埼玉・むさしの村ローンテニスクラブを練習拠点とする齋藤惠佑にインタビュー1月の全豪オープンで3回戦進出を果たしたダニエル太郎(エイブル/世界ランキング106位)もかつて練習していた埼玉・むさしの村ロ…

埼玉・むさしの村ローンテニスクラブを
練習拠点とする齋藤惠佑にインタビュー

1月の全豪オープンで3回戦進出を果たしたダニエル太郎(エイブル/世界ランキング106位)もかつて練習していた埼玉・むさしの村ローンテニスクラブ(以下MLTC)。ここを練習拠点としているのが、山﨑純平(日清紡ホールディングス)、齋藤惠佑(富士住建)、住澤大輔(橋本総業ホールディングス)、正林知大(Team REC)の4選手だ。2年ほど前から一緒に練習し、切磋琢磨している4選手に迫った。

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第2弾の今回は、齋藤惠佑をフィーチャーする。ジュニア時代には、ジュニアの世界最高峰の大会である世界スーパージュニア選手権で優勝し、ジュニアデビスカップ日本代表としても戦うなどトップレベルで活躍してきた。2019年12月にプロ転向し、直後に新型コロナウイルスが流行。これまでなかなか思うようなプロ活動ができていない中、どのようにテニスに取り組んでいるのだろうか。



――まずは、どうしてMLTCを練習拠点にしようと思ったのか教えてください。
ジュニアの終わりぐらいの時に、山﨑純平くんと練習させてもらう機会があって、その時に武正真一コーチに少しずつお世話になるようになりました。僕は埼玉県出身なので、それ以前にも県大会の会場などで挨拶はさせていただいていましたが、純平くんと練習させてもらうようになって武正コーチが親身に接してくださり、テニスのアドバイスも含めて、“この人に教わりたい”と思うようになりました。そうして、プロとして活動を始めようという時に、お世話になることを決めました。

――日頃の練習は午前2時間(10:00〜12:00)、午後2〜3時間(14:00〜16:00/17:00)行い、トレーニングを2時間(16:00/17:00〜18:00/19:00)行うのが基本のスケジュールだと聞きました。
そうですね。午前は球出しやラリーなどの基本練習を、午後はポイント形式のゲームなど実戦練習を行っています。基本練習はストローク中心のものが多く、1対1でのラリー練習や2対1でのクロス・ストレート練習をよく行っています。

――3人のプロ(山﨑選手、住澤選手、正林選手)と練習できるという環境についてはどうですか?
そうしたテニスクラブは国内を見ても珍しいと思いますし、3選手のプレースタイルはそれぞれ違うのでとても練習になります。ジュニア時代、僕は球出し練習が中心でした。もちろんそのような練習はフォームの基本などが磨かれてこれまでにつながっている部分はたくさんありますが、今みたいに強い相手とラリーをみっちりと行うことはありませんでした。やはりプロを相手に試合で行うようなラリーを日頃からできるのは、上達につながっていると感じています。とてもありがたいなと思います。

「バックのクロスは少しボールの外側を
こするイメージで打っています」

――武正コーチが、齋藤選手の武器はパワー系ショットだと話していましたが、ご自身で考える得意な部分は何ですか?
主軸となる武器はフォアハンドだと思っています。ただ、バックハンドも自信を持っていて、特にバックのクロスは得意です。試合では序盤にバックのストレートを打ち、相手にストレートがあることを見せておいて、後半に向けてどんどんクロスにシフトしていきます。得意なショットを後半にとっておくと相手を迷わせることができるので、そのように試合の中では組み込んでいますね。ただ、ストローク中心で展開していっても、最終的にはボレーで終われるようにしたい。今は、それを取り組んでいます。



――バックのクロスはどのように打つのがポイントですか?
クロス方向へ打つ時は、一般的に引っ張りやすくなると思います。他の選手を見ていてもそういうケースは多いので、僕はクロスに打つ場合、ボールに対して外側をこするように、外側に振っていくイメージで打つようにしています。そうすると少し逃げていくような感じにもなるので、フォアも同じような感じで打っています。ストレートへ打つ時は、同じ形のまま打点を少し変えたりして打ち分けていると思います。

――現在、重点的に取り組んでいる点は何ですか?
試合ではストローク戦が中心となるので、きっちりクロスとストレートを、見てはっきりわかるように展開していくことを最近は特に意識しています。その中で、相手との陣形がどう変わっていくか。例えば、自分がクロスに打ったら、相手からストレート方向に返ってくる、そしてまた僕はクロスに打つと、相手はストレートへ、とバタフライのような形になると思うんですけど、自分がいいショットを打つと、そのバタフライの形がグッと変わってくるので、変わった時にどう対応するのか。逆に自分が崩れてバタフライの形が崩れた時にどう返球していくのか、といったことも考えながら練習しています。クロス/ストレートへ打ち分けることと、相手が崩れた時に自分がどう対応していくか、ということですね。

――いろいろなことを考えながらやっているんですね。
感覚的にやっている部分もありますが…考えてやっていることが多いかもしれないですね。逆に、考えすぎてあまりうまくいかない、ちょっと空回りするケースもあります(笑) コートを出て後で考えてみると、“あそこの場面ではやっぱりこうだったかな”とか。試合でこそ頭を働かせなくてはいけないんですけど、うまくいかないこともありますね(笑)

「足の運びやリズムはかなり意識してやっています」

――2019年にプロ転向後、すぐに新型コロナウイルスが流行。プロ活動も難しい状況が続いていると思います。
そうですね。プロになって、これから“さぁ、スタートダッシュだ”という時に、試合も遠征もなくなってしまいました。また、ジュニア時代にランキングで上位だった選手に与えられる特別免除もなくなり、本戦から入れるところを今は予選から出場しなければなりません。特別免除がなくなったのは痛かったなと思います。

――それではプロ生活で印象的だった出来事はありますか?
新型コロナウイルスが流行して遠征に行けなくなったことが最もインパクトは大きいですが、プロに転向して変わったのはトレーニングですね。ジュニア時代はコートの内外で走ったりすることが多かったのですが、MLTCでお世話になるようになって、純平くんらがジムの会員になってトレーニングにしっかり取り組んでいることを知り、僕もジムに通うようになりました。トレーナーさんにもお世話になって教えてもらったり、テニスと並行してトレーニングをしっかりと行うようになったことが、プロになって大きく変わったところです。腕立てや腹筋・背筋なども全然やってこなかったので、そこは変わってきた部分ですね。

――トレーニングの効果はテニスに表れてきていると感じますか?
そうですね。動きの質が少し変わってきたな、と実感できる部分はあって、トレーニングはやっぱり大事なのかなと思います。テニスに使えるような動きや、腹筋・胴周りの筋肉など体幹部分を中心に鍛えていて、例えばコート上でボールを走って追いかけていった時に最近はあまりバランスが崩れなくなったり、片足でバンッと着地した時も“おっとっと”となることがなくなりました。結構いろいろな面でトレーニングの効果を実感できる部分は多いですね。



――MLTCのコートはクレーコートですが、サーフェスについてはどうですか?
クレーコートは足元がすごく滑るので、フットワークの上達につながる部分はあると思っています。また、テニスの面ではプレースメントだったり、ハードコートと比べてクレーコートはラリーが長くなるので展開などを学ぶことができます。昔からクレーでやる選手のほうがうまくなっていくと言われていると思うので、そういう面ではクレーでできることはラッキーだなと思いますね。

――武正コーチが、齋藤選手はフットワークもいい、とおっしゃっていました。ご自身ではどう考えていますか? 
足の使い方はかなり意識していて、トレーニングにプラスしてフットワークのドリルを入れたりしています。最近はそれほどやっていませんが、ちょっと前までは毎日のようにやっていました。また、並行してテニスの練習中にも、“足はどう動いているかな”と、足に神経をめぐらせるような感じで考えながら練習していました。例えば、“あ、今は一歩ムダな足が入ったな”“あ、今はちょっと違うリズムだったな”とか、足を意識していると、足がどう動いているのかテニスをしながらだんだんわかってくるんです。
最近、練習中に始めたのは「歩数を増やす」ということ。ボールを打つ前の歩数を思い切り増やして、その後に必要な分だけ削っていきます。必要な歩数だけにする、というふうにしていて、そうすると、一発でパッと止まって、そのまま打つことができたりします。あとは、足のリズムを一定にすることを試みたり。例えば、“タンタンタンタンタン”とか。その次に速い状態で一定にしてみたりする。そうすると、時々“タッタ、タ”みたいな感じになるので、“今、リズムにノイズが入ったな”みたいな感じでわかるんです(笑) 現在はそれほど意識せずにやっていますが、足はかなり意識してやっていますね。

「ピアノを弾くと次の日の
テニスの調子がいいんです(笑)」

――リズムを意識しているんですね。リズムといえば、齋藤選手はピアノが弾けると聞きました。
弾けるのは一曲の半分ぐらいなんです(笑) 祖母がピアノの先生で、父も2曲ぐらい弾けるんですよ。といっても、父は楽譜が読めないので、祖母に指を押すところだけ教えてもらって、その流れで僕も指だけ教わりました。ショパンの幻想即興曲を途中まで弾けます。

――そんな難しい曲を弾けるなんてすごいですね! よく弾いているのですか?
はい、最近はよくピアノを弾くようにしています。少し前に武正コーチの家にお邪魔した際、ピアノが置いてあったので弾かせてもらったことがあるんです。でもその時に久しぶりに弾いたら、あんまり弾けなくて、それがちょっと悔しかった(笑) それに加えて、前日にピアノを弾くと、次の日のテニスの調子がちょっとよかったりするんです。なんで調子がいいんだろうなぁ? と思いながらも、“じゃあ、ちょっと弾いておこうかな”といった感じで弾いたりしています。ただ、僕も楽譜は読めないので、祖母にちょっと教わってパッと弾いて適当に楽しんでいます。



――ピアノはテニスにもいい影響を与えているんですね。
そうかもしれないですね。指は体よりも細かいところなので、動きが身に付きづらいのではないかと思うんです。最初はゆっくりとスローモーションで弾いて、だんだんとスピードを速くしていく、というふうに僕は覚えていくんですけど、最初にゆっくりやることで体に覚え込ませる、というか、体に馴染んでくる感覚があります。そこは、運動という点でテニスでも同じではないかと思いますね。
僕は今でも、素振りをよくやるんです。3〜4日に1回ぐらいのペースで、夜、家に帰ってからやったりします。その素振りでも、最初はちょっとスローモーションで振ってから、徐々に速くして振っています。ピアノでも父からまずはスローモーションで弾けよ、と言われていたので、素振りでも同じようにやっていますね。

――素振りをやる意図や目的は何ですか?
コート上でラリーだけをやっていると、自分のベースのスイングやバランスが崩れてくるので、フォームをおさらい・確認するような目的でやっています。あとは、肩周りがちゃんと動くかどうかをチェックしています。自分の基本となるスイングから離れていってしまったのを、素振りをすることで少し近づけていく、といった作業になってくるかなと思います。素振りをした次の日の練習はいい感覚で行うことができ、肩周りを動かしやすかったり、スイングしやすいということを感じますね。
ジュニアの子たちも素振りはよくやっていると思いますが、ラリーと同じスピード・リズムで振るだけではなく、もう少しゆっくり振ってスイングを確認するなど、工夫して行うとより効果が出てくると思います。最初から速く振っても、間違ったフォームで振っていたら悪いクセがついてしまうので、ゆっくりフォームを確認しながら、特に小さい子はコーチが見てあげるのがいいのかなと思います。

「今年後半までに世界ランキングを
300〜400位へ上げたい」

――昨年(2021年)を振り返ってどうでしたか?
試合にはいろいろと出場して心に残っているのは、7月26日〜8月1日にエジプト・カイロで開催された男子ツアー下部大会M15カイロ大会(クレーコート/賞金総額1万5千ドル)のダブルスで、住澤大輔くんとペアを組んで優勝できたことが一番うれしかったです。ツアー初優勝で、まさか優勝できるとは思っていなかったので自分でも少しビックリしました。決勝戦の前は、“頑張ろう!”ってすごく気合いが入りましたね。大輔くんがいいボレーをたくさん決めてくれて、またいいサーブを打ってくれたのでとても助けられました。
ただ、僕はダブルスで自分がミスした時にパートナーに申し訳ないなと思い、それがとても気になってしまうタイプ。なので、やはりシングルスのほうが好きですね。変なミスしても、それは自分のせいなので(笑) でもダブルスで優勝できて、ボレーなども自信になりました。これまではあまりボレーは好きではなかったんですけど、今後はシングルスでも頑張ってボレーを取り入れていきたいです。

――カイロへの遠征はいかがでしたか?
食事とかは結構きつかったですね。パスタが中心で、野菜とかも僕はちょっと怖くてあまり食べなかったので、少ししんどかったです。パスタも日本で買って行ったソースをかけたりして食べていましたが、それでも後半になるとあんまり食べられなくなってきたな、という感じでした。

――今まで遠征した中で大変だったことはありますか?
これまで遠征した中で一番きつかったのは、ジュニアデビスカップのアジア予選です。現地に着いて2日目ぐらいで体調が崩れて、38度ぐらいの熱が出て、さらにお腹も壊しました。それでも試合には出なくてはいけないので、何とか出場。そんな状態ではありましたが、1回も負けませんでした(笑)



――それでは今年(2022年)の目標を聞かせてください。
今はフューチャーズが主戦場となっているので、そこでできるだけ勝ち上がってランキングを限りなく上げていきたい。そして、今年の終わりぐらいまでにはどうにかチャレンジャーを舞台に戦っていけるようにしていきたいです。チャレンジャーに出場できるぐらいに世界ランキングを上げたいので、300〜400位を目指します。今は1000位代なので、なかなか難しい目標ではありますが、何とか上げていきたいなと思っています。

――将来の夢を教えてください。
将来的にはグランドスラムで優勝することが目標です。日本人男子としては、錦織(圭、フリー/同46位)くんの全米オープン準優勝が最高だと思うので、優勝できるように頑張りたいと思います。

――目指すプレーヤー像はありますか?
トップの選手で言えば、(ディエゴ・)シュワルツマン(アルゼンチン/同14位)がすごく好きです。小柄で、性格も僕と少し似ていると思っています(笑) プレースタイルはやや違いますが、シュワルツマンは強靭な体でたくさん走り回ってプレーするので、僕もあんなふうになれたらいいなと思います。コートでの動き方やステップなども動画を見て参考にしていて、“あぁ、これはこんな感じでやっているんだな”と取り入れたりしています。また、(ロジャー・)フェデラー(スイス/同27位)もとても好きな選手なので、止まって打つのを真似してみよう、とか、展開の早さなども参考にしたりしています。あのレベルを真似するのはなかなか難しいですが、できる範囲で取り入れています。



〈武正真一コーチから見た齋藤惠佑〉
惠佑は自分のプレーに対して自信を持っていて、いろいろ考えながらテニスに取り組んでいます。フットワークのリズムなども重視してやっていて、リズム感もよく、柔らかく動けることが彼の魅力です。趣味でピアノを弾いているようで、この間、家に来た時に初めて聞きましたが、結構うまくてビックリしました。そうしたこともリズム感につながっているのかもしれませんね。また、しっかり足を生かしたパワーショットを打てるところも、彼のよさだと思います。
今後の課題としては、試合の中でもっとさまざまなアイデアを出せると、よりよくなると考えています。練習の時にはいろいろなアイデアを出して楽しくプレーできるのですが、試合の中で一つのことに悩み出すと視野が狭くなり、行き詰まってしまうことがあります。展開が一辺倒になる時があるので、もう少し柔軟な視点を持ち、相手に対して冷静に考えられるようになるといいのかなと思います。


研究熱心でさまざまなことを考えながらテニスに取り組んでいる齋藤。軽快なフットワーク、力強いストロークを武器に世界の舞台へ大きく羽ばたいていってほしい。



【プロフィール】Keisuke Saitoh(さいとう・けいすけ) ■プロテニスプレーヤー ■所属:富士住建 ■2001年4月29日生まれ(20歳)、埼玉県北足立郡伊奈町出身 ■身長163cm、体重68kg ■左利き(両手打ちバックハンド) ■プロ転向:2019年12月 ■ATP世界ランキング1055位(2022年3月7日付)、JTAランキング31位(2022年3月8日付)


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