スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月7~14日/賞金総額543万9350ユーロ/クレーコート)の男子シングルス2回戦で、第6シードの錦織圭(日清食品)が、自身の初戦でディエゴ・シュワ…

 スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月7~14日/賞金総額543万9350ユーロ/クレーコート)の男子シングルス2回戦で、第6シードの錦織圭(日清食品)が、自身の初戦でディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)を1-6 6-0 6-4で下し、3回戦に駒を進めた。

 錦織は木曜日の現地時間12時から、ダビド・フェレール(スペイン)と3回戦を戦う。フェレールは第10シードのジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)が棄権したため、不戦勝で勝ち上がった。◇     ◇     ◇ 最初のゲームから、簡単に勝てないことは明らかだった。錦織が2本のブレークポイントを手にした第1ゲーム、逆に4つのブレークポイントを握られながらなんとかキープした第2ゲーム。締めて16分を要したこの長い2ゲームのあと、錦織のミスがやや早くなり、錦織は1-6でセットを落とした。 対するシュワルツマンが絶好調だったことも認めなければならない。甘い球と見れば逃さず打ち込んでくるシュワルツマンは、意味のないミスをおかさず、勝利への意欲という面でも決して気持ちを切らさず、それは試合終了まで続く。しかしそれを別にしても、第1セットの錦織は、故障による休止後の初試合という難しさに対処しなければならなかった。「第1セットでは長いラリーに慣れていなかったり、攻め急いでしまったり、まだうまくいかない部分、試合で慣れていかないといけない部分がたくさんあった」と錦織は振り返る。「1セット目は我慢が足りなかったような気がしたので、少しじっくり戦うようにし、同時に、攻めないと勝てないので、思いきってプレーする場面と、しっかり粘る場面のメリハリをつけるようにした。徐々にコートにもプレーにも慣れていったので、2セット目から修正でき、よくなっていったと思う」 この言葉の通り、第2セットの頭から目に見えてアンフォーストエラーを減らした錦織は、次第に錦織らしいアグレッシブなショットを打ち込み始める。ミスを減らしたことで相手にもミスが出て、第2ゲームをブレークすると、錦織は次のゲームでフォアハンド・クロス、バックハンドのダウン・ザ・ライン、フォアとバックのコンビネーションなど、いい攻めでラリーを支配。グラウンドストロークの強打からネットをとる積極性も見せ、最後はフォアハンドの逆クロスでエースを奪って、6-0で第2セットを取り返した。 第3セットががっぷりよつの競り合いになったことについては、シュワルツマンを褒めるべきだろう。錦織が競った末に第1ゲームをキープできたことには、少しの幸運もあった。シュワルツマンの深く鋭いショットが2本、アウトとコールされるのだが、錦織は試合後にこの一連の幸運を振り返り、「コードボールやオンラインなどで、少しラッキーだったと言わなければならない。ときどき、勝つためにちょっぴり運も必要だ」と漏らしている。 非常に苦労した第4ゲームで、相手のショットがネットコードに当たりチャンスボールになった幸運を逃さずとらえ、このゲーム最初のブレークポイントをつかんだ錦織は、最終的にバックハンドのリターンエースと、続く相手のミスで3-1とブレークに成功。しかし次のゲームで、シュワルツマンは攻撃的に打ちながらもしぶとくボールを返し続ける、いわゆる"打ちしこり"で錦織を振り回し、直ちにブレークバックした。 次のゲームでもドロップ&ロブを決めて大ガッツポーズをつくるなど、気持ち的にまったく負けていないところを見せたシュワルツマンだが、錦織もアグレッシブなストロークでそれに対抗。第8ゲームでは、ブレークポイントで攻撃的フォアのワンツーを打ち込み、要所で果敢に攻めるテニスによってふたたびブレークに成功した。 しかし不屈のシュワルツマンのおかげで、クライマックスはここからとなる。5-3からの自分のサービスゲームで、錦織は40-15とマッチポイントを握るが、そこから錦織のかなりいいボレーを、コート外からの"ポール回し"のパッシングショットで返したシュワルツマンが挽回に成功。錦織も負けずに対抗し、バックハンドのダウン・ザ・ラインを決めて4度目のマッチポイントをつかんだが、粘りまくる相手を前にミスをおかし、結局ブレークバックを許してしまうのである。 しかしここから生まれた実りは、錦織がひるむことなく、必要なときにレベルを上げる強さを見せたことだ。「もちろん悔しい気持ちはあったけど、なるべく集中して次のゲームに臨んだ。少しつないでいたところがある中でマッチポイントを取れなかったので、その点も意識しながら、最後は思いきってプレーできた」と錦織は振り返る。 続く相手のサービスゲームで、いいクロスリターンによりミスを引き出した錦織は、バックハンドのダウン・ザ・ライン、フォアハンドのクロスと次々にウィナーを放ち、3マッチポイントを奪取。最後はバックハンドをダウン・ザ・ラインに打ち込み、ついにシュワルツマンの抵抗に終止符を打った。 6、7週間、大会に出ていないことからくる試合勘の不足が出た第1セットの展開ではあったが、「それもすぐに修正できて、集中力も戻ってきた」と錦織は言う。「フィーリングという面では意外とそんなに苦労しなかった。バルセロナ出場をとりやめ、ほとんど練習もしてなかったが、なぜかフィーリングはすぐ戻ってくるので、これに関してはありがたい」。 この一試合を通して調整の手応えもつかみ、「2、3セット目には、すごくいいテニスができていたので、調子が徐々に上がってきてくれるとうれしい」とよい感触も得たが、手首の故障が完治したわけではないだけに、懸念がないわけではない。「痛みが戻ってくるのが一番怖い。プラス、その痛みの怖さにも勝っていかなければならない」と言う錦織は、手首の状態について「今のところ大丈夫だが、長い試合だったし、試合後、明日の朝などに痛みが出るパターンが結構多いので、朝起きてみないとわからない」とわずかな懸念も見せた。 いずれにせよ、観客は大いに楽しんだはずの好試合。錦織はまず、厳しい第一関門を乗り越えた。(テニスマガジン/ライター◎木村かや子)

※写真は「ムトゥア マドリッド・オープン」の初戦を突破した錦織圭(日清食品)

Photo: MADRID, SPAIN - MAY 10: Kei Nishikori of Japan celebrates a match point during his match against Diego Schwartzman of Argentina on day five of the Mutua Madrid Open tennis at La Caja Magica on May 10, 2017 in Madrid, Spain. (Photo by Clive Rose/Getty Images)