世界切符獲得に見えた"ダブルみゆう"の絆 第1回パリ五輪代表選考会として行なわれた「卓球・ライオンカップ・トップ32」(3月5日、6日/東京・アリーナ立川立飛)で、男子シングルスは張本智和、女子は早田ひなが優勝し、2年後に向けて好スタートを…

世界切符獲得に見えた"ダブルみゆう"の絆

 第1回パリ五輪代表選考会として行なわれた「卓球・ライオンカップ・トップ32」(3月5日、6日/東京・アリーナ立川立飛)で、男子シングルスは張本智和、女子は早田ひなが優勝し、2年後に向けて好スタートを切った。

 また、今大会は9月に中国・成都で開幕する「2022世界卓球選手権(団体戦)」の代表5枠の選考も兼ねており、男女の覇者に加えて男子で準優勝した及川瑞基、3位の横谷晟、4位の丹羽孝希、女子で準優勝した長﨑美柚、3位の木原美悠、4位の佐藤瞳が代表に決定。なお、1月の全日本選手権で優勝した男子の戸上隼輔、女子の伊藤美誠はすでに出場権を得ている。

 そのなかで、長﨑と木原は、ひときわ喜びを爆発させていた。



伊藤美誠を破り、準優勝で世界選手権の出場権を獲得した長崎 photo by スポニチ/アフロ

 名前の読み方が同じ「みゆう」であることから"ダブルみゆう"と呼ばれ、仲良しコンビとしても知られているふたり。長﨑が19歳、木原が17歳と年齢は2つ違うが、お互いが各世代の大会で優勝を重ねており、つねに"パリ世代のホープ"として期待されてきた。

 2019年のITTFグランドファイナル女子ダブルスでは、準決勝で中国の孫穎莎(スン・イーシャ)/王曼昱(ワン・マンユ)ペアを下す金星を挙げた。決勝も韓国ペアに勝利して優勝を果たすなど、ダブルスではすでに世界レベルに達している。

 だがこれまで、世界選手権にはともに出場経験がない。長﨑は2018年のスウェーデン大会(団体戦)代表に選ばれたことはあるが、試合に出ることは叶わなかった。昨年11月のヒューストン大会(個人戦)では、女子ダブルスで"ダブルみゆう"ペアでの出場を目指していたが、それも届かず、悔しさをにじませた。

「次こそは絶対に行こうね」。そう約束を交わして迎えた今大会、長﨑は準々決勝で伊藤に、木原は平野美宇にいずれも4−2で勝利。ともに東京五輪組を破る活躍で、念願の代表入りを決めてみせた。

 試合直後には目を潤ませ、抱き合いながら「一緒に(世界選手権に)行けることがうれしい」と喜びをわかちあった長﨑と木原。思わずあふれた笑顔と涙からは、同じ目標に向けて過ごしてきたふたりの絆の深さが垣間見えた。

早田に続く"豪腕サウスポー"が開花

 もともと国際大会では常に上位に食い込む実力を持っている長崎と木原だが、今大会でさらなる進化を感じさせた。


ダブルスではすでに世界で結果を残している長崎(左)と木原

 photo by Kyodo News

 準々決勝で、東京五輪金メダリストの伊藤と対決した長﨑は、2−2と接戦で迎えた第5ゲーム、伊藤が積極的に両ハンドドライブで攻めに出るも、ことごとく打ち返し主導権を握らせない。逆に攻撃にリズムが生まれてきた長﨑が、持ち前の力強い両ハンドドライブで左右のコーナーを打ち抜き、一気に流れを引き寄せた。

 続く第6ゲームも制して大金星。平野、早田を含め"黄金世代"と呼ばれる伊藤への勝利について、「その3人は昔から強くて、私は2歳しか違わないのに、『なんでこんなに差があるんだろう』って思うときもあった」という。それでも「自分でもやればできると思って、その先輩たちに挑戦するのが楽しい」と充実感をにじませた。

 一方、敗戦した伊藤は「思い切って向かっていってるけど、その感じも伝わらない」と話すように、バックハンドやレシーブのミスが増え、がっくりとうなだれるシーンが多く見られた。試合後には「どうやって点数を取ったらいいかわからなかった。思考停止。自分の中でも笑えちゃう。不思議すぎて、初めての感覚」と本音を吐露。国内で戦い続けるモチベーション維持の難しさも、少なからず影響していたという。

 とはいえ、伊藤は誰もが認める日本の絶対的エース。そんな彼女に黒星をつけた自信と経験は、長﨑にとって、間違いなく次のステージへとつながっていくだろう。それを表すかのように、同じ日本生命に所属する先輩・早田との決勝でも、3−0と先に王手をかけた。そこから大逆転を許したが、昨年の東京五輪明けから絶好調の"豪腕サウスポー"と大接戦を繰り広げた。

 早田にも引けを取らないパワフルな両ハンドドライブと、国内屈指の威力あるチキータが魅力の長崎。20歳を迎える今年、次代を担う"左の大砲"がついに花開く。

強化した「フォアスマッシュ」で進化を見せた木原

"相棒"の木原も進化を遂げていた。

 彼女は全日本選手権前に、課題とされていたフォアハンドを徹底強化。それによって同選手権ではジュニア女子シングルスで初優勝し、一般の部でもベスト4入りを果たした。今大会の平野との準々決勝でも、その進化したフォアハンドが炸裂する。

 試合は序盤、テンポの速い"高速卓球"が得意な平野相手にも臆せず、木原は真っ向勝負で挑んでいく。もともと得意とする、早い打点で放つ表ソフトラバーによるバックハンドと、コンパクトに振り抜くスマッシュをフォアハンドで多用。スイングから余分な動きが減り、スムーズな両ハンドでの攻撃が可能になった。それによって平野を上回るほどのパワーとスピードでラリーを展開し、一気に2ゲームを連取した。

 その後はミスにつけ込まれて2−2のタイに持ち込まれたが、第5、6ゲームは打ち合いを制して4−2で勝利。パリ五輪選考レースのポイントよりも「世界選手権のほうが嬉しい」と喜びつつ、試合については「自分を信じて、自分から先手を取ることを意識した」と振り返った。

 世界選手権の切符を逃した平野は、「ラリーでちょっと弱気になってしまった。もっと考えをまとめて強気で行けたらよかった」と反省を口にしつつ、「いつもより内容的に良いところもあった」とここ数試合で調子は上向きの様子。次の大会に期待がかかる。

 木原は準決勝で早田に敗れたものの、3位決定戦で佐藤瞳を4−1で下し、3位入賞。カットマン対策としても強化していたフォアスマッシュが冴え渡り、試合時間1時間以上に及んだ全日本選手権の準々決勝よりも「最後まで自分のプレーができた」と手応えを感じたようだ。

"東京五輪組"ベスト8敗退も、石川は好調ぶり示す

 長﨑、木原と着実に力をつけてきた若手が輝きを放つ一方で、東京五輪組がそろって準々決勝で姿を消したのも、今大会の大きなトピックとなった。

 伊藤と平野は前述の通りだが、2月で29歳を迎えたベテラン・石川佳純の調子はどうだったのか。

 準々決勝で戦ったのは、今大会の女王・早田。「だいぶ勝てていない」と話していた石川だが、打球の回転量や緩急、長短、コースの打ち分けと、長年の経験で培ったさまざまな戦術・技術で相手を崩していく。「全体的には試合のペースを握っていける部分もあったし、内容的に悪くなかった」と話すように、リードしていたゲームはきっちりとものにした。

 しかし、3−3と最終ゲームにまでもつれると、先に5点目を奪いチェンジコートをする優位な展開に持ち込むが、チャンスボールのミスから流れが変わって早田が逆転。その後は一進一退の攻防となったが、最後は早田が11-9でゲームを奪い、勝利した。

 熱戦の末に敗れ、14歳から14大会連続で世界選手権に出場してきた記録がストップした石川。それでも「気持ち的には今までの苦しいばかりの試合よりは楽しんでできた」と、試合中は躍動し、はつらつとしたプレーを見せていた。世界最高峰の技術力も健在で、その好調ぶりは言わずもがな、というところだろう。

 5〜8位決定戦1回戦で、ゲーム中に右足首をひねって痛めるアクシデントに見舞われたが、自身のインスタグラムで「足は大丈夫」と報告。出場を予定している、世界ツアー「シンガポール・スマッシュ」(3月7〜20日)での吉報を待ちたい。

 これまで世界の最前線で日本女子卓球界をリードしてきた石川と、伊藤たち"黄金世代"。そこに割って入る存在として、今大会、長﨑と木原が大きなアピールに成功した。

 国内選考会を重視する方針で進んでいく今回のパリ五輪選考レースでは、例年以上に厳しい戦いが待っているだろう。そこで彼女たちふたりが突き抜け、世界選手権に続いて五輪への切符も手にするのか。そして、新たな日本代表の「顔」として飛躍を遂げられるのか。"ダブルみゆう"の活躍から目が離せない。