フェラーリとシャルル・ルクレールの快勝劇でF1新時代の幕が開いた2022年の開幕戦バーレーンGP。その決勝を8位で終えた角田裕毅(アルファタウリ)に笑顔はなかった。「とりあえずポイントが獲れてよかったですし、いいシーズンスタートがきれたと…

 フェラーリとシャルル・ルクレールの快勝劇でF1新時代の幕が開いた2022年の開幕戦バーレーンGP。その決勝を8位で終えた角田裕毅(アルファタウリ)に笑顔はなかった。

「とりあえずポイントが獲れてよかったですし、いいシーズンスタートがきれたと思うので満足しています。でも、何台かクルマが止まったうえでの結果ということもあるので、運による部分もあります。それも含めて、クルマとしてもチームとしても自分自身としても、まだまだ改善していかなければいけないなと思います」

 1年前のデビュー戦よりもひとつ上の順位だが、今の角田にとっては決して満足のできる結果ではない。



開幕戦8位でポイントを獲得した角田裕毅

 しかし、レース週末全体の内容に目を向ければ、2年目の成長をしっかりと見せたレースだったと言える。

 金曜のアルファタウリは、開幕前テストとは打って変わって深刻なグリップ不足に苦しんだ。強い陽射しのあるFP1では最高の挙動を見せたAT03だが、寒いくらいに気温と路面温度が下がったFP2では、タイヤをうまく使いこなせなかった。

「ロングランも思っていたほどよくはありませんでしたけど、ショートランが問題です。全体的にコンマ数秒は足りないし、マシンのパフォーマンス不足です。まだ予選までにはFP3があるので、チームと話し合ってなんとかパフォーマンスを向上できればと思います」

 今年の角田は、開幕前テストから冷静な姿勢で自分たちのやるべきことに集中してきた。去年のようにメンタル的に不安定になってパフォーマンスに影響を及ぼすような場面はほぼなかった。

「もしQ3に行ければものすごくハッピーになれるでしょうね。上位はかなりタイトな争いですけど、逆に言えばコンマ数秒を稼ぐだけでQ3に行けるチャンスが出てくるので、それができればと思います」

 金曜の夜にチームが徹底的にデータを分析し、対策を用意してきた。ピエール・ガスリーはそれをFP3で試し、最終調整を施してから予選に臨むことができた。その結果、ガスリーは「マシンは昨日に比べてかなりよくなっている」という手応えとともに、まさに角田の言うコンマ数秒を見つけ出し、マシン性能を最大限に引き出してQ3進出を決めてみせた。

ぶっつけ本番での決勝スタート

 それに対して角田は、FP3でピットアウトを仕掛けたところでマシントラブルが発覚。ハイドローリックの油圧を失ってセッションを丸ごと失うことになってしまった。

 ぶっつけ本番で臨まなければならなくなった予選で、角田はQ1からソフトタイヤを3セット投入して戦ったが、思うような結果は得られなかった。

「まぁ、しょうがないなと思います。セットアップ面でなかなか思うようにまとめきれず、という感じでした。Q2進出はかなりタイトなバトルになるだろうなと思っていましたけど、FP3で走れなかったせいで、予選に向けて思いどおりのセットアップを仕上げられなかったことが大きかったです。ここまで下位になるとは思っていませんでしたけど、シーズンを通してもっとクルマの開発を進めていくしかないと思います」

 角田はフラストレーションを圧し殺すように言った。

 Q1でのガスリーとのタイム差は0.654秒。ぶっつけ本番であったことを考えれば決して悪くはないが、ここで怒りを爆発させて乱れてしまっていた昨年の角田とは違う。冷静にデータを見直し、マシンだけでなく自分のドライビングにも足りない部分があったことも見詰め直したという。

「まだ開幕戦なので(マシンに不慣れで)ああいうことが起きるのは仕方がないですし、それよりも僕自身がパフォーマンスを出しきれなかったことに対して『なぜなんだろう』っていう、フラストレーションというより悩んでいたというところはありました。でも、レースはレースで気持ちを切り替えて戦うことができました」

 決勝でのスタートは、F2時代に経験した18インチタイヤの蹴り出しやスタート直後のグリップ感覚を思い出しながら、見事に決めて16番グリッドから1周目で12位までポジションを上げた。

 タイヤのデグラデーション(性能低下)が大きく、ソフトタイヤを連投して攻めの戦略。アルファロメオのバルテリ・ボッタスを抑え込んだり、アルピーヌのフェルナンド・アロンソを抜いたりと、安定した走りを見せて入賞圏を争った。

アルファタウリの立ち位置は?

 マシンのパフォーマンスとしては、中団グループ上位のハース、アルファロメオのみならず、アルピーヌにもついていくのは難しかった。8位入賞を果たしたとはいえ、角田自身が言うとおり3台のリタイアとセーフティカー導入がなければ、角田は13位だった。ここからフレッシュなタイヤで何台抜いていけるか----。そんな矢先のガスリーのリタイアとセーフティカー導入だった。

「全体的なダウンフォース量がほかのチームと比べて足りなくて、スライドしやすいなというのを感じました。そのせいでタイヤがオーバーヒートしやすかったり、フロントがロックアップしやすくなっているんだと思います。挙動が不規則な部分もありますし、問題はたくさんあります」



ワンツーフィニッシュで開幕戦を制したフェラーリ

 現実的にはアストンマーティンやウイリアムズとの争いというのが、今のアルファタウリの立ち位置だ。

「アストンマーティン、ウイリアムズあたりとの争いだと思います。コンストラクターズ選手権でいうと8位争いあたりになると思いますが、間違いなく厳しい状況です。でも、まだシーズンは22戦ありますし、まだまだクルマの開発も進んでいきます。

 今週末にも多くのデータを収集することができましたし、マシンを改善するためのアイデアもあります。なので、シーズンを通してマシンの改善を進めて、常に6位や7位争いができるように、チームとしてランキング5位争いができるようにしていきたいと思います」

 そんななかでもしっかりと最後までポジションを守って生き残ったからこその8位入賞。結果はマシンの改善が進めば着いてくる。苦境のなかでドライバーにできるのは、常に自分自身とマシンのパフォーマンスを最大限に引き出すことだけだ。

 角田裕毅は開幕戦バーレーンGPでしっかりと2年目の成長を見せた。結果ではなく、内容で。それを続けていければ、やがて光明は見えてくるはずだ。