初めてメルボルンの表彰台に立ったシャルル・ルクレール(フェラーリ)の表情は、いつも以上に誇らしげだった。 2018年にザウバーで戦った初年度から、このサーキットを苦手としていた。それを見事に攻略し、ポールポジション、ファステストラップ、そ…
初めてメルボルンの表彰台に立ったシャルル・ルクレール(フェラーリ)の表情は、いつも以上に誇らしげだった。
2018年にザウバーで戦った初年度から、このサーキットを苦手としていた。それを見事に攻略し、ポールポジション、ファステストラップ、そして優勝と、完璧なレース週末で支配してみせたのだ。
一方、レッドブルにとっては、またしても悪夢のような週末になった。
マックス・フェルスタッペンはレース週末を通してマシンバランスに苦しみ続け、決勝でもまったくルクレールについていくことができず、最後はトラブルで2位さえ失ってしまった。
表彰台の中央で誇らしい表情を見せるルクレール
「とてもガッカリしている。何が壊れたのかはわからないけど、レースのスタート前から予兆はあったんだ。だから、今日は完走するのが難しいかもしれないという予感があった。もちろん、望んだことではないよ。
タイトル争いをしたいのなら、こういうことはあってはいけない。すでにポイント差も大きくなってしまった。僕としてはやれることはなかった。フラストレーションはあるけど、今の時点で僕にできることは何もない。チーム一丸となって改善していくしかない」
フェルスタッペンのいう"予兆"とは、スタート前に追加注入したハイドロ系フルードのこと。実際に起きた問題とは無関係だったようだが、開幕戦に続きパワーユニット周辺にトラブルが続いていることは気がかりだ。
タンクからエンジンに向かう途中の燃料ラインから燃料が漏れ出し、それに火がついたという。フェルスタッペンは38周目にパワーの低下を感じ、しばらくはそのまま走り続けたものの、39周目のメインストレートで火が出てマシンを止めざるを得なかった。ガソリンの匂いもしたという。
「燃料システムのトラブルみたいで、燃料タンク外部の問題がこのトラブルを引き起こしたようだ。パーツは日本に送り返されて、可能なかぎり早急に問題が何だったのかを究明することになる。
テレメトリーデータ上で『何かがおかしい』ということは把握できていたよ。マックスも(ガソリンの)匂いで気づいたようだしね。これから詳しい確認は必要だが、初期段階のチェックではパワーユニット自体に問題はなさそうだ」(クリスチャン・ホーナー/レッドブル代表)
自信をもって攻められない
2022年型マシンはまったくの新車だけに、信頼性の問題もある程度は仕方がない。
一度出たトラブルは、対策を施せば再発はしない。開幕2戦でアルファタウリ側に発生したパワーユニット本体のトラブルも含め、世界的なロジスティクス遅延のためHRC Sakuraへの機材輸送が大幅に遅れている。原因究明と対策の進みが遅いのは気がかりだが、これはどうすることもできない。
しかし、それよりも重大なのは、マシンそのもののパフォーマンスだ。フェルスタッペンは今シーズンで初めて、マシンのフィーリングについて苦言を呈した。
「トラブルにはちょっと驚いている。ちょっと多いからね。マシンバランスにもかなり苦しんでいて、レースではタイヤのデグラデーション(性能低下)がひどいんだ。
つまり、今の僕らは正しいウインドウのなかに入っていない。それでも2番目のマシンではあるけれど、タイトル争いをしたいのならフェラーリを上回る必要がある。今の彼らは様々な点で、僕らを大幅に上回っている」
マシンバランスに一貫性がなく、限界まで自信を持って攻めることができていない。予選ではそれがパフォーマンス不足につながる。そして決勝では、マシンバランスの悪さがタイヤに悪影響を及ぼす。
「このサーキットでは、いかにグレイニング(タイヤ表面のささくれ)を抑えるかがすべて。だから僕らはプッシュすることができなかった。でないと、タイヤがダメになってしまうからね。
今日(のペース差)はかなり極端なケースではあったと思う。でも、僕らはもっと信頼性も必要だし、もっと速さも必要だし、もっとタイヤをうまく使えるようにもならなければならない。やらなければならないことが山積みだよ」
このタイヤマネージメントを念頭に置いたセットアップの方向性を、レッドブルは金曜日から完全に見誤ってしまった。改修されて高速になったアルバートパーク・サーキットの特性を読み間違えたのだ。
反省を生かしたルクレール
「我々は完全にウインドウから外れていた。金曜日の段階では、決勝ではリアリミテッド(リアタイヤがボトルネック)になると思っていた。リアタイヤにかなりのグレイニングが発生していたからね。
ただ、路面がラバーインしたことと、温度が高くなったためだと思われるが、金曜日とはまったく逆でフロントリミテッドになったんだ。それが今週、我々がマシンバランスでまったくウインドウを外してしまった理由だと考えられる。
結果、我々はひどいグレイニングに悩まされ、特にミディアムタイヤでは苦しんだ。ハードタイヤではそれほどひどくはなかったけど、マックスの本来のペースが発揮できる状況ではなかった」(ホーナー代表)
フェラーリの速さにレッドブルはまったく対抗できなかった
しかしフェラーリは、金曜からしっかりとフロントタイヤのグレイニング対策に取り組んでいた。最高速を犠牲にしてでもダウンフォースの重いフロントウイングを選択し、ドライビング方法もしっかりと調整を行なっていた。
「我々は左フロントのグレイニングに懸念を持っていて、特にミディアムではそれが顕著になることがわかっていた。だから金曜からその点を改善すべく、マシンバランスのセットアップとドライバーのタイヤマネージメントを進めていった。
タイヤマネージメントのカギとなるのは、マシンバランスの優れたマシンに仕上げること。今週はチャールズ(ルクレール)がそれを非常にうまくやり遂げたと思う。彼は過去の経験から多くを学んだんだ。
そのおかげで、決勝では苦しむことはなかったし、いいペースで走ることができた。今週末で最も暑かった今日のコンディションに合わせて施したセットアップが功を奏し、非常によくバランスが取れていた」(マティア・ビノット/フェラーリ代表)
ルクレールは前戦サウジアラビアGPでの教訓を生かし、今回は余裕がある時にギャップを安全圏まで広げ、フェルスタッペンにDRS(※)圏内でつけ入る隙を与えない強者のレースを貫いてみせた。
※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。
追いかける立場のレッドブル
フェルスタッペンがリタイアしても、ルクレールはプッシュを続けてファステストラップの1ポイントまでしっかりと獲りにいった。チームが「もう十分だ」と言っても最終ラップにプッシュをして、再びファステストラップを刻んでいる。まさしく、フェラーリとルクレールの完勝だった。
フェルスタッペンにとっては、これ以上のリタイアによる失点も、そして大差のレースも許されないだろう。
次戦のイモラに、レッドブルはアップデートを投入する予定だ。だが、車体の軽量化は一部で報じられていたほどの大きな数字にはならない見込みだと関係者は言う。モノコックの設計変更には時間もコストも膨大にかかるため、まずできるのは素材変更による軽量化に限られるからだ。
もちろん、それだけでない。パフォーマンスを向上させるためのアップデートも必要だろう。
対してフェラーリは、次戦でアップデートは投入しないという。エミリア・ロマーニャGPではスプリントフォーマットが採用され、金曜のフリー走行が1回しかない。その限られた1時間のなかでアップデートの評価と予選に向けたセットアップの二兎を追うのは正解だと考えていないからだ。
しかし、追う立場のレッドブルはさらなる手を打たなければ勝てない。苦境に立たされた彼らは、どんな次なる手を繰り出してくるのだろうか。