学生ハーフで國學院大の選手がワンツーフィニッシュ。1位の平林清澄(右)と2位の中西大翔(写真:筆者提供)快走した國學院大の選手 圧巻の走りだった。 ロードシーズンのラスト、1年間のシーズンの締めくくりでもある日本学生ハーフマラソン(3月13…



学生ハーフで國學院大の選手がワンツーフィニッシュ。1位の平林清澄(右)と2位の中西大翔(写真:筆者提供)

快走した國學院大の選手

 圧巻の走りだった。

 ロードシーズンのラスト、1年間のシーズンの締めくくりでもある日本学生ハーフマラソン(3月13日)を制したのは、國學院大の1年生エース平林清澄だ。61分50秒で優勝し、6月のユニバーシアードシティゲームズ2022の出場権を獲得した。

 ゴール直後、咆哮し、喜びを爆発させたが、その12秒後、2位で駆けこんできたのは同じく國學院大の新キャプテン、中西大翔(3年)だった。國學院大がワンツーフィニッシュを決め、伊地知賢造(2年)も8位に入賞、4月からの新シーズンに向けて、大きな収穫を得た。

 この日の学生ハーフは、3年ぶりに元のスタイルに戻った。

 2020年はコロナ禍の影響で中止、昨年は無観客で立川駐屯地の周回コースになった。今年は市街地に出て、公園内に入ってゴールというこれまでのコースになった。

 気温20度、いきなりの暑さにスローペースでの消耗戦が予想されたが、レースはハイペースで始まった。明大勢が先頭集団を形成し、最初の5キロを14分30秒で入った。平林はスローペースを覚悟していたが、「得意のハイペースのレースになってよかったと思った」と言う。中盤まで富田峻平(明大)、吉田礼志(中央学院大)らと集団で走ったが、14キロを過ぎて前に出た。

「その時は、明大や中央学院大の選手がチラチラ見ているのがわかったので、ペースを上げていこうぐらいにしか思っていなかったんです。でも、前に出てしまい、ヤバいなって思ったんですが、うしろが離れていったので、これはイケるなって思い、そのまま行きました」

 同じ先頭集団で走っていた中西は、遠くなっていく平林の背中を見て、「余裕があるな」と感じていた。

「平林は、練習から強かったんですけど、今回も前に出て行った時、速いなと思いましたね。ついていくとキツイと思ったので、集団の中で力を溜めながら平林を追おうと考えました」

 平林は、そのまま独走し、ゴールを駆け抜けた。

「14キロで前に出て、あとは逃げ切れるかどうかが自分の課題だったんですけど、絶対に抜かれないようにと思って走っていました。ラスト、しっかり逃げ切ることができてよかったです」

 平林は、満足そうな笑みを浮かべた。

監督も「あいつはエグい」

 ラストをいかに逃げ切れるか。

 それが今シーズン、いや平林曰く「高校生の時から」の大きな課題だった。初めて出場した3大駅伝の初戦である出雲駅伝ではアンカーで出走した。3位で襷を受け、突っ込んだ走りで前を追い、一時は東洋大を抜き、2位まで躍り出た。だが、後半、耐えきれずに抜き返されてしまい、チームは4位に終わった。アンカーという結果が求められる区間での失速は、平林にとって苦い経験となった。それでも持ち前の修正力を見せ、全日本大学駅伝では前半を抑えて後半で勝負というレース展開を演じ、7位から3位に順位を押し上げた。だが、完全克服には至らず、箱根駅伝後も「ラストの弱さ」の克服に取り組んできた。

「箱根が終わってからも、そこが足りないというのを意識して、朝練後にそのまま流しを入れたり、距離走が終わってからも流しを入れていました。そうしてスピードを磨いてきたので、それがひとつ成果として今回、表われたのかなと思います」 

 練習メニューに自分なりの追加を入れ、ベースアップに努めたのだ。さらに、平林の成長に欠かせないのが練習ノートだ。

「レースで課題を見つけて、修正するしか強くなる道はないと思うんです。練習ではいつも動画を撮ってもらっているので、それを見て今日ダメだったところ、修正で取り組んでいるところをチェックしてノートに書きます。その反省をしながら次のポイント練習に向けてジョグでつないでいます」

 そうした小さな努力をコツコツと積み重ねたことで力をつけ、今回の優勝につながった。

 國學院大陸上競技部の前田康弘監督も、「あついはエグい」と高く評価している。

「レース10日前の練習で5000mを2本やって、1本目14分30秒、2本目14分6秒で終えて、もう1本行けますっていうんで、やばいな、こいつはと思いました(笑)。その内容を見ても、(今回は)イケるなって思いましたね」

 今回のレースで平林が結果を出すことを前田監督は確信していたようだ。

マラソン挑戦も視野に

 平林のルーキーシーズン、プロ野球のように新人賞があるなら彼が受賞していただろう。今回の優勝に加え、ホクレン網走大会の1万mで28分38秒の自己ベストをマークし、出雲、全日本、箱根駅伝と3本の駅伝を走った。

「自分でも、よくやれた1年だと思います。でも、今日のレースでラスト1キロをしっかり上げることができなかった。逃げ切れていますけど、そこのラスト1キロを上げきれるようにならないといけないと思っています。あと、僕はトラックではいい記録をもっていないので、ここからもう1回作り直して、スピードを磨きながらタイムも狙って行きたいと思います」

 負けん気の強さに加え、高い向上心を持ち、淡々と自分のリズムを刻んでロードを走れるところは、マラソン向きだ。平林自身も昨年、「将来的にはハーフとマラソンをやっていきたい」と語っていた。どうやらその時期はかなり早まりそうだ。

 レース後、前田監督は来季の平林について、こう語った。

「平林とは、MGC(出場権)をとりたいねという話をしているので来年、マラソンにチャレンジさせます」

 マラソンで42キロを走るには足作りはもちろん、体力的に強化しないと故障する可能性があるため、これまでは練習を積み重ねて体が完成した上級生が走ることが多かった。だが、「この子はちょっと違う」とスケールの大きさと高い走力を感じた前田監督が昨年、平林にマラソンへの挑戦を打診した。

「平林は十分、勝負できると思うし、将来、マラソンの日本代表になれる素材。足りないのは経験だけだと思うんです。レースについては、大阪か東京を考えていますが、東京は設定ペースが1キロ2分57秒と早く、面子的にも狙ってくる選手が多いと思うので、大阪のほうがいいかなと思っています。今年はMGCを狙うことを考えて、平林については夏も計画を変えていきたいなと考えています」

 平林もやる気満々だ。

「僕もやるからにはMGCを狙いたい。昨年から監督から『お前はロードでいける』と言ってもらっていますし、自分もその気でいました。42キロは未知ですが、これからの練習で自分のなかにある恐怖心をなくしていけたらなって思います」

 その前に6月、中国で開催予定のユニバーシアードシティで世界の学生たちと戦うことになる。ここ2年はコロナ禍の影響で中止になっているが、3年前の19年イタリア・ナポリで開催された時は、ハーフマラソンで相澤晃、中村大聖、伊藤達彦の3名が1位から3位までを独占した。平林もそこを意識していると言う。

「前回、イタリアでは日本人が1位から3位を独占しているじゃないですか。世界のレベルは高いと思うけど、自分も相澤さんたちと同じように世界と戦って、そのなかでしっかりと結果を残していきたい。最終的には昨年、大迫(傑)さんが戦ったように自分もいずれ五輪で世界と戦っていきたいと思います」

 平林、そしてキャプテンの中西のふたりが学生の世界ながらも結果を出せば、その後の夏から秋に向けてチームに好影響を与えるだろう。國學院大は木付琳、島崎慎愛、藤木宏太ら主力が卒業し、4月からは新たなチーム作りが始まるが、突出した選手がいるとチームにはそこに追いつこうという意識が高まる。駒澤大の田澤効果がまさにそうだが、キャプテンの中西、平林、そして2月の全日本実業団ハーフで60分43秒という好記録を出した山本歩夢(1年)が軸となり、チームを引っ張っていくことになる。

「出雲優勝を経験しているのは、このチームでは自分しかいないので、その時、優勝した思いをチーム全体で、箱根で味わいたいと思います」

 キャプテンの中西は、そう語る。

 國學院大には、4月から5000m13分台の上原瑞翔ら力のあるルーキーが入ってくる予定だ。この日の学生ハーフでは坂本健悟(3年)が62分58秒で18位とまずまずの結果を出し、新4年生も力が整いつつある。駅伝シーズンに向けて前田監督のチーム作り、そして平林のマラソン挑戦と今年の國學院大は華となる話題で陸上界を盛り上げてくれそうだ。