ロコ・ソラーレ藤澤五月インタビュー(前編)北京五輪で史上初の決勝進出を果たし、銀メダルを獲得したカーリング女子日本代表のロコ・ソラーレ。そのメンバーである吉田夕梨花、鈴木夕湖、吉田知那美、藤澤五月の4選手が以前、自らのカーリング人生、五輪と…

ロコ・ソラーレ
藤澤五月インタビュー(前編)

北京五輪で史上初の決勝進出を果たし、銀メダルを獲得したカーリング女子日本代表のロコ・ソラーレ。そのメンバーである吉田夕梨花、鈴木夕湖、吉田知那美、藤澤五月の4選手が以前、自らのカーリング人生、五輪という舞台について語ってくれた。

メダル獲得を記念して、そのインタビュー(取材は2020年7月。掲載は2021年1月~2月)を改めて紹介したい。今回はスキップの藤澤五月。コロナ禍での活動や、自らの将来についても語っている――。

――新型コロナウイルス感染拡大の影響で、かなりイレギュラーな状況で始まった2020-2021シーズンですが、シーズン前はどういった点に強化ポイントを置いて、どんな練習をしてきたのでしょうか。

「昨季の終盤に続き、今季も多くの試合がなくなってしまったのは本当に残念でした。でもその分、夏にはトライアスロンやラグビー、空手、フットサルなど、多種のトレーニングを楽しみながら、フィジカルの強化を図れたと思います。特に自転車で摩周湖に行ったことは、一番の思い出になっています」

――昨季の世界選手権をはじめ、今季もワールドツアーや、11月に稚内で開催予定だったパシフィック・アジア選手権(PACC)など、多くの大会が中止になってしまいました。海外遠征はもちろん、さまざまな大会を消化できなかったことによる苦悩は、察するに余りあります。

「カナダに渡航できなかったことは、私個人としては12年ぶりかな。それ自体も寂しいけれど、やっぱり試合ができないのはつらいですね。夏の終わりくらいから徐々にオンアイス(の練習)が増えてきて、練習試合も始めたんですけど、その際に『試合は楽しい』と改めて思いましたから」

――例えば、2016-2017シーズンは年間100試合に迫るゲームをこなしていました。

「あのシーズンは多くの大会に意図的に参加して、試合をできる限りこなしていく――という、ある意味で実験的な部分もありました。今はそこまでの試合数をこなす必要はないのですが、やっぱり試合をしないと課題が出てこない。いつもツアーで戦っているうちに、どうしてもどこかでパフォーマンスが落ちてきて、必ず試練のような大会が出てくるんです。そこで出た課題を克服して強くなっていった実感があったので......何年ぶりだろう、今年は少ない試合数を補うために、地元のリーグ戦にも参加しました」

――藤澤選手自身は、常呂のリーグ戦に出場するのは初、だったそうですね。

「以前、『サマーリーグ』に出させてもらったことはあるんですけど、通常のリーグ戦に出るのは初めてでした。みなさん、地元のアイスに特化した投げ方やショットを持っていて、2試合目で対戦したシーサイドCCさんには危うく負けそうでした。年齢的には先日還暦を迎えた(小野寺)亮二コーチより少し下くらいの、ベテラン選手が多いチームなのですが、ずっと常呂でやっている強み、"ホームアイスでの武器"みたいなものを持っていて、すごく勉強させてもらいました」

――チームの新たなトピックで言えば、2002年のソルトレイクシティ五輪、2010年のバンクーバー五輪に出場している石崎琴美選手がフィフスで加入しました。

「とてもうれしいし、ありがたいです。琴美ちゃんが私たちのチームに最初に帯同してくれたのは2015年、アルマトイ(カザフスタン)でのPACCだったんですけれど、(同大会では)優勝という結果も出ましたし、その時に心地よい空気を作ってくれた記憶が強く残っています。大会の雰囲気とか、私たちへの声かけのタイミングとかも熟知していて、ミーティングでは客観的な意見を言ってくれました。経験も豊富なので、ストーンチェックも信頼できましたし、本当に助かりました」

――石崎選手加入の理由としては、当時のいいイメージもあるわけですね。

「何よりも私たちのことを理解してくれているのが大きいです。国際大会となると、2週間以上の長い時間を一緒に過ごすので、お互いのキャラクターを知っていることは、とても重要です。夏の終わりぐらいから練習にも参加し始めてもらったのですが、ロコ・ソラーレの選手として私たちの投げ方を理解して、すぐに合わせてくれたのもさすがだなと感じました。見習うべきところがたくさんある選手です」

――藤澤選手ご自身の話も聞かせてください。2018年平昌五輪のあとから、JCA(日本カーリング協会)のアスリート委員としての活動もされています。

「今季は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、多くのことが変更になりました。それらについて、今季は杏菜ちゃん(近江谷/北海道銀行フォルティウス)や真央ちゃん(石垣/富士急)、もろさん(両角友佑/TM軽井沢)や雄太くん(松村/コンサドーレ)などのアスリート委員のメンバーたちで、リモートで案を出し合い、理事会に意見として挙げました。特に日本選手権については、コロナウイルス感染のリスクを避けながら、運営方法や開催地、出場チーム数やレギュレーションなどを入念に話し合いました。

 ただそこでは、意見を言える立場であっても、私個人としてではなく、ロコ・ソラーレの代表でもなく、アスリートのひとりとして公平な意見を伝えないといけません。言葉の重みというものを改めて感じましたし、(関係者それぞれの思いを)いろいろと考えるようになりました」

――カーリング以外では、オフの間はどう過ごしていたのでしょうか。

「昨年3月の世界選手権(カナダ・プリンスジョージ)が中止になってしまい、滞在していた現地ホテル1階のカフェでミーティングをしたんですよ。『すごく長いオフになっちゃったね。どうする?』って。

 それで、私はとりあえず、アスリートフードマイスターの受講申し込みをしました。食については、いつもちな(吉田知那美)に頼ってばかりで申し訳ないなと思っていたので。あとは、もともとアロマの勉強をしようと考えていて、1カ月くらいその勉強をしていました」

――そういえば、「さっちゃんがアロマの先生になった!」という話を他のチームメイトからうかがいました。

「ステイホーム中にできることってなんだろうと考えたら、やっぱり資格(の取得)かなと思って。コロナ禍にあって、試験を受けられるかどうかはわからなかったんですが、勉強だけは続けて。結局、スケジュールの変更がありながらも、公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)の試験を11月に受けて、無事に合格できました。

 これまでにアロマテラピーアドバイザーの資格は得ていたんですけど、今回の試験に合格して、もっと専門的なアロマテラピーインストラクターの資格が取得できました。将来的にはセラピストの資格が取れればいいなと思っているので、その一歩手前、という感じですかね」

――それは現役引退後の、セカンドキャリアとして考えているのでしょうか。

「いえ、そこまでは考えていないです。セカンドキャリアというより、(将来に向けて)いろんな選択肢を持っておきたいな、くらいの気持ちです。カーリング関係でも指導者はもちろん、アイスメーカーさんなど、どの選択をするにしても、私にはもっと勉強は必要だと思っています。アロマについてはカーリングが縁で初めて触れたのですが、同じようにカーリングから広がることはたくさんあると思っています。

 いずれにしても競技者でなくなった時に『選手じゃなくなった自分には何も残らない』みたいなのはよくないかな、と。特に今季はオフに時間があったので、『何かやらないともったいない』と、ある意味、チャンスだなと考えるようにして、過ごしてきました」

――オフの間に誕生日を迎え、29歳になっての抱負は「ちょっと無茶する」だそうですね。それはアイスの中のことですか。

「アイスの中も外も、両方です。これまでは何かを始めようとしても、周囲の目とかを気にしたりして、実際にやるかやらないかとなると、諦めていたことが多かったような気がします。でも、20代最後の年ですし、『新しいことを始めるのを怖がらないようにしよう』『失敗を恐れずにやってみよう』と決めました」

――新しいことと言えば、一昨年からゴルフを始めたとか。

「このオフには残念ながらコースを回ったり、練習に行ったりもほとんどできなかったのですが、落ち着いたらまた、挑戦したいと思っています。ゴルフって、ひとりで黙々と練習できるところはカーリングにも似ていて、そういう自分と向き合いながらできるスポーツは好きです。あと、カーリングはインドアなので、外に出ること自体が気分転換になって、楽しいですね。コースデビューの時は大雨でしたけれど、それすらも楽しい思い出です」

――もしよろしければ、コースデビューのスコアを教えてください。

「え~!? それはちょっと。もう少しうまくなったら、報告します」

――他に新しく始めたことや趣味などはありますか。

「カメラを購入しました。一昨年の12月、軽井沢国際の帰りに秋葉原に寄って、自分へのクリスマスプレゼントとして」

――どういったものを撮影するのですか。

「基本的には人物を撮りたいと思っています。一昨年、大好きなお祖母ちゃんが亡くなってしまって、思い出すと今でも泣きそうなんですけれど、その時に家族の時間って大切だなと改めて感じて。お正月とかお盆とか、家族で会う時は写真を撮ったりするんですけど、毎年というわけではなかったので、新しくカメラを買えば(撮影する)いいきっかけになるかなと思って購入しました」

――ロコ・ソラーレのメンバーも撮影されるのでしょうか。

「そうですね。チームみんなの自然な感じ、カナダの滞在先でリラックスしている時間の姿とか、何気ない普段の暮らしぶりを残しておきたいな、という気持ちがあります。これまでチームの写真は基本的にちなが撮って、SNSやブログで発信してくれています。彼女はすごい上手なのですが、このままだとちなが写っている写真が少なくなって申し訳ないので、私も撮り方を教えてもらいつつ、ちなを撮っていこうと思っています」

(つづく)後編はこちら>>

藤澤五月(ふじさわ・さつき)
1991年5月24日、北海道北見市生まれ。中部電力時代に日本選手権4連覇を果たし、2015年にロコ・ソラーレに加入。2016年の世界選手権銀メダル、2018年の平昌五輪銅メダルなど、日本カーリング史上初の国際大会でのメダル獲得の原動力となった。最近ハマっているものは朝ヨガ。「『B-life』というYouTubeチャンネルを見ながらほぼ毎日やっています。とても調子いいです」