14か月ぶりに決勝進出、約10日間の戦いに手応え 女子テニスの大坂なおみ(フリー)が、約14か月ぶりに決勝の舞台に戻ってきた。4月2日に米フロリダ州マイアミで行われたマスターズのマイアミ・オープン女子シングルス決勝では、新たに世界ランキング…

14か月ぶりに決勝進出、約10日間の戦いに手応え

 女子テニスの大坂なおみ(フリー)が、約14か月ぶりに決勝の舞台に戻ってきた。4月2日に米フロリダ州マイアミで行われたマスターズのマイアミ・オープン女子シングルス決勝では、新たに世界ランキング1位となるイガ・シフィオンテク(ポーランド)にストローク戦で圧倒され、4-6、0-6のストレートで敗れた。昨年の全豪オープン以来となるツアー通算8勝目はならなかったが、大坂は「ポジティブな要素がたくさんあった」。穏やかな表情で約10日間の戦いに手応えを示した。(取材・文=岡田 弘太郎)

 マイアミ・オープン1回戦から不戦勝を挟んで4試合連続ストレート勝ちで4強入りを決めた大坂にとって、31日に行われたベリンダ・ベンチッチ(スイス)との準決勝は大きなテストだった。東京五輪金メダルのベンチッチはリターンが武器で、試合前まで3連敗中で苦手意識があった。この試合も第1セットは相手のペースで落として嫌な流れ。

 だが、「第1セットを取られた後、例え負けたとしても担架で運ばれるくらいまでファイトしよう」と、集中力を保って修正する強さがあった。第2セット以降はサーブのコースや緩急を工夫して相手の動きを止めた。終わってみればWTAの1試合での今季最多となる計18本のエースを量産。強力サーブでベンチッチのリターンを封じ、劣勢を挽回。「タフな相手に勝ててとてもうれしかった」と喜びの涙を流したように、自信をつかんだ一戦だった。

 ダニエル・コリンズ(米国)との準々決勝でも計13本のエースを決めるなど、今大会はサーブが好調だった。その要因として大坂は「コーチと一緒にサーブの練習に取り組んできた」ことを挙げる。「以前は足をそろえて打っていなかったけど、コーチからはバランスを取って足をそろえるように教わってきた」。そして、お手本にしたのが男子シングルスで時速200キロを超える高速サーブを武器とするニック・キリオス(オーストラリア)だった。

「ロサンゼルスでニックと練習したときに、彼が片足をスライドさせてから両足をそろえる打ち方をしているのを見た。それがサーブに爆発力を加えていた。そのテクニックを習得しようと練習してきた。以前よりいいリズムでサーブを打てるようになったと感じている」。今大会は精度が増したサーブで主導権を握る展開が多く、大坂が描く「リターンゲームでアグレッシブにプレーする」というスタイルにうまくはまっていた。

セラピスト効果でメンタル面も安定

 今大会では、メンタル面が安定していたこともいい結果が出た要因だろう。約3週間前のBNPパリバ・オープン2回戦では観客から野次を飛ばされ、涙を流して敗れた。大坂はその大会後にセラピストに相談し、心のケアをした。マイアミ・オープン1回戦を突破した後の記者会見で「セラピストと話したのは昨年の全仏オープン以来。多くのことを学んだ。今までは自分で解決しようとするところがあったけど、今は何が起きてもいいように気持ちの準備ができていると感じる」と語り、今後セラピストをチームに加える考えも示した。ベンチッチ戦で第1セットを落とした後など劣勢の状況でも冷静さを保ち、突然崩れるような危うさは一度も見られなかった。

 昨年は全仏オープンで精神的な負担を理由に記者会見を拒否したり、全米オープンで3回戦敗退した後に涙を流して休養を宣言するなどメンタル面が不安定で、ランキングも大きく後退した。マイアミでは出場した2大会続けて優勝していたシフィオンテクの勢いを押し返す力はなかったが、今季初の準優勝。「(BNPパリバから)テニスの状態がいいという感覚はあった」という手応えが結果に繋がったことは大きな収穫だった。

 昨年はランキングの目標を明言することを控えていたというが、決勝後の記者会見で世界ランキング1位への思いを聞かれると、「年末くらいまでにトップ10に入り、来年には世界1位になることを目指したい」。そう言った後に「ちょっと大きな宣言だったかもしれない。取り消してトップ5にしようかな……。いや、やっぱり1位にしよう。1位を目指したい」と自らに言い聞かせるように目標を口にする姿があった。

「もっといい結果を出したいと何かを追いかけることは自分に欠けていたもの。今の1位の選手のレベルが分かったことは収穫だし、またそこに届くかどうかを試したい」と、思いを新たに力強く再出発を切った。子どもの頃観戦に訪れていた思い出深いマイアミ・オープンが、完全復活へのきっかけとなるかもしれない。そんな期待感を残して、大坂はクレーコートのシーズンに臨む。(岡田 弘太郎 / Kotaro Okada)