試合終了のホイッスルが鳴ると、チェルシーの選手たちが一斉に歓喜の雄叫びを上げた。 優勝に王手をかけていた第37節のWBA戦を1−0で勝利し、チェルシーが2季ぶりとなるリーグタイトルを獲得した。就任1年目のアントニオ・コンテ監督は、ベン…

 試合終了のホイッスルが鳴ると、チェルシーの選手たちが一斉に歓喜の雄叫びを上げた。

 優勝に王手をかけていた第37節のWBA戦を1−0で勝利し、チェルシーが2季ぶりとなるリーグタイトルを獲得した。就任1年目のアントニオ・コンテ監督は、ベンチから飛び出して選手たちと次々に抱擁。アウェーマッチまで駆けつけたサポーターも、「チャンピオン!」の大合唱とともに勝利の美酒に酔いしれた。



選手たちとプレミア優勝を喜び合うアントニオ・コンテ監督(中央) リーグ10位と散々な成績で昨季を終えたチェルシーは、今季からイタリア人のコンテ監督を新指揮官に迎えた。2016年の欧州選手権で旋風を巻き起こしたイタリア代表の指揮官として実績は高く評価されていたが、マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督やマンチェスター・ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョ監督に注目が集まり、シーズン開幕前の下馬評は必ずしも高くはなかった。

 ところが、消化試合がひとつ少ない2位トッテナム・ホットスパーに勝ち点10差をつけ、2試合を残してリーグ優勝を決めた。第12節で初めて首位に立つと、それ以降一度もトップの座を譲ることなく戴冠まで突っ走った道程を踏まえても、今季のプレミアリーグは紛れもなく「チェルシーの圧勝」だった。

 とはいえ、シーズン序盤は苦戦を強いられた。開幕当初は守備に隙が散見され、第6節までに9失点を献上。第5節リバプール戦(1−2)と第6節アーセナル戦(0−3)で連敗すると、英メディアではコンテ監督の解任論さえ浮上した。すると、イタリア人指揮官は第7節のハル・シティ戦から、それまでの4−1−4−1から3−4−2−1へシステムを変更。この3バックへの移行が吉と出た。

 足かせだったディフェンスはここから著しく改善し、6試合連続のクリーンシート(無失点試合)を達成。怒濤の13連勝で白星を積み上げていった。「今季のターニングポイントをひとつ」と問われれば、間違いなくこの3−4−2−1へのシステム変更になる。

 こうしたコンテの「戦術的柔軟性」が、既存戦力の持ち味を最大限まで引き出したことも優勝の一因だ。もっとも恩恵を受けたのは、ベルギー代表MFのエデン・アザールだろう。これまでは左サイドMFとしてタッチライン近くでプレーすることが多かったが、3−4−2−1の「2」の位置に入ると、より中央の位置でボールを受けられるようになった。

 加速力抜群のドリブル、切れ味鋭いワンツー突破、カットインからのミドルシュートを得意とするアザールは、この戦術変更で水を得た魚のように輝きが増した。理由は、中央に移動したことで味方選手との距離が近づき、プレーの選択肢が増えたこと。センターフォワードのジエゴ・コスタと良質のコンビネーションを奏でながら、チーム2位の15ゴールを挙げた。モウリーニョ前政権時代は低迷していたエースが、見違えるように息を吹き返したのは大きかった。

 そのアザールの背後で、中盤を支え続けたセントラルMFのエンゴロ・カンテの存在も見逃せない。守備に走るだけでなく、攻撃面でも貢献度が高かった中盤のダイナモは、ボール奪取と縦への推進力でアクセントをつけた。貢献度の高さは、プロサッカー選手協会(PFA)とイングランドサッカー記者協会(FWA)が選ぶ最優秀選手の「ダブル受賞」が動かぬ証拠だ。昨季はレスターを「奇跡の優勝」に導いた小柄なフランス代表MFは、チェルシーでも栄冠獲得の立役者となった。

 さらに、豊富な運動量でアップ&ダウンを繰り返し、攻守両面で活力を注入したビクター・モーゼスとマルコス・アロンソの両ウィングバック、3バックの中央部で最終ラインを統率したダビド・ルイス、得点源&前線の基準点として威力を発揮したジエゴ・コスタもリーグ優勝の功労者だろう。

 そんなチェルシーの強さの理由について、英紙『サンデー・タイムズ』で執筆するジョナサン・ノースクロフト記者は、「ジョゼ・モウリーニョ1次政権を彷彿とさせる力強さがあった。今季のチェルシーは、まるで精密機械のように機能した。自分たちが何をすべきか、選手たちはきちんと理解していた」と解説する。

 たしかに、チーム単体として見ると機能性に優れ、選手個々のプレーでもプレミアでもっとも輝いていた。そう考えると、チェルシーの優勝は極めて妥当と言える。

 また、コンテ監督の「人柄の良さ」も、優勝まで突き進んだ一因だったに違いない。筆者が記憶しているのは、記者会見でのひとコマ。試合中、テクニカルエリアで絶えず大声で指示を出し、試合後はきまって声を枯らして記者会見に応じる47歳のイタリア人は、「週2回も記者会見に応じるなんて無理。2試合の場合はアシスタントコーチに任せる」とジョークを飛ばして記者団を笑わせていた。

 試合中はもちろん、緊張感を極限まで高める。ただ、試合が終わるとリラックスした雰囲気を漂わせていた。モウリーニョ前政権時代の昨季はどこか殺伐としていたチェルシーだったが、愛嬌のあるコンテの人柄が一種の清涼剤となったのではないだろうか。

 優勝決定後、そのコンテは選手たちに胴上げされて宙を舞った。しかし、これで戦いが終わったわけではない。5月27日にはアーセナルとのFAカップ・ファイナル、そして、来季はチャンピオンズリーグが待ち受けている。

 もうしばらく、コンテ率いるチェルシーから目が離せなそうだ。