日本ウェルネススポーツ大ゴルフ部の特殊な経緯と現状とは ゴルフのツアープロが在籍する大学が、茨城県稲敷市にある。日本ウェルネススポーツ大。ゴルフ部員は、プロ、もしくはプロを目指す選手ばかりだ。現在、部員全員が通信制の学生で、大半の時間を使っ…

日本ウェルネススポーツ大ゴルフ部の特殊な経緯と現状とは

 ゴルフのツアープロが在籍する大学が、茨城県稲敷市にある。日本ウェルネススポーツ大。ゴルフ部員は、プロ、もしくはプロを目指す選手ばかりだ。現在、部員全員が通信制の学生で、大半の時間を使ってゴルフに打ち込んでいる。国内女子ツアーで活躍する22歳の稲見萌寧(Rakuten)は、1年生でプロテストに合格し、4年生で東京五輪銀メダル、賞金女王となり、3月13日に卒業した。2021年度、部に在籍したツアープロは男子5人(日本プロゴルフ協会員)、女子5人(日本女子プロゴルフ協会員)で、うち6人がシード権選手。この特殊な環境が整った経緯と現状を関係者に聞いた。(取材・文=柳田 通斉)

 稲見は今月13日、日本ウェルネススポーツ大を卒業した。当日は、明治安田生命レディス最終日でキャンパスを訪れることはなかったが、大学卒の「学士」となった。稲見は高校時代も、通信制の日本ウェルネス高ゴルフ部に在籍しており、一反田拓三監督は感慨深げに言った。

「稲見のことは中学時代から知っていますが、自分の練習拠点を軸にしながら、部活にも参加してトレーニングや練習をしてきました。私は高校の監督も兼ねているので、試合で稲見がよく悔し泣きしていたことを思い出します。ツアーに出るようになってからはあまり来られなくなりましたが、他の卒業生と同様に今後もこの環境を生かしてほしく思います」

 部には稲見だけでなく、女子では吉田優利(4年)、臼井麗香(3年)、高橋彩華(3年)、西郷真央(3年)が在籍。臼井と高橋については、稲見より1学年上の1998年度生まれ「黄金世代」だが、共に2度目のプロテストで合格した後に入学し、入部もしている。なぜ、プロたちが入部するのか。その理由を河野栄治代表が説明した。

「1つは練習環境が整っていることだと思います。うちは、複数のコースと提携し、部員は練習場も含めて朝から晩まで球を打てる環境があります。そして、通信制のため、ツアーに出場しながらでも大卒の資格を取得することができます。若年化が進む女子プロを本気で目指す選手は、高3からプロテストを受験して、卒業後は大学に進学しない傾向にあります。その時点で『大卒』はあきらめる形ですが、うちは在学中にもプロテストを受け、合否に関係なくそのまま在籍できます。逆に学連に登録をしていないので、大学の試合に出ることはありません」

部創設の経緯「他の大学にないことをやるべき」

 現実に高校を卒業してジュニア(小1~高3)のカテゴリーが終わると、プロを目指す選手たちは各自で練習場やゴルフ場で練習を重ねる。しかし、費用はかさむ。その状況を踏まえ、ジュニア育成に尽力するNPO法人パピポの代表理事でもある河野代表が、部創設の経緯を明かした。

「ジュニアのカテゴリーを終えると、練習環境を失う選手が多くいます。自分で練習場やゴルフ場に行くと、一般ゴルファーと同じ額を払うので費用はかさみますが、大学でプロを目指す環境を整えれば、負担はかなり軽減されます。新しく歴史のない大学ですから、他の大学にはないことをやるべきということで、15年からパピポの運営でこのゴルフ部の活動が始まりました」

 15年の部員第1号は男子選手で、16年には、15年に日本ジュニアを制した篠優希が入部。篠は2年生の17年にプロテストに合格。翌18年には稲見が入り、同年秋のプロテストを突破している。同年には、男子で後にツアープロとなる石坂友宏、石毛一輝も入部。19年には女子の吉田が入っており、河野代表は「このあたりから、当初に描いていた流れになってきました。少しずつ大学の名前も広まってきました」と話す。

 環境は確かに整っている。提携ゴルフ場は、いずれも戦略性の高いJGMセベ・バレステロスGC(茨城県稲敷市)、成田GC(千葉県成田市)、龍ヶ崎CC(茨城県龍ヶ崎市)などで、月~木曜日の合同練習、金、土、日曜の自主練習でラウンド、練習場の使用が可能だ。月曜、木曜には、施設内で体幹や筋力トレーニングを重ねている。気になるのは、活動に伴う費用(月額)だ。

◆全寮制(終日)
月12万円~18万円
※部費、寮費、食費(3食)、ラウンド代、練習場ボール代、レッスン代込み。

◆寮以外
月7万5000円~12万5000円

◆プロ料金
月2万5000円~5万円

「寮生の月額は、提携のゴルフ場でキャディーのアルバイトなどをするかどうかで変わってきますが、月12万円なら年間144万円程度。うちと同じラウンド数、練習場でのボール代、プロコーチによるレッスンに加え、食費や交通費を考えると、年間500万円~600万円はかかると推定します。プロテスト合格者は、部費と食費のみの負担です。さらにツアープロは、全額無償で全てのゴルフ部環境を利用できます」(河野代表)

臼井麗香は部の寮で生活、妹の蘭世も部員で「刺激に」

 女子プロ5人の中で最も施設を利用し、部の練習にも参加しているのが、臼井だという。部の寮でも生活しており、寮から程近い成田空港から遠征に向かうこともある。空港まで車で送るのは、部員でもある妹の臼井蘭世(2年)の役割だ。臼井蘭は昨秋、プロテストを受けるも2次予選で不通過となり、今年のテストに懸けている。

「姉もいましたし、このゴルフに集中できる環境を求めて入りました。姉にはよくアプローチ、バンカーショット、パターを教わっていて、刺激を受けています。今はここに加え、週3回は、今野康晴プロの指導を千葉で受けています。体幹に力を入れるけど、グリップ、腕はリラックスすることを教わって、自分のゴルフが変わってきました。練習が終わったら寮に戻ってきます」

 21年度は男子プロ5人のうち、石坂友宏も含めて4人が寮で生活をしてきた。石坂はツアー予選会(QT)を経て出場権を得た昨季2000-21年シーズンで賞金ランク17位(5620万4216円)でシード権を獲得し、テストを受けずに認定プロの資格を得た。それに続こうとしているのが、3月に卒業した渡邉悠斗だ。

「僕は高校を出てすぐにタイに渡り、タイツアーのQT8位で出場資格を得ました。一方で、この大学にも入学していました。結局、コロナの影響でタイのツアー出場は2試合限りで帰国し、ここで寮生活を始めました。昨年、受験した日本のQTは1次で落ちましたが、素晴らしい環境で練習をさせていただいたことに感謝しています」

 卒業後、渡邉は千葉県内のゴルフ場で仕事をしながら、日本でQT挑戦やタイツアーへのスポット参戦を目指す。だが、大学側は「卒業生も在校生と一緒にトレーニングや練習をすることは可能」という姿勢で、渡邉も「お世話になりたい」と話している。

新入部員は吉田優利の妹ら過去最高18人、初心者も入部

 こうした環境を求め、4月からは過去最高の18人が入部する。21年度までは部員数38人で、稲見、石坂を含めて9人が卒業したため、新年度の部員数は計47人。さらに新2年の六車日那乃が、オーガスタナショナル女子アマ(3月30日~4月2日)に出場予定など、部の注目度は高まるばかりだ。

「新入部員に関しては、女子では吉田優利プロの妹でオーガスタナショナル女子アマ出場が決まっている吉田鈴、日本ジュニアに優勝した越田泰羽、(19年伊藤園レディス34位の)吉澤柚月らが入部します。一方、男子では、甲子園を目指した元球児でゼロの状態からプロゴルファーを目指す学生も入ります。初めてのケースですが、うちは本気でプロ目指すなら、未経験者でも受け入れていきます」(河野代表)

 実は一反田監督も、20歳でゴルフを始めている。高校時代まではサッカー部で、神奈川県選抜にも入った有力選手だったが、大学時代にゴルフ練習場でアルバイトをしたことをきっかけにクラブを握り、26歳でプロテストに合格。38歳の今もツアー出場を目指している。

「そういう意味では、男子部員たちは皆ライバルですし、僕も毎日のようにラウンドしています。大学生をゼロから指導していくのも新たな挑戦ですし、自分の経験も踏まえて伝えていきたいですね」

 もっとも、プロは厳しい世界。男子はテストに合格しなくても、プロ宣言してQTに挑戦はできるが、環境のいい4年間でも稼げるレベルになるのは至難。卒業後、就職する選手も出始めているという。

「昨年度は1人、地元の練習場に就職しましたし、ゴルフ部のある一流企業からの求人も増えています。」(河野代表)

 同大通信制の単位取得は、大学に通って講義を受ける必要がないため、自分のペースで単位を取得できる。評価は夏季と冬季に行われる集中授業と課題提出が中心となり、プロは出場試合ごとのレポートを提出している。まさにゴルフ漬けになれる大学。覚悟を持った学生たちは、将来を考え、今日も一打を放つ。

【日本ウェルネススポーツ大ゴルフ部のスケジュール】

・合同練習
月曜、木曜 トレーニング、ハーフラウンド
火曜、水曜 ラウンド

・自主練習
金曜、土曜、日曜 祝日 ゴルフ練習場、キャディーなどのアルバイト後、ラウンドなど

【21年度に在籍したツアープロ】

◆男子
※石坂友宏(3月に卒業)、石毛一輝(3月に卒業)、田中章太郎(3年)、市川輝(3年)、田中裕基(2年)

◆女子
※稲見萌寧(3月に卒業)、※吉田優利(4年)、※臼井麗香(3年)、※高橋彩華(3年)、※西郷真央(3年)

※はシード権を有する選手。学年は4月からの新学年(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)