大坂なおみがコートに戻ってきた。全豪オープンから約6週間を経て、グランドスラムと同じ128ドローのビッグトーナメント、「第2のグランドスラム」とも呼ばれるBNPパリバ・オープンの1回戦に登場した。1回戦の相手は、元世界3位で2017年の全米…

大坂なおみがコートに戻ってきた。

全豪オープンから約6週間を経て、グランドスラムと同じ128ドローのビッグトーナメント、「第2のグランドスラム」とも呼ばれるBNPパリバ・オープンの1回戦に登場した。

1回戦の相手は、元世界3位で2017年の全米オープン覇者でもあるスローン・スティーブンス(米国)。先月末にアクロン・サポパン・オープン(WTA250)で2018年以来となる4年ぶりのツアー優勝を果たし上り調子だ。対する大坂は、全豪敗退後に大きくランキングを落としたことからノーシードでの挑戦になり、どのような試合が繰り広げられるかと注目が集まった。「

◆【実際の映像】強風に苦しみながらも逆転で初戦突破 勝利を決めた大坂なおみが笑顔で観客に応えるシーン

■風が渦巻くスタジアムで神経を尖らせる一戦

第1セットの滑り出し、いきなりダブルフォルトとした大坂は、キープに失敗しわずかな緊張感が走ったが、すぐさまブレークバックに成功。ラリーのなかで上手くペースを生み出すスティーブンスに対し、攻め急ぐことなく、がっちりとストローク戦で組み合い3-1とリードを奪った。このまま勢いに乗りたかったが、この日は空中でボールが揺れるほどスタジアムを風が渦巻き、両者ともいつも以上に神経を尖らせる試合となった。

その突風は大坂に打点のズレを強い、それがゆえにスイングに迷いが出てきたことでミスに繋がっていった。あまりにも強い突風だったため、大坂がバランスを崩し打球はネットの下段に飛んでいくことさえあるほどだ。

ミスの原因は他にもあった。そこには現代のテニスのベースにある「アップテンポな展開」も大きく関わっていた。今のテニスゲームの中心軸には「相手の時間を奪う」戦略がある。それに加え、テニス・ギアの開発の進歩により年ごとに今まで以上にパワーショットを実現できるようにもなっており、選手たちの攻撃力は増すばかりだ。

2018年のこの大会でツアー初優勝を成し遂げた際の大坂のテニスと今のテニスを見比べても、打球の速度はもとより、ボールを捉えるタイミングが一段と早くなり、ベースのポジションも上がっていることは一目瞭然。4度のグランドスラムタイトルを持つ大坂も、常に時代の流れのなかで自身のテニスを適応させていることが分かり、今回は強風の中で「相手の時間を奪う」という戦略を実行するのに手こずっているように見えた。

■「いかなる時もベストを尽くす」努力で高めた集中力

第1セットではミスを止めることが出来ず結局、3-6と落とす。だが、第2セットでは安定感を取り戻し6-1と奪い返し第3セットへ持ち込むことに成功。それでもスティーブンスがこのまま黙っているわけもなく、再びエンジンをかけ直すかのようにプレーを向上させ、大坂は0-2の15-40とブレークのピンチを迎えた。だがここで大坂はネットに出てプレッシャーをかけ返し1度目のゲームポイントを逃れ、2度目のブレークポイントは強烈なサービスで相手の勢いを阻止した。

大坂が波に乗りだす時、多くはバックの鋭角へのクロスショットが起点となりビッグフォアを発揮。そしてサービス1本でポイントに繋げることで彼女にとって良い時間帯が訪れやすく仕立てている。今回もそのプレーが、彼女のピンチを救い、自身の高いレベルのプレーを取り戻すきっかけになっているように思う。

また全豪の時から見受けられる「いかなる時もベストを尽くす」努力は、今回のように強風のなかでも大坂のフラストレーションを沈め、いかに上手くゲームを運ぶかへの集中を促した。

終わってみれば、第3セットはピンチを迎えた第3ゲームから6ゲーム連取での逆転勝利。勝利後には笑みを見せて観客に手を振り「とても寒かったのに、ずっと見ていてくれて本当にありがたかったです」と感謝を伝えた。

また試合を振り返り「スローンはトーナメントを勝ち抜いたばかりで自信に満ちていると思っていたので、私にとって本当に良いテストになりました。でも同時に、もっと多くの試合をする必要があります」と勝利への意欲を語った。

大坂は2回戦で第21シードのベロニカ・クデルメトワ(ロシア)と対戦する。初優勝の思い出深きインディアンウェルズの地で更なる飛躍を狙い邁進する。

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。