D.LEAGUE「Benefit one MONOLIZ」のkeijiro 日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」。11のダンスチームが12 ROUNDに渡って毎回新しいダンスを披露する。現在ROUND.8を終え、終盤戦に差し掛かかっ…


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「Benefit one MONOLIZ」のkeijiro

 日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」。11のダンスチームが12 ROUNDに渡って毎回新しいダンスを披露する。現在ROUND.8を終え、終盤戦に差し掛かかっている。

 さまざまなジャンルのダンスチームが集まるD.LEAGUEのなかにあって、異彩を放っているのが、Benefit one MONOLIZ(ベネフィット・ワン モノリス)だ。彼らが披露しているダンスは「VOGUE(ヴォーグ)」。このジャンルは、1960年代のアメリカが発祥と言われ、ファッション雑誌「VOGUE」のモデルのポーズに似ていたことから、この名前がつけられた。より美しいポーズ、美しい体のラインから派生し、それが動きになって昇華していったのが、今のダンススタイルだ。また同性愛者の間で創出され、世に広まっていったことでも知られている。

 そのVOGUEを主体としたBenefit one MONOLIZを象徴するダンサーのひとりが、keijiro(けいじろう)だ。彼は同性愛者であるゲイを公表し、ROUND.5の「ジェンダーレス」をテーマにしたダンスでは、中心となって美を追求した踊りを披露した。


「ジェンダーレス」をテーマにしたBenefit one MONOLIZのパフォーマンス

 ©D.LEAGUE 21-22

 keijiroがおぼろげながらゲイを認識し始めたのは、小学生のころだった。「マツコ・デラックスさんや、ミッツ・マングローブさんとかが、すごくテレビに出ていて、当時は『おかま』という言葉ではありましたが、自分に似ているなと思っていました」という。それが確信に変わったのは、中学2年の時。同じバレーボール部の男子を好きになったことがきっかけだった。

「最初はいけないことなのかなと思ったんですけど、どこかで吹っきれた自分がいました。それで中学の時に、本当に信頼できる友達に勇気を出してカミングアウトしたら、笑われてバカにされちゃったんです。やっぱりダメだったなと思って、それからはずっと隠していました」

 生きづらさを感じる日々を送っていたkeijiro。周りから「普通じゃない」と言われると、「普通って何?」と考え込むこともあった。友達の間で「好きな女の子のタイプを言い合おう」となった時には、どう言うべきなのかと気まずさを感じた経験もある。何気ない言葉の一つひとつに違和感を覚えることもあり、自分らしさとは何なのかを自問自答する毎日だった。

 keijiroは、自分らしく生きるためには、しっかりと受け入れてくれる人を見つけ、カミングアウトをしなくてはいけないと感じていた。そして高校に入って、同性愛に偏見を持っていない友達を見つけることができた。勇気を振り絞ってカミングアウトしたところ、初めて自分を理解してもらえた。それを契機に、keijiroの気持ちに大きな変化が生まれた。

「自分のことを受け入れてくれたことによって、自分の意識が大きく変わりました。それまでは男らしさを出すために、歩き方、しぐさの一つひとつを気にしていて、これはよくて、これはしてはいけないんだなと、ダメなことを作っていました。その制限が何もなくなったことで、楽になりましたし、なによりも生きるのが楽しくなりました」

 それ以降、keijiroは自分らしくあるために、小学1年から続けていたダンスを追求し、関西を中心にインストラクターやプレーヤーとして活動。アーティストMVへの出演やコンテストで実績を積んだ。さまざまな活動をしているなかでも、ゲイであることを隠すことはなく、積極的ではないにせよ、聞かれた時には「ゲイなんです」と伝えてきた。

「ダンスは自分を確認できる表現方法」と語るkeijiro

 そして2021年11月からスタートしたD.LEAGUEの21-22SEASONから、Benefit one MONOLIZに加入。「ジェンダーレス」を掲げるチームのなかにあって、すでに不可欠な存在となっている。keijiroがダンスを通して伝えたい思いは、自信や勇気だ。

「僕自身が自信をなくしやすいタイプなので、セクシャリティに関係なく、自信をなくした時には、背中をポンと押してあげられるような、あの人が頑張っているから自分も頑張ろうと思えるような作品になっていたら、すごくうれしいなと思います」

 勇気をもってカミングアウトし、自信をもらえた過去の経験から、keijiroはダンスを通して、その思いを感じ取ってほしいと願う。そしてその思いはBenefit one MONOLIZのベースにもなっていると感じられる。さらにチームとして伝えたいものもある。

「レギュラージャッジのテリー伊藤さんが、モノリスを評価する時に、『美と退廃』という言葉を使われたんです。これまで自分たちのなかでは、共通したニュアンスがあったんですが、言葉で表現してもらった時に、腑に落ちたんですね。まさにこれだと。それを貫き続けることが、ファンの皆様に感動や影響を与えられるんじゃないかなと思います」

 Benefit one MONOLIZは、約2週間に1回、新しいダンスを披露するD.LEAGUEを戦うなかで、時には1日約8時間、ヒールを履いてダンスの練習をすることもある。激しい動きの連続で、足が悲鳴を上げそうになることもあるが、そんなハードな日々でもkeijiroは幸福感を覚えている。

「自分が自分でありながら踊れる。しかもD.LEAGUEという大きい舞台で、めちゃくちゃ注目されるなかで踊れている。責任を与えられている環境のなかで、みんなが団結して目標に向かっている。そういうメンバーにいて、すごく幸せだなと思います」

 D.LEAGUEの多くのチームは、男性と女性の混成チームとなっている。時には荒々しく、時にはしおらしくと、表現者の持つ幅や感性がそのまま生かされるのが、ダンスの一つの側面だ。keijiroのように「男性でも女性でも、何にでもなりたい」という人には、まさに最適な場と言えるだろう。keijiroも「人にお勧めするなら、自分のあり方をはっきり認識できるので、ダンスを勧めます」と語る。

 自分の生きる道を見つけたkeijiroだが、今でも生きづらさを感じることはある。そして自分と同じゲイをはじめとしたLGBTQ+の人が多いこともわかっており、そんな人たちが生きやすい未来になることを願っている。

「『男だから』、『女だから』とか、今の自分でいうと『ゲイだから』のように、『〇〇だから』という考え方が、自分自身を苦しめてしまうと感じていました。同じように悩んでいる人がいたら、その考え方からは離れてほしいなと思います。

 それから自分がこれからどうしたらいいんだろうと悩んだ時には、身近な人に伝えたほうがいいと思います。僕は周りに『自信がない』とよく言うことがあるんですが、そうすると、背中を押してくれたり、自分にあったことを勧めてくれたりしてくれるので、自分の道を見つけやすくなるし、霧が晴れるんじゃないかと思います」

 同じような境遇で悩む人たちの心の霧が晴れるようにと、ダンスを通してその思いを表現するkeijiro。今、自分の生きる道を見つけ、D.LEAGUEの舞台で輝くkeijiroが、LGBTQ+の人たちにとって、ひとつのロールモデルとなるのではないだろうか。

【Profile】
keijiro(けいじろう)
2000年1月18日生まれ、京都府出身。6歳の時にダンスを始める。POP、HIP HOP、JAZZ、Style Hiphopなど様々なダンスを習い、独自のスタイルを確立。アーティストMVへの出演やコンテストで実績を積み、インストラクターやプレーヤーとして活動。D.LEAGUE、21-22SEASONからBenefit one MONOLIZにレギュラーダンサーとして加入した。
 
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