SNSを通じて地元・白馬の絶景を発信「雪がある場所にこれからも…」 雄大な北アルプスの麓に位置する長野県白馬村。夏には鮮やかな緑をした木々が山を彩り、冬には真っ白な雪化粧をした山々が美しい絶景の地を“地元”と呼ぶのが、元フリースタイルスキー…

SNSを通じて地元・白馬の絶景を発信「雪がある場所にこれからも…」

 雄大な北アルプスの麓に位置する長野県白馬村。夏には鮮やかな緑をした木々が山を彩り、冬には真っ白な雪化粧をした山々が美しい絶景の地を“地元”と呼ぶのが、元フリースタイルスキー・モーグル日本代表の上村愛子さんだ。7歳の頃に家族と移り住み、世界トップレベルのスキー技術を磨いた地元には、今でも足しげく通っている。

 写真を趣味とし、白馬の大自然が四季折々に見せる様々な表情をレンズに収めている。写真で切り取った白馬の魅力は、SNSを通じて発信。アウトドアが好きという気持ちに加え、そこには「この美しい風景が次の世代、その次の世代と未来にも残りますように」という願いが込められている。

 上村さんは現役時代、オフシーズンになると、仲間と一緒にゲレンデのゴミ拾いなど環境美化活動に取り組んでいたという。昨年12月には山形蔵王温泉スキー場で行われた「煙のないマウンテンリゾートへ」プロジェクトに特別アンバサダーとして参加。紙巻きタバコを禁止し、加熱式タバコの使用に限定する取り組みにエールを送った。

「環境問題に対していろいろな取り組みがある中で、私はスキーヤーですし、『雪山』が皆さんにとってもイコールになりやすいと思っています。でも、スキーが好きだから雪山を守りましょう、というのとは少し違うのかなと。スキーやスノーボードといったスノースポーツは、そこに雪があるから皆で楽しめている訳ですが、その環境を守ることは『今、雪がある場所にこれからも雪があり続けるべき』という地球のバランスを保つために大切なことであるのではないかと、私は思っています」

 環境について考える時、現役時代の海外遠征を思い出すという。年に一度、必ず訪れていた氷河の上でスキーの練習をするという環境だった。年数を重ねるにつれ、氷河の嵩(かさ)が減っていることに気付いてはいたが、「当時は何も分かっていなくて、氷河は溶けてもまた戻るものだと思っていました」と苦笑いする。

「氷河は何百年も前に作られたものが、長らくキープされてきただけ。今になって溶け始めているのは気温の上昇が原因と科学的にも証明され、『あの当時見ていたのは、こういうことだったのか』と全部が繋がりました。人間の活動が気温上昇の主な原因という答えが出た今、自分には何ができるのか考えながら生きていかなければいけないと思います」

環境に優しいエシカルな選択を「100円の負担が未来に繋がるのであれば」

 スノースポーツの楽しさを知るからこそ、雪が織りなす風景の美しさを知るからこそ、自然が与えてくれた宝物を守り抜き、ずっと先まで繋いでいきたいと願う。

「私がスキーをできない年齢になるくらいまでは多分、雪はあると思います。ただ、次の世代やその次の世代の頃には、もしかしたら雪景色がほとんど見られない地球になるのでは、という話がある。『昔はあんな景色があったんだね。見てみたかった』という未来にならないように、今から足止めをする意識を持って生きていかないといけないという気持ちが強くあります」

 現役時代と変わらないフンワリとした笑顔を浮かべながら発する言葉には、一本芯が通っている。SNSでの発信も自分の価値観を強く主張するものではなく、「自分がすごくキレイだなと思う景色の写真に、時々そういう環境を考える言葉を少し入れたり」というシンプルなものだが、心に秘める想いの強さは伝わってくる。

「今の便利な生活を変えずに生きていたいのは多分、皆さんが誰でも思うこと。でも、今変えないといけないことはたくさんあると思っています。今は『これがあったらいいな』が揃っている世の中で、人にとにかく楽をさせてくれる選択肢が多いですが、本当に必要なものなのか考えるだけでも一歩、あるいは半歩前に進めるのかなと。環境を守るために、自分の生活の中で何に取り組めるのか考えることって楽しいですし、自分が少し貢献できていると思うだけでも気持ちが明るくなれるもの。楽しみながら取り組めたらいいのではと思います」

 2015年に気候変動への取り組みに関する国際条約「パリ協定」が誕生したり、国連サミットで持続的な開発目標「SDGs」が採択されたりしたこともあり、世界的に環境問題に対する意識が高まった。日本もその例外ではなく、環境はもちろん、周りの人々や地域社会を思いやる「エシカル消費」という考え方が広まりつつある。

「個人では大きなことはできないので、小さなことからでいい。エシカルな商品がたくさん誕生しているので、同じような生活を送りながら、環境に負担の少ない形を取れるようになってきました。エシカルな商品はまだ少し値段が高いと感じることもありますが、100円の負担が未来に繋がるのであれば、いい投資だと思います。値段が上がると大事に使ったり、丁寧に物事をやるようになったりすることもある。そういった変化や発見を面白がりながら、楽しく取り組んでいきたいと思っています」

 大自然を相手にするスキーを通じて知った環境の変化。与えられた課題はとてつもなく大きなものだが、現役時代と同じように自然体のまま、できることから一歩一歩積み重ねていく。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)