2022年のF1は、新時代の幕開け。 車体レギュレーションの完全刷新でマシンが大きく生まれ変わり、そのルックスも、ドライバーのドライビングも、そしてレースのバトルや戦略もガラリと変わる。2月23日〜25日に行なわれたバルセロナ合同テストは…

 2022年のF1は、新時代の幕開け。

 車体レギュレーションの完全刷新でマシンが大きく生まれ変わり、そのルックスも、ドライバーのドライビングも、そしてレースのバトルや戦略もガラリと変わる。2月23日〜25日に行なわれたバルセロナ合同テストは、その新世代F1マシンが初めて走行する場であり、新時代の息吹が感じられた。

「クルマがどのように反応するか、ブレーキングをしてコーナーに入っていく時のコントロールの仕方など、クルマのフィーリングはこれまでとはかなり違うよ。今のマシンバランスのなかでドライビング面でも異なる方法をいろいろと試して、ファインチューニングしているような段階だ」(ピエール・ガスリー/アルファタウリ)



下部が内側に大きくえぐれたサイドポッド

 まず、マシンのルックスは、シャープで精悍な印象に生まれ変わった。

 ノーズは鋭く、前後ウイングは近未来的な湾曲。サイドポッドは極めてコンパクトなマシンもあれば、下部を大胆なまでに内側へえぐったマシン、そしてサイドポッド上面を後方まで大柄に伸ばしたマシンなど、チームによってルックスは様々だ。

 フロントウイングのフォルムも様々なら、前後サスペンションの形式も、プッシュロッドとプルロッドが入り乱れて様々。これだけルックスが激変したのは、車体コンセプトの根幹を変える規定変更があったからだ。

 2022年規定では、車体フロア底面の左右にトンネルを形成し、従来よりも多くの気流をフロア下に取り込んで後方に引き抜き、車体と路面の間の気圧を低下させて吸盤のように吸いつかせる「グラウンドエフェクト」と呼ばれる空力手法が解禁となった。

 これによって、前後のウイングなど空力付加物はシンプル化し、ウイングの生み出すダウンフォースに頼らないマシンにすることで、接近戦を可能にしようというわけだ。

 これまで接近戦を難しくしていたのは、ウイングや複雑な空力付加物が生み出していた乱気流で、後続車両は1車身(約0.5秒差)以内に近づくと約45%のダウンフォースを失ってしまっていた。これが新規定では15%程度に抑えられるという。

高速コーナリングが可能に

 バルセロナで走行したドライバーたちも、その効果は感じ取っていた。

「高速コーナーを抜けて行く時のマシンバランスはとてもいい。前走車の背後で走っている時も、突然ダウンフォースが抜けたり変なオーバーステアが出ることは減って、これまでより少しよくなっている。もちろんF1マシンは驚異的な速さで走っているから、それがまったくなくなるとは思っていないけど、これまでよりもコントロールしやすくなっていることは確かだ」(マックス・フェルスタッペン/レッドブル)

「コーナーでのフォロー性能は確実によくなっていると思う。もちろんタイヤや燃料搭載量が違うから正確なことはわからないけど、2〜5車身差で走行している時でもそれぞれフィーリングは全然違う」(ランド・ノリス/マクラーレン)

 グラウンドエフェクトは高速になればなるほど負圧が高まり、マシンは路面に吸いつく。そのため、史上最速と言われた2020〜2021年型マシン以上に安定して速い高速コーナリングが可能だと、ドライバーたちは声を揃える。

「高速コーナーではものすごくうまく機能している。シルバーストンや鈴鹿で走るのがものすごく楽しみだよ。これまで以上に接近して走ることができれば、レースは間違いなくよくなるだろう。僕らにとってはこれまで以上にアドレナリンを爆発させてレースができるし、ワクワクしているよ」(ガスリー)

 しかしその一方で、ストレートでのスリップストリーム効果は明らかに減っているという。グラウンドエフェクトカーはウイングよりも小さい空気抵抗でダウンフォースを生み出すことができるのだから、逆に言えば前走車の背後を走ることによる空気抵抗の減少も少なくなるというわけだ。

「前走車のフォロー性能は改善していると思うけど、その一方でスリップストリーム効果は大幅に減少していると思う。これまでよりも接近して前走車をフォローすることはできるようになっているけど、スリップストリーム効果が減った分どうなるか。ランド(・ノリス)のあとを走ったことがあったけど、1〜2車身差でメインストレートに入ったものの抜くことはできなかった。僕はそこがちょっと心配だね」(ジョージ・ラッセル/メルセデスAMG)

タイヤの巨大化で扱いやすく

 ただしDRS(※)は従来どおり装備されており、使用の可能範囲を広げるなどでスリップストリーム効果と追い抜きのバランスを調整することは可能だろう。いずれにしても、根本的な空力特性の変更によって前走車の背後についたままコーナーを駆け抜けることができるようになったことは、2022年のレースのあり方を大きく変えることになるだろう。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 タイヤも大きく変貌を遂げた。ホイールが13インチから18インチと大径になり、タイヤも直径が670mmから720mmへと50mm大きくなっている。

 つまり、ショルダーは約4cm分だけ扁平になっていてタイヤ自体が持つサスペンション機能が弱くなっている。だが、その影響は限定的だと見られている。1輪あたり約4kgの重量増であり、その分だけマシンの挙動はゆったりとしたものになる。

 しかしそれよりも大きいのは、これまで"扱いづらい"とされていたオーバーヒートを抑えたこと。このため、多少のスライドでもグリップを失いにくく、攻めたバトルが可能になる。

 また、それと同時にワーキングレンジ(作動温度領域)を広げ、温度に過敏すぎた特性もマイルドになっているという。

「コンパウンド間の違いも大きくなっているし、ワーキングレンジも従来よりは少し許容範囲が広いように感じるね。ただ、今回の温度では何とも言いがたいし、もっと暑いバーレーンに行ってみなければわからない部分もあるけどね」(アレクサンダー・アルボン/ウィリアムズ)

 C1からC5までの各コンパウンドは、それぞれ0.5秒ほどのタイム差が出るよう明確なグリップ差が設定され、レースでの戦略差・速度差が生まれやすくなるはずだ。

「昨年末のアブダビテストではどのマシンもフロントにグレイニング(タイヤのささくれ摩耗)が出ていて、ひどいアンダーステアに苦しんでいました。しかし今回はグレイニングが出やすいバルセロナにもかかわらず、そのような問題は出ていません。

(従来セクター3で問題になっていた)リアが厳しくなるわけでもない。タイヤウォーマーの温度が70度に下げられましたが、今回のこの路面温度でもそれほど問題にはなっていませんし、全体的には扱いやすいタイヤだなという印象です」(ハースの富塚裕エンジニア)

課題は大きなバウンシング

 今回のテストでは、マシンが高速走行中に縦揺れを起こす"ポーパシング"と呼ばれる現象にも注目が集まった。

 フロア下の負圧が高まって車体が吸いつけられ、路面に接した瞬間に気流が減って負圧が低下し車体が浮き上がる。そこからまた気流が復活して負圧が高まっていき、また路面に接すると負圧が失われ......というのを高速で繰り返した結果、ドライバーが激しいマシンの上下動に悩まされるという、グラウンドエフェクトカー特有の現象だ。

「最初にマシンをドライブしてポーパシングが発生した時には、ちょっとショッキングだったよ。まったく予想していなかったからね。現段階ではこれによっていくらかパフォーマンスをロスしていることは確かだし、僕らはそれほどひどく苦しめられているわけではないけど、僕らよりもうまく対処しているチームがあるのも確か。もっとうまくやれるはずだ」(ガスリー)

「300km/hで走りながら3〜4cmジャンプしてアップダウンしているんだから、そりゃクレイジーだし気分はよくないよ(苦笑)。今すぐに解決できるものではないけど、バーレーンまで、そして開幕してからも、エンジニアたちがこの新世代のマシンを学んでどんどん改善していってくれると信じている」(カルロス・サインツ/フェラーリ)

 バルセロナではこの問題に対処するために、セットアップ面でコーナリング性能を犠牲にして走行したチームもある。しかし、どのチームも解決の方向性は見出しており、次のバーレーン合同テスト(3月10日〜12日)には対策部品を持ち込み、セットアップ面の改善も含めてこの問題を解決するのにそれほど時間はかからないだろうと見られている。

「どのチームもバウンシングの問題を過小評価していたが、想定していた以上に大きくバウンシングが発生している。グラウンドエフェクトに起因するものであることは確かで、それが非常に強力だからこそ起きている。

 パフォーマンスを犠牲にすることなくバウンシングを抑える最良の解決策を見つけ出す必要があるが、どのチームもどこかのタイミングまでにはそれを見つけることができるだろう。ただし、少しでも早く見つけたチームがアドバンテージを得られるのは確かだ」(フェラーリ、マティア・ビノット代表)

注目は次のバーレーン合同テスト

 バルセロナ合同テストで最速タイムを刻んだのは、メルセデスAMGだった。しかし、これはC5という最もソフトなタイヤを使っており、ラッセルは「僕らはC5を使ったので、ラップタイムは実力を反映したものではない。フェラーリとマクラーレンは強力で、ロングランでもパフォーマンスランでも速くてタイヤマネージメントもうまくやっている。現段階で僕らが遅れを取っていることは間違いない」と断言する。

 ポーパシング問題に対処するため、メルセデスAMGはややリアがナーバスなマシンバランスに苦しんでいることがうかがえた。

 確かにフェラーリはC3タイヤのロングランでメルセデスAMG勢を上回るタイムを記録しており、信頼性もピカイチで最多周回数を刻んだ。しかし、フェラーリやマクラーレンとしても現状に油断することはない。レッドブルもC2やC3タイヤで淡々とデータ収集の走行に徹しており、その実力はまったくと言っていいほど見せていない。

「どのチームも様々な燃料搭載量やパワーモードで自分たちのテストプログラムをこなしているから、現時点では何とも言えない。全体を見れば僕らが悪くないところにいるのは確かだけど、メルセデスAMGとフェラーリも初日から常に上位にいて、どんなロングランでも速くよさそうだ。

 フェラーリはかなり強力なように見えるけど、メルセデスAMGやレッドブルもすぐそこにいる。現段階でメルセデスAMGが苦戦しているのは事実だろうけど、テストで苦しんでいても開幕戦ではしっかりと強力なパフォーマンスを発揮してくるのが彼らだからね」(ノリス)

 新世代のF1マシンは、まだ走り始めたばかり。わずか3日間の本格走行を終えたばかりで、各チームともこれから徹底的なデータ分析とアップデート、セットアップ改善によってパフォーマンスを最適化していく。

 次のバーレーン合同テストこそが、真の意味での試金石となるはずだ。