予選16位から、決勝7位への挽回。決して派手なレースではない。しかし角田裕毅は、チームの地元エミリア・ロマーニャGPで今季ベストのレースをやってのけた。 アタック戦略のミスでQ1敗退に終わった予選から、土曜のスプリントレースでは12位まで…

 予選16位から、決勝7位への挽回。決して派手なレースではない。しかし角田裕毅は、チームの地元エミリア・ロマーニャGPで今季ベストのレースをやってのけた。

 アタック戦略のミスでQ1敗退に終わった予選から、土曜のスプリントレースでは12位までポジションを上げた。ふたつレースがあるからこそ、ひとつずつポジションを上げていく。大切なのは最終的に決勝を入賞圏で終えることだと、冷静なアプローチだった。

「スタートをうまく決めてポジションをふたつ上げたので、そこが12位フィニッシュを果たせたターニングポイントだったかなと思います」



2年目の角田裕毅は大人のレース運びを覚えた

 雨の金曜日には確認しきれなかった新型フロアの効果も、レースペースには表われていた。

「走っているサーキットも違うので(感覚的な部分では)難しいですけど、データ上ではしっかりとアップデートによる向上につながっているので、そこはいいんじゃないかなと思います。

金曜の時点ではアップデートに自信が持てていませんでしたけど、FP2のペースがよかったことで自信を持つことができました。特にマイナス面もなかったと思います」

 スプリントの12位という結果は、決して喜べるものではない。しかし、角田とアルファタウリにとってのターゲットは、あくまで決勝でポイントを獲ること。スプリントレースで頭角を現わすことではない。

だから、この結果に楽観することも悲観することも必要なく、あくまで最終目標に向けた通過地点でしかないということが、今の角田にはよく理解できている。

「今日は決勝でポイントを獲るために、チャンスを最大限に大きくすることはできたと思います。自分のなかではビルドアップしてペースを築き上げて行けているので、明日もさらにポジションを上げられるように頑張りたいと思います」

 決勝でも、その冷静なアプローチは続いた。

 決勝前の豪雨で濡れた路面コンディションのなか、スタート直後のターン2〜3で発生した混乱で押し出されそうになったが、うまく切り抜けてみせた。そしてインターミディエイトで走るレース前半はランス・ストロール(アストンマーティン)をはじめ複数台を引き連れてトレインの先頭を走ることになったが、巧みなライン取りでポジションは明け渡さなかった。

相手を一発で仕留める角田

「アンダーステアが強かったですね。タイヤのせいでもあるんですけど、タイヤを悪くするのもクルマなので......」

 ウエットコンディションで、序盤はなかなか前を追いかけることができなかった。だが、路面が徐々に乾いてドライコンディションになってくると、角田は徐々にストロールを引き離し、むしろ前のケビン・マグヌッセン(ハース)を追いかける展開になった。

 そしてマグヌッセン、さらにはセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)も仕留めて、6位まで浮上してみせた。

「クルマはよかったと思います。もちろんそのオーバーテイクに向けてミスのないように、できるだけ限界で走っていました。そのなかでどのオーバーテイクも一発で決めることができたので、そこはよかったなと思います。(スタートポジションとしては)ポイント圏内にいたわけではなかったので、失うものはないし、毎周プッシュしていました」

 追いかけるなかで一瞬、「ノーパワー!」とトラブルを訴えて、関係者をヒヤリとさせた。だが、これはERS(エネルギー回生システム)のディプロイメント切れによるもの。

 路面が乾いていき、クルマが軽くなっていき、どんどんスロットルが踏めるようになってペースが上がったことで起きた現象で、つまりは角田がエンジニアの想定を上回る速さで走った証だった。

 チャンスが来るその瞬間までバッテリーをチャージし、狙い済ましたところでオーバーテイクボタンを押しっぱなしにしてフルにバッテリーを使い、メインストレートでDRS(※)も使って抜き去る。それを一発で仕留めた。これは、タイヤを労わるうえでも非常に重要なことだ。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 まるでベテランのような攻守の切り替えと、巧みなレース運び。そこにアップデートでパフォーマンスを向上させたAT03が一体となった。

 決して派手なレースではなかったが、だからこそ、角田のレーシングドライバーとしての成長ぶりがはっきりと表われていた。

ミスを犯した1年前との違い

「今回のレースは特によかったなと思います。(自己最高4位の)去年のアブダビGPと並ぶくらい、いいレースだったと思います」

 角田自身も、そうレースを振り返った。



第4戦を制したのはレッドブルのフェルスタッペン

 昨年は手痛いクラッシュを喫して、負のスパイラルに陥るきっかけとなったイモラ。しかし今年は、その負のスパイラルのなかでもがき苦しみながら学んだ成長を、しっかりと結果につなげることができた。

「自信の持ち方だったり、レース週末の組み立て方だったりだと思います。特にレースペースはかなりよくなっていると思います。去年のイモラの頃はまだ状況がコントロールできていませんでしたし、毎周限界までプッシュしていて、そのせいでミスを犯したりしていました。

 でも、そういった経験がドライバーとして学びを与えてくれて、成長させてくれました。それによってまた一歩前に進むことができたからこそ、今日こうしてポイントが獲得できたのだと思っています」

 そう言って角田は、観客席に来てくれたチームスタッフたちに感謝の気持ちを述べた。

 その表情は、もう新人のそれではなかった。角田裕毅はこれからひとりのF1ドライバーとして、さらなる飛躍を見せてくれる。そう強く確信させてくれた、エミリア・ロマーニャGPのレース週末だった。