冬の全国高校ラグビー大会で聖地「花園」を沸かせたスター高校生たち。季節は春になり、彼らは東西のラグビー強豪大学へと進学した。 高校屈指だった選手たちも、大学で壁にぶつかることは少なくない。しかし、なかには早くも才能を発揮し、大学デビューを…

 冬の全国高校ラグビー大会で聖地「花園」を沸かせたスター高校生たち。季節は春になり、彼らは東西のラグビー強豪大学へと進学した。

 高校屈指だった選手たちも、大学で壁にぶつかることは少なくない。しかし、なかには早くも才能を発揮し、大学デビューを果たした選手もいる。そこで今回は、高校を卒業したばかりの注目大学生ルーキーを5人ほどピックアップしてみた。



倉敷高のティポアイールーテル・ラリーは関東学院大に進学

 4月10日、東京・秩父宮ラグビー場で東日本大学セブンズが3年ぶりに開催。明治大が筑波大を21−17で下して4連覇を飾ったが、決勝トライを挙げたのが1年生のWTB(ウィング)山村和也(兵庫・報徳学園)だ。リコーブラックラムズ東京でプレーするWTB山村知也は6つ違いの兄である。

 昨年度の花園、報徳学園は3回戦で敗退。優勝した東海大大阪仰星に敗れた。しかしながら、181cmの身長を生かしたステップとスピードを武器とする山村の存在感は大きく、セブンズのユースアカデミーに選ばれるだけでなく、15人制でも高校日本代表候補に選出された。

 SO(スタンドオフ)仲間航太(大阪・常翔学園)やCTB(センター)東海隼(滋賀・光泉カトリック)など、明治大には今年も有望な1年生が入ってきた。だが、そのなかで山村は唯一メンバーに選ばれ、さっそく紫紺のジャージーを身にまとっている。

「スピードを生かしたプレーでチームの勝利に貢献できてよかったです! すばらしい先輩方がたくさんいるので、盗めるところをたくさん盗んで、15人制でも紫紺のジャージーを着て試合に出続けられるように頑張ります」。入部早々、タイトル奪取に貢献した山村は初々しくこう話した。

 ふたり目は、筑波大のSH(スクラムハーフ)高橋佑太朗(茨城・茗渓学園)。4月17日に開幕した関東大学ラグビー春季大会の慶應義塾大戦で、途中出場ながらいきなりデビューを果たした逸材だ。

筑波大に世代を代表するSH

 茗渓学園中の頃から名の知られた高橋は、高校1年時からSO黒川和音(早稲田大)とハーフ団を組み、3年時はキャプテンとしてチームを牽引。ただし花園では、2年時は優勝した桐蔭学園、3年時は報徳学園に1回戦で敗れ、残念ながら結果を残すことはできなかった。

 ボールへの寄り、そしてパスのスピードと長さは、すでに一級品。高校日本代表候補に選ばれるだけでなく、セブンズユースアカデミー、さらに高校生ながらU20日本代表候補にも名を連ねるなど、関係者の耳目を集めてきた。

 高橋は間違いなく世代を代表するSHであろう。同じく慶應大戦に出場した1年生SO楢本幹志朗(福岡・東福岡)とハーフ団を組み、これから筑波大の勝利に寄与していくはずだ。

「自分の持ち味であるラックへの早い仕掛けと球さばきは出せたが、相手のプレッシャーに負けてミスをしてしまった。(大学では)ラックへのプレッシャーが強くなってもきれいな球さばきができるようにやっていきたいです」(高橋)

 昨年度の大学選手権で3年ぶり10度目の優勝を果たした帝京大には、今季も36名もの有望な新人が加入した。そのなかでも「将来の10番を背負う」と期待されているのが、長崎北陽台出身のSO大町佳生だ。

「公立高校の雄」として知られる長崎北陽台ではSH川久保瑛斗(東海大1年)とハーフ団を組み、高校2年時は花園で3回戦、高校3年時はキャプテンとしてベスト8進出に貢献した司令塔だ。身長173cmと決して大きくはないが、パス、キック、ランのスキルは高く、スペース感覚にも長けている。

 今年3月に静岡・エコパスタジアムで行なわれた高校日本代表候補同士のエキシビションマッチでも、大町は赤組(レッドブロッサムズ)のキャプテンとして出場。冷静な判断で2トライに絡み、チームを勝利に導いてプレーヤー・オブ・ザ・マッチにも輝いた。

「(日本代表がアイルランド代表を下したスタジアムで試合を行ない)自分にとってターニングポイントになった場所です。桜のエンブレムのついたジャージーを着て活躍するSOになれるように頑張りたいです!」(大町)

 帝京大の同じポジションには、昨年度の優勝に大きく貢献した副キャプテンのSO高本幹也(4年)がいる。まずは彼に勝負を挑み、10番を着ることが大きな目標となるだろう。

早稲田大には高校随一のCTB

 4人目は、昨年度の大学選手権で正月越えを果たせなかった早稲田大から。今季加入した30名の部員のなかに高校随一のビッグネームがいる。東海大大阪仰星を6度目の花園優勝に導いたCTB野中健吾だ。

 父の後押しで5歳からラグビーをはじめ、兄は清水建設江東ブルーシャークスに在籍するCTB野中亮志。彼らの影響もあってメキメキと頭角を現し、昨年度は夏のセブンズ全国大会で優勝、さらには花園でも兄と同様に日本一となった。

 特に花園では、身長181cm体重94kgと恵まれた体格を持つ野中のプレーは攻守に際立っていた。大阪府予選から3回戦まで相手を無失点に抑えるディフェンスに貢献し、アタックでは2回戦でハットトリックを達成。ライバル東福岡との準決勝では17得点を挙げるなど、大会MVP級の活躍だった。

「兄からは『自己実現するためには、自分を貫くしかない』と言われていました。大学でも文武両道を頑張りたい」

 ラグビーと勉強を両立し続けていた兄を尊敬し、早稲田大への進学を選んだ。

 早稲田大の新キャプテンに就任したFL(フランカー)相良昌彦(4年)も「体格もあるので期待しています」と語るように、縦に強い野中の存在が早稲田大の高速バックスのアクセントになりそうだ。

 そして最後は、日本代表FLリーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)の後継者になる可能性を大いに秘めた選手を紹介したい。

 昨年度、岡山・倉敷高は花園初出場を果たした。その立役者が、この春に関東学院大に入学したNo.8(ナンバーエイト)ティポアイールーテル・ラリーだ。身長192cm体重112kgという見事な体躯を誇り、もちろん高校日本代表候補にも選出された逸材である。

 サモア代表の父を持ち、兄はアイルランド代表CTBのバンディ・アキ。サモア生まれで10歳からニュージーランドにわたり、当初は「日本に来ることは全然考えていなかった」のだが、U14オークランドのコーチが倉敷高・梅本勝監督の知り合いだった縁もあり、「日本で勝負しよう」と来日した。

関東学院大にリーチの後継者

 当時の倉敷高のラグビー部員は、ラリーを含めて6名からスタート。それが年々増えて33名となり、昨年度初めて花園の舞台に立った。初戦で大分舞鶴に敗れたものの、ラリーは「1年生から花園を目指し、今までやってきたことを全力でやった」と大きな胸を張った。

 ラリーはサモア代表ではなく、日本代表を目指している。父や兄からは、毎日のように「桜のジャージーを目指せ! 日本代表になりたいなら自主練をしとけ!」と言われているという。アイルランド代表のアキと日本代表で対戦するのが「ゴールです」と意気込む。

 外国人選手が日本代表の資格を得るためには、2021年12月末から5年居住が必要になった。ラリーが大学3年生になるころ、桜のジャージーを着る権利を得る。まずは昨年度リーグ戦4位だった関東学院大で1年生から活躍し、大学選手権出場に貢献したい。

 4月24日に行なわれた関東大学ラグビー春季大会の流通経済大戦に、ラリーはさっそく8番を背負って先発。18歳らしからぬ存在感を示していた。

 今春に入学した彼らは、高校1年生の時に日本で開かれたワールドカップを目の当たりにした世代だ。「日本代表になりたい」という志を胸に、これから大学での新たなステージを戦う。そこでレギュラーの座を勝ち獲り、チームの勝利に貢献することが、桜のジャージーへの近道となろう。