイン)

Photo: MADRID, SPAIN - MAY 13: Rafael Nadal of Spain is congratulated by Novak Djokovic of Serbia after winning the semi-finals match during day eight of the Mutua Madrid Open tennis at La Caja Magica on May 13, 2017 in Madrid, Spain. (Photo by Denis Doyle/Getty Images)