大学スポーツ協会の副会長として女性アスリートの声を聞く、有森裕子さん 女子マラソンでオリンピック2大会連続メダルを獲得した有森裕子さん。彼女は現在、「国際オリンピック委員会(IOC)スポーツと活動的社会委員会委員」、「スペシャルオリンピック…
大学スポーツ協会の副会長として女性アスリートの声を聞く、有森裕子さん
女子マラソンでオリンピック2大会連続メダルを獲得した有森裕子さん。彼女は現在、「国際オリンピック委員会(IOC)スポーツと活動的社会委員会委員」、「スペシャルオリンピックス日本理事長」など、スポーツ振興におけるさまざまな活動を行なっている。
そのなかでも副会長になっている「大学スポーツ協会」(以下:UNIVAS)は、現在注力している活動のひとつだ。2019年3月に設立された同協会で、翌年12月に「大学スポーツありもり会議 "animoの部屋"」を立ち上げ、大学の運動部活生たちの声を聞き、より安全安心な環境整備の支援につなげていく活動をしている。
この立ち上げの思いと女性アスリートが抱える問題について話を伺った。
――まずUNIVASの副会長として関わることによって、大学スポーツの現状についてどんな印象を持ちましたか。
就任当初、私はUNIVASで何ができるんだろうと思っていたので、まずはいろんな方々から大学スポーツの現状や考え方を聞きました。それを聞いて、実はとても驚きました。大学の部活が大学の責任配下になく、あくまで課外活動だったことを私は知りませんでした。極端なことを言うと、何か不祥事があった場合、部活は課外活動の位置づけですので、大学に責任がない状態になるんです。
OB、OG含め、それをわかっている人がどれだけいるのか。学生たちはそれをほとんど知らない状況でスポーツに励んでいますので、そんなアスリートたちをUNIVASは支援しているんです。
――有森さんは、「ありもり会議」を立ち上げ、学生の女性アスリートからの声を直接聞く機会などを設けています。そのなかでどのようなことを感じていますか。
女性でスポーツをする人数が、男性に比べて圧倒的に少ないということです。部活としてしっかりスポーツをやりたいけど、そもそも人数がいない。だからレベルも上がらない。そんな悩みを聞きました。
それは女性がスポーツにおいて、未来をどう描けるかという差かなと思います。男性にはプロや実業団などスポーツで活躍する選択肢がたくさんありますが、女性はやっぱりまだ少ない。そうすると、大学スポーツで成績を残した後、「それが生きるのにつながりますか」、「将来どれだけの意味を持っていますか」と疑問を抱いてしまう。その描ける未来も含めて盛り上げないといけないなと感じています。
――大学での女性アスリートの少なさのほかに、どんな悩みが出てきましたか。
指導者の多くが男性というのは困っていましたね。月経のことなど、一番センシティブな体のことを含めて相談したいけど、ほとんどが男性なので、非常に難しさを感じているということでした。スポーツ団体や学校など、指導者などを選ぶ立場の組織の人がほとんど男性なので、そこに不平等さを感じる人も少なからずいますね。
――女性アスリートが抱えている悩みを解決していくために、どのようなことが必要でしょうか。
小学校の時に、具合が悪くなったり、ケガをしたりした時に、真っ先に保健の先生のところに行きましたが、それと同じで、身近にそんな相談者がいることが大切ですね。女性アスリートは、大学の年代ですごく体が変化しますし、体重コントロールも難しく、それによってメンタルコントロールも難しくなるので、指導者にプラスして、メンタル的な部分と医学的な見地で相談できる人は配置しておくべきでしょうね。
本来は大学側が設置すべきだとは思いますが、課外活動の位置づけとなると、大学側に要求することは難しいので、UNIVASがカバーしていくという方法もあります。今はパワハラやセクハラの相談窓口がありますが、将来的にカウンセリング的な面、フィジカル的な面の相談や紹介の窓口になることも大事なのかなと思います。
――そのほか、有森さんが見聞きする女性アスリートの問題はありますか。
悩みや問題点を他人に話すのは、実はすごく難しいんですよね。パワハラ問題もセクハラ問題も、伝える相手が組織になってしまう場合がとても多いんです。弁護士も指導者も組織から任命される場合がよくありますし、第三者委員会もメンバーを見ると組織絡みの方がいる場合があります。
それを知ると、被害を訴えたい人は、問題を解決してくれるイメージがわかない。言いたくても言えない人たちは、本当にたくさんいると思います。そうすると、アスリートの逃げ場がなくなり、SNSなどに訴えるしかなくなるんです。私は日本パラスポーツ協会の理事もやっていますが、パラアスリートで問題を抱えている人も本当に多いです。
――女性が抱える問題を解決するために、スポーツに関わる人たちは、どんな意識を持つべきでしょうか。
私は、女性が抱えている問題を解決しようと強く訴えるフェミニストではありません。すべてとは言いませんが、私は女性の問題の多くは女性が起こしていると思っています。女性の問題イコール、男性が敵、という意味ではないんです。
社会のなかで生きる人間が問題なので、女性が抱える問題を議論するなかには、必ず男性が入らないといけない。女性が女性のために頑張ろうとなってしまうと、問題が解決していかない側面があることを、女性がしっかりと認識すべきだと思っています。
だから私は常々、ウィメンズライツを考えるよりも、ヒューマンライツとして考えてねと伝えています。
――そのほかで、有森さんが女性アスリートにいつも伝えていることはありますか。
男女は考えるなと伝えています。女性を基準にするのではなく、一人の人間として、自分がやっているスポーツで、どれだけの価値を作り出せるか、その価値を周りに伝えていけるかどうかだと言っています。
女性が抱える問題は男性とともに考えるべきと語る有森さん
もし自分の周りで問題が起こっているとしても、自分がそこにコミット(関わっている)していないことはないんです。自分も必ずコミットしているので、女性だからと声高に言うのではなく、男女両方でよくしていかないといけない。その考えを持たないといけないでしょう。
女性アスリートのみなさんには、自分がどれだけの意識をもって、その問題を変えようとしているのか、その考える強さを持ってほしいと思っています。
【Profile】
有森裕子(ありもり・ゆうこ)
1966年12月17日生まれ、岡山県出身。日本体育大学を卒業後、リクルート入社。 女子マラソン選手として1992年バルセロナオリンピックで銀メダル、1996年アトランタオリンピックでは銅メダル獲得。1988年NPO法人ハート・オブ・ゴールド設立、代表理事就任。2007年にプロマラソンランナー引退。現在では、国際オリンピック委員会(IOC)スポーツと活動的社会委員会委員、日本陸上競技連盟副会長、大学スポーツ協会副会長、スペシャルオリンピックス日本理事長など、幅広い分野でスポーツ振興に関わっている。2010年IOC女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞。