雲ひとつない晴天のアンフィールド。リバプールサポーターの歌う『You’ll Never Walk Alone』がスタジアムにこだまするなか、両軍の選手たちが姿を現した。 試合前の挨拶のために22名の選手が一列に並ぶと、欧州…

 雲ひとつない晴天のアンフィールド。リバプールサポーターの歌う『You’ll Never Walk Alone』がスタジアムにこだまするなか、両軍の選手たちが姿を現した。

 試合前の挨拶のために22名の選手が一列に並ぶと、欧州出身の選手たちと比べても、サウサンプトンの吉田麻也がまったく遜色ない身体つきになっていることに気がついた。



打点の高いジャンプでボールを跳ね返す吉田麻也の好ディフェンス 鎧(よろい)のような胸板、肩、そして足腰──。もちろん189cmの身長は変わっていないが、センターバック(CB)としては細身の印象もあった2012年の入団時から、身体が完全に「プレミア仕様」に仕上がっていると感じたのである。

 キックオフのホイッスルが鳴ると、リーグ戦17試合連続の先発出場となったその吉田が、堂々たる守備でリバプールの攻撃を跳ね返していく。

 リバプールのFWロベルト・フィルミーノのシュートに対し、日本代表DFはコースに入ってブロック。虚を突いたMFルーカス・レイヴァのスルーパスには一度、体勢を崩しそうになったが、それでも素速く足を伸ばしてカットする。敵のロングボール時に太陽の光が目に入ったようで動きを一瞬止めた場面も、慌てることなくクリアした。

 動きは軽快そのもので、ひとつひとつの守備が力強い。状況判断は冷静沈着で、周囲の動きもよく見えていた。筆者が取材してきた5シーズンのなかでも、この試合の吉田は最高部類と呼べるパフォーマンスを示し、0-0のスコアレスドローに大きく貢献した。しかも、相手はリーグ2位の得点力を誇るリバプール。「クリーンシート(無失点試合)を達成し、またひとつ積み上げたというのは、僕にとっても、ディフェンス陣にとっても大きい」と、試合後の吉田も胸を張っていた。

 そこで、気になっていた質問をぶつけてみた。「入団時から継続して身体を鍛えてきたのか?」と。吉田は次のように明かした。

「試合に出られない期間が長かったので、その時期に筋トレをしていました。イングランドは居残り練習があまりできないので。『筋トレしながらも、アジリティ(敏捷性)の部分を落とさないように』っていうトレーニングを、2~3年続けていました。入団時に比べて、体重は7~8キロ増えました。

 欧州の選手に比べると、アジア人はもともとの筋肉量が少ないんです。たとえば、彼らが同じセット量、同じ期間で筋トレをやったら、軽くボーンと数値が上がるのに対し、自分はポッと小さく上がるぐらい。だから、人より何倍もやらないといけない。

 試合に出られない時期は、すごく筋トレをやっていました。それでも、やっぱり全然(差がある)。重さ自体は他の選手よりも持てるんだけど、同じ重さを持てる他の選手のほうが身体は数倍デカイという……。やっぱり、アジア人はそういうハンデがあります。食事やプロテインとか、あとは量、質にも気をつけていました。去年の今ごろは試合に全然出られなかったので、筋トレしまくっていた。練習場から自宅に帰るとき、(クルマを)運転していてハンドルを持つのもしんどいぐらいでしたから(笑)。

 あとは、プレミアリーグへの”慣れ”も大きい。身体の使い方とか、どういう風に当たればいいのか。どういうプレーがファウルになって、どういうのがファウルにならないのか。そういうのは勉強になっています」

 その3日後に行なわれたアーセナル戦でも、吉田は堅牢な守備でチームを支えていた。岡崎慎司のフィジカルコーチを務める杉本龍勇氏(法政大学教授)の指導を受けながら、アジリティを落とさずに鍛えてきた成果も見えた。

 象徴的だったのが18分のシーン。MFメスト・エジルが右サイドから入れたアーリークロスに対し、すばやく自陣へ戻って滑り込みながらブロック。ホームスタンドから大きな拍手と歓声が沸き起こると、FWアレクシス・サンチェスからの縦パスも軽やかにジャンプしてカットした。落ちついた守備で、吉田はCBとしての職務を的確にこなしていた。

 それでも、一瞬の隙を突かれてゴールを許した。

 サウサンプトンの中盤・後方部にスペースができ始めていた60分、ペナルティエリア内でパスを受けたサンチェスが右足を大きく振り上げた。CBの吉田とジャック・スティーブンスは身体ごとシュートコースを潰しにいったが、チリ代表FWは鋭く切り返し、ふたりを振り切って左足でネットを揺らした。

 中堅クラブのアタッカーなら切り返すことなくシュートを選択していたように思うが、今季リーグ戦で20ゴールを叩き出しているサンチェスが”技アリ”の切り返しでゴールを呼び込んだ。そのシーンについて、吉田はチーム全体の守備を含めて反省の言葉を述べた。

「後半途中からけっこうスペースが空いてきて、1点獲られた後、チームの集中力が切れた。オーガナイズも悪くなってしまった。やっぱりあれだけスペースがあると、サンチェスやエジルはなんでもできるんで。ああいう展開にしたらダメ。前半みたいな形でチームとして戦って、最後までそれを貫かないと。リバプール戦ではそれができたが、今日はできなかった。

(CBでコンビを組む)スティーブンスとの連係がよくなってきているからこそ、細かいところにもっとこだわりたい。失点場面も、サンチェスにふたりで飛び込んでしまった。ひとりが飛び込んで、もうひとりが切り返しに対応する。そこは僕が対応しなければならなかったんですけど、そういうところもできるようにならなければ。トップレベルの選手を止められるようになれば、僕も彼も、もっと成長できる」

 最終的にアーセナル戦は、ふたつのゴールを許して敗れた(0-2)。しかし、吉田個人への評価は高く、7点をつけた英紙『デーリー・ミラー』は「堅実なパフォーマンス。周りに指示を出し、守備陣をリードしていた」と記した。

 リバプール、アーセナルと続いた強豪クラブとの連戦から見えたのは、吉田がサウサンプトン入団以来、最高の状態を維持していることである。強靭なフィジカルを武器に接触プレーでは力強く、そのうえフットワークも軽い。強さと素速さを兼ね備えた守備ができているのは、「アジリティを落とさないように鍛えてきた筋力トレーニング」、そして、「身体の使い方や敵への当たり方を習得した」成果であろう。

 それだけに、チームの結果がついてこないのがもどかしい。直近5戦の成績は3敗2分の黒星先行。特に、5戦中4試合でゴールのない攻撃陣の不振は深刻な問題である。

 それでも、CBの吉田としては守備で支えていくしかない。「とにかく、自分自身が向上する。そして、いい結果をチームが出すことだけに集中していくしかない」。

 レギュラーCBとして、その言葉にいっそうの力を込めていた。