ドリフトレーサー下田紗弥加インタビュー今シーズン、モータースポーツ・ドリフト競技の最高峰、D1グランプリ(GP)に唯一の女性ドライバーとして参戦する下田紗弥加。学生時代はスポーツ少女で、バレーボールのプロを夢見ていたがケガで断念。その後悶々…

ドリフトレーサー
下田紗弥加インタビュー

今シーズン、モータースポーツ・ドリフト競技の最高峰、D1グランプリ(GP)に唯一の女性ドライバーとして参戦する下田紗弥加。学生時代はスポーツ少女で、バレーボールのプロを夢見ていたがケガで断念。その後悶々とした日々を送っていたが、約5年前、たまたま参加したドリフトのイベントで運命が変わった。

競技の迫力に圧倒され、「私もここで絶対に走る!」と決意。その日からアルバイトを重ねて、マシンを購入した。当初AT(オートマティック)限定免許しかなかった彼女だが、練習を重ね、ステップ・バイ・ステップで階段を上がり、ついに今年夢の舞台に立つ。D1GPの開幕を前に下田選手に現在の心境を聞いた。


今年、D1GPに参戦する下田紗弥加

憧れの舞台へ立つのは

「不思議な感覚」

−いよいよ夢のD1GPの開幕戦が富士スピードウェイ(4月23、24日)で行なわれます。現在の心境は?

下田紗弥加(以下、下田) 開幕戦のエントリーリストを実際に見ると、そこに自分の名前があるじゃないですか。本当に不思議な感覚です。ドリフトを初めて見た時、私はクルマも持っていない、ドリフトもできない、まったくの素人でした。「うわー、すごい人たちだな」と思っていたドライバーたちのなかに、今、自分の名前が混じっていることが不思議すぎて。人生は何があるかわかんないなって感じましたね(笑)。

−以前の取材で「人生は挑戦なり」がモットーと聞きました。夢にチャレンジし続けてきてよかったですか?

下田 そうですね。過去を振り返ってみると、ここまで来るのは長かったし、いろいろな出来事がありました。それでも自分が夢見た場所までちゃんとたどり着くことができて、感慨深いものはあります。でも、D1GPに参戦できてよかったと満足するのではなく、ここからが新しいスタートだと思って頑張ろうという気持ちのほうが強いです。

−今年は最高峰のD1GP(全9戦)と、D1ライツ(全8戦)の2つのシリーズに参戦するとのことですが、その理由は?

下田 2018年からGPのライセンス取得を目指しD1ライツに参戦し始めました。そして、昨シーズンにそれなりの結果を残せて、ようやく目的を達成することできました。通常はこのままライツは卒業するという流れになると思いますが、私のなかではライツでやり残したことがあるんじゃないかという気持ちがどうしても消えませんでした。

 正直言えば、昨シーズンのライツはマシントラブルなどもあり、ちょっと不発だったんですね。ライツは今、すごい激戦区。毎戦約70台のエントリーがあり、そこから勝ち上がって決勝にいくのはとても大変なことなんです。だからこそ、ライツを戦うことはレベルアップにつながりますし、激戦のなかでちゃんと結果を出したいという思いがあります。

 本当に個人的な感覚なのですが、ライツで1年修行することで、もう一つ先にある何かをつかめそうな予感があるんです。競技や勝負事は、感覚的に、「こういう流れで戦っていけば結果を出せる」というルーティンが必ずあると思っています。それを見つけて、しっかりと身につけたいんです。だからチームにわがままを言って、もう1年、ライツに参戦することにしました。


初めてドリフトを見た日から人生が変わったという下田

「けっこうムキムキなんですが、もっと鍛えないと」

−デビューシーズンとなるD1GPの目標は?

下田 ずっと憧れていた世界なので、先輩方の胸を借りる気持ちで思いっきり走るのみです。結果、今まで積み上げてきた自分の力がどのあたりにあるのか知ることもすごく楽しみですし、初めてドリフトを見た時の感動を私も皆さんに伝えられるようにしていきたいです。挑戦者であるため逆にプレッシャーが少ないので、楽しみですし、今の自分の力をフルに発揮できれば、それなりの結果は出るんじゃないかなと信じています。

−ライツとGPではそれぞれのマシンのスペックに違いがあり、求められるドライビングも異なりますよね?

下田 今年からタイヤのレギュレーション(規定)が変わり、GPでは今までのライツで使っていたタイヤよりもスペックが劣るんです。タイヤのグリップが下がりますが、エンジンのパワーは上がるので、マシンのセットアップは大変です。ただドライビングに関しては、ライツの時代よりも肉体的には楽になるのかなと思っています。

 GPのマシンは約800馬力がありますが、タイヤのグリップは低い。ライツはパワーが約500馬力ですが、タイヤのグリップが高い。ドライビングの難易度は、グリップのあるクルマを思いっきり曲げるライツのほうが高いと感じています。ただGPのマシンはステアリングもギアなどの操作系が全部重い。それが私にとっては一番のネックです。シフトを入れるだけでも歯を食いしばっています。今でもけっこうムキムキなんですけど、もっと鍛えないといけませんね。



「自分の走りで誰かを元気づけたい」と下田

−パワーが課題でしょうか?

下田 そうですね。でも筋力で補なうのは限界があるので、チームに要望を伝えて操作系を軽くしてもらってマシンでちょっと補なってもらう。あとはステアリングが重たかったりしたら、その瞬間、荷重をリアに乗せれば軽くなったりします。そういうドライビング技術も含めて、自分の身体、マシン、ドライビングのすべてを少しずつグレードアップして対応していきたいと思っています。

自分の走りが誰かのパワーや元気に

−GPではドライバーの力はもちろん重要ですが、チームの総合力の勝負になります。ドライバーチームを牽引していくことも大事になりますね?

下田 実は昨年まで私が一番頭を悩ませていたのがチーム編成でした。モータースポーツはどんなチーム体制で戦うのかというのがすごく大切。ドライバーだけモチベーションが高くても、勝利にはつながりません。メカニックの方はマシンを整備する仕事に集中でき、同じようにドライバーは走ることに集中できる環境をつくることがチームとしての強さにつながっていくと思っています。昨年のライツでは、それぞれの役割と責任を明確にして、自分の仕事に取り組んでもらうことを徹底してやりました。

 ドライバーの私がどうしたら一番いいパフォーマンスを発揮できるかとスタッフに伝えるのは重要ですが、最初のうちは「私がそんなことを言ったら、ワガママになるのかな」とか「なんだよ、コイツ」とか思われないかなと、遠慮していた部分がありました。でも今はチームと信頼関係が築けていますし、「結果を出すためにはコイツの言うことをやらないとダメだよね」とチームが一丸となって戦う環境がつくれていると思います。今年のGPではチーム体制をもっと強固にしていていきたいです。



下田(中央)とドリフトのマシンを整備するスタッフたち

−「ドリフトで人を感動させたい」とよく話しています。それが最終的な目標になるのですか?

下田 D1GPはドリフト競技では世界トップのカテゴリーですので、私の走りを見てくれる方が世界中で増えることになります。つまり自分がいい走りをすれば、人に何かを伝えられる手段が増えることでもあります。もちろんドライバーとして最高峰で優勝することが夢ですが、誰かの心に何かを伝え、パワーや元気を与えるような走りができれば本望です。

 将来的には海外に出ていって、ドリフトを知らない人たちにその魅力を伝え、楽しんでもらいたいという夢があります。今年のGPではいい走りをして、少しでも多く人の心に届く走りをしたいです!



「いずれは世界にドリフトを広めたい」と語る

【profile】
下田紗弥加 しもだ・さやか 
千葉県出身。2018〜21年にD1GPの直下カテゴリーD1ライツに参戦。2022年、ドリフト競技の最高峰D1GPに参戦。今年からファッションブランド「AZUL by moussy」やアメリカの世界的な半導体メーカー「Intel」とのコラボもスタートする。自ら編集するYouTubeチャンネル『Drifting Sayaka くるくるTUBE』も人気を集めている。