羽生結弦の同期で友人の元フィギュアスケーター日野龍樹さん。現在は会社員生活を送る彼に、北京五輪で印象に残った選手、羽生との思い出や4回転アクセル挑戦について聞いた。羽生結弦の同期で昨シーズン、現役を引退した日野龍樹さん photo by Y…

羽生結弦の同期で友人の元フィギュアスケーター日野龍樹さん。現在は会社員生活を送る彼に、北京五輪で印象に残った選手、羽生との思い出や4回転アクセル挑戦について聞いた。



羽生結弦の同期で昨シーズン、現役を引退した日野龍樹さん photo by Yamamoto Raita

北京五輪で惹かれた世界の選手たち

 今は、社会人になってから約1年。仕事ではプログラムを組んだり、その手順書や仕様書を作ったりしています。スケートからいきなり違うところ(IT関連会社)に入ったので大変は大変ですけど、就職していったスケーターの先輩たちもこんなにきつかったんだなと痛感する日々です。大学時代は毎日1限から授業があったわけではないですし、僕の場合は卒業してからも何年か選手をやっていましたが、今は毎朝9時に会社に行かなければいけないですよね。朝、眠いことが一番大変です(笑)。

 北京五輪は、平日は仕事なので録画をして見ていました。特に印象に残った選手は、フランスのアダム・シャオ・イム・ファですね。ステップをめっちゃ見ました。どうやっているんだろうって(笑)。振付師を調べてみたら、坂本花織選手がタッグを組んでいるブノワ・リショーさんなんですね。今シーズンは特に彼のプログラムが多い気がします。ポーランド女子のエカテリーナ・クラコワの振り付けもブノワさんですね。欧州選手権を毎年けっこうしっかり見るんですけど、クラコワはうまいなと印象に残っていました。

 他には、ショート(プログラム)で落ちてしまいましたけど、エストニアのアレキサンドル・セレフコの滑りが好きでした。踊りがすごく自然で。僕の理想は、「今から音楽を流すから踊ってみてよ」というように、音楽に乗って身体が自然に動いていくような踊りなんです。

 決められた振り付けを磨き上げるのもすばらしいと思いますが、個人的には自然に音に乗るのが理想的だなって思っていて。それができていれば音から外れることってないですよね。彼はそれができていると感じました。あと、イスラエルのアレクセイ・ビチェンコ。34歳の年齢でまだ4回転を跳ぶんだ!と驚きました。すごいですよね。

 そうだ、五輪と言えば僕、ロシアのマルク・コンドラチュクに(顔が)似てるって言われるんですよね(笑)。フリーの曲『ジーザス・クライスト・スーパースター』で僕も滑ったことがあって、懐かしいなと思って見ていました。たしか前の年のフリーが、『白鳥の湖』だったんですよ。それで今年、『ジーザス・クライスト』をやっているのを見て絶対こっちのほうが合っていると思いました。それと、彼のショート(ドラマ『新・オスマン帝国外伝〜影の女帝キョセム〜』サウンドトラックより)は動き続けていて本当にすごかったです。

 コンドラチュクは、同じくロシアのアレクサンドル・サマリンの後輩なんですよね。いい後輩が育っているなと思いました。ロシアつながりでアンドレイ・モザリョフのフリーも好きです。最後、コロンブスの肖像画みたいなポーズですよね。ロシアの振り付けはポーズに細かなテーマがあったりするんです。(ロシアの振付師に)ここはこのイメージで、みたいに僕もよく言われました。一つひとつにかなり深い意味があって振り付けをしていきます。身体にそれを染み込ませていくのは疲れますけど、それができたら深みが出てくるんだろうなと思います。

 ロシアはエフゲニー・セメネンコも独特ですし、みんな18〜19歳と若い。そしてミハイル・コリヤダもいます。今季のショートはめちゃくちゃクラシックな王道プログラムできましたよね。僕は4、5年くらい前の白と黒が混ざっている衣装のモーツァルトのプログラム(『ピアノ協奏曲第23番』)が、めっちゃロシアって感じで好きでした。ロシアはペアもアイスダンスも強いですね。日本のペア(三浦璃来&木原龍一)もよかったですね。とても感動しました。龍一がまだまだ頑張ってくれるみたいなので、彼らのこれからが本当に楽しみです。


北京五輪フリー演技の羽生結弦。4回転アクセルには挑んだ photo by Noto Sunao/JMPA

「同期はいいものだな」

 日本男子については、やっぱり同期のゆづの挑戦に注目していました。今回の彼は、4回転アクセルに挑む大会でもあったんじゃないかなと感じました。聞いていないのでわかりませんが、五輪連覇をしているので次はスポーツそのものの進歩に考えがいくんだろうなと思うので。ショートのミスはアンラッキーとしか言えないですが、そのあとに平然と全部きれいにできていたのは本当にすごいと思います。

 彼のアクセルは昔から距離も高さもありました。みなさんは試合本番でのジャンプをご覧になって、高いアクセルだと感じていると思うんですけど、練習はもっとすごいです。試合だと確実性を重視してしまうかもしれないんですけど、練習では思いきり跳んでいるので。トリプルアクセルは、止まったところから助走なしでも跳べちゃうんですよ。

 彼のジャンプは本当にすごいです。彼にはよくジャンプの相談をしていました。アクセルがうまくいかないんだけど、と相談すると「こうなんじゃないかな」と教えてくれて。とにかく振り上げが大事と言っていました。フリーレッグを思いきり前に振り上げると。

 (田中)刑事ともそんな感じだったので、先輩や後輩にはしづらい話も気軽にできる同期はいいものだなと思っていました。もともと同期が多い世代というのもあったんですけど、現役を長く続ける選手も多かったんですよ。でも、変にバチバチすることもないままみんな成長していって、試合が終われば同期で写真を撮ったりして(笑)。そんな大会がずっと続いたので、関係性はいい意味で深まっていくだけでした。

 ゆづには僕が引退した全日本で会ったのが最後なので、シンプルに会いたいですね。会って何を話したいというのがあるわけではないんですけど、一緒にゆっくりしたいです。

<日野さんが羽生選手について詳しく語った記事は4月25日発売の『Sportiva 日本フィギュアスケート 2021-2022シーズン総集編』に掲載!>

【profile】
日野龍樹 ひの・りゅうじゅ 
1995年、東京都生まれ。幼少期からフィギュアスケートを始め、ノービス時代は次世代のエース候補として羽生結弦や田中刑事と首位を争う。2011年、2012年の全日本ジュニア選手権優勝。2012年ジュニアGPファイナルで銅メダル。2016年にGPシリーズ初となるNHK杯に出場。2020-2021シーズンの全日本選手権の演技後、現役引退を表明した。