ロコ・ソラーレ藤澤五月インタビュー(後編)カーリング女子日本代表のロコ・ソラーレが平昌五輪銅メダルに続いて、北京五輪でも銀メダルを獲得した。その快挙を記念して、かつてのインタビュー(取材は2020年7月。掲載は2021年1月~2月)を改めて…

ロコ・ソラーレ
藤澤五月インタビュー(後編)

カーリング女子日本代表のロコ・ソラーレが平昌五輪銅メダルに続いて、北京五輪でも銀メダルを獲得した。その快挙を記念して、かつてのインタビュー(取材は2020年7月。掲載は2021年1月~2月)を改めて紹介。ここでは藤澤五月が平昌五輪後のチームの成長と、自らの人生設計についても語っている――。

――早いもので、今季は2022年北京五輪のプレシーズンとなりますが、まずは前回の2018年平昌五輪のことを聞かせてください。当時のことはまだ鮮明に覚えていますか。

「実は私、スマホのメモ機能を使って、いろいろなことを書き残してあるんですよ。誰にも見せるつもりはないですし、『何のために?』と聞かれると困るんですけれど、何か感じたことや思ったことを記していて。日記というほどでもないし、愚痴みたいなことも書いてありますけど」

――カナダやスイスといったメダル候補が予選で敗退するといった番狂わせが起こった大会でした。そういったことも記してあるのですか。

「あの時のカナダ代表って、前年(2017年)の世界選手権を全勝したレイチェル・ホーマンという、すごく強いチームだったんですよ。『あのチームでもこういう結果になるのがオリンピックなんだな。どれだけ強くても優勝も最下位もある。メンタル的な部分が重要なのかもしれない』といったメモが残っています」

――メモ機能に記しているのはカーリングのことだけですか。

「そんなことはないです。スピードスケートの小平奈緒選手が金メダルを獲ったあとには、『おめでとうございます。うれしい。次は私たちの番』みたいなことも書いてあります」

――大会中、他の競技も見ていたんですね。

「選手村のそばに、味の素さんが『G-Road Station』というダイニングを設置してくれて、時間があるときはそこのリラックスルームで、テレビで日本の選手たちを応援していました。特に印象的だったのは、スピードスケートですね」

――なぜスピードスケートが印象的だったのでしょうか。

「スピードスケートだけではないですけど、タイムを競い合う競技って、短い場合は十数秒で勝敗が決するじゃないですか。もちろんオリンピックがすべてではないのですが、4年間の過程、努力や鍛錬をその短時間で出し切らないといけない。それって、本当にすごいことだなと思って。

 そう考えると、1試合に3時間前後かかるゲームが最低でも9試合ある私たちって、『なんて恵まれているんだろう』と。『1投ミスが出ても、いくらでも挽回ができる』――そういうことにも(他の競技を見て)気づかされて、勇気をもらったりしていました」

――こうした感想は初めてうかがったような気がします。平昌五輪直後には、こういった話は広く伝わっていませんでしたよね。

「どうだったんだろう......。それよりも、やっぱり話題になっていた、(世の中から)求められていたものは『もぐもぐタイムで何を食べた?』という話だったと思うんです。もちろん、ああいう報道でカーリングを知ってくれて、私たちを応援してくれた人が多かったことは理解していますし、本当に感謝しています。批判的な気持ちはまったくありません。

 それでも、その先までカーリングのことを詳しく知ってほしい、という気持ちは常にどこかにありましたね。それで、落ち着いてから話す機会があれば......と思っていても、平昌五輪のあと、6月にはサッカーの(ロシア)W杯がありましたし、世の中の興味はどんどん移っていきます。だから今、あれから3年経ってもこの記事を読んでくれる、少なくともカーリングや私たちに興味を持ち続けてくれている人たちには(私たちの思いが)伝わってほしいな、と思います」

――我々メディアも、どうしてもオリンピックを起点に、あるいはゴールに設定しがちです。そこは、考えないといけない点なのかもしれません。その一方で、カーリングではオリンピックを軸にして、結婚などを考えている選手も多いです。藤澤選手はいかがですか。

「私の勝手な人生設計があるとすれば、世界選手権優勝なのか、五輪での金メダルなのか、どちらかを獲ることができたら、人生を改めて考えると思います。それが、結婚なのか、出産なのか、わからないですけれど」

――結婚願望はあるのですか。

「年上の先輩方に『結婚はいいよ~。家族の存在は大きいよ~』といったアドバイスをいただくのはありがたいのですが、今のところ願望はそこまで強く持ってないんですよ。今はカーリングが優先順位の一番上にありますね。私はきっと、ひとつのことしか集中してできないタイプだと思うんです。恋愛するとなると、どちらかが中途半端になりそうで......。

 だから、(本橋)麻里ちゃんみたいに結婚して、出産を経て、それと同時にカーリングのことも考え続けられるのは本当にすごい。不器用すぎる私にはカーリングとの両立は難しいですね。実際、母親との会話では『五月の性格的に、出産とか育児しながらカーリングは無理だよ』と言われて、私も『うん、わかってる』っていう感じです」

――さて、2月7日から稚内市で日本選手権が開幕します。大会に向けての抱負をお聞かせください。

「楽しみです。前日には大会前会見があって、その場には独特の緊張感がありますよね。まだ何も書いていない対戦表とかを見ると、『いよいよだな』といつも思っています」

――実戦が少なかった今季ですが、ワールドツアージャパンが企画した特別エキシビション、11月の稚内、12月の軽井沢の大会で、いずれもロコ・ソラーレが優勝を果たしました。日本選手権に向けて、自信になりましたか。

「大会も、遠征もない今シーズン、『どうしようか?』という雰囲気のなか、多くのトレーニングを試してきましたが、『本当にこれでいいのかな』といった不安がなかったわけではありません。

 そういった状況にあって、(エキシビション大会で)結果が出て、やってきたことは間違っていなかった、ということがある程度証明できました。それは、自信にしてもいいのかなとは思います。でも、それらの結果で決して満足せず、さらにしっかりと準備をして、日本選手権に挑みたいです」

――近年の日本選手権では見応えのある試合が増えています。その分、我々も非常に楽しみにしています。

「日本全体のレベルが上がっていて、強いチームは1チームや2チームではありません。今回もいいゲームがたくさんあると思います」

――そんななか、ロコ・ソラーレのここを注目してほしい、というポイントがあったら教えてください。

「今季はミーティングなどで、自分たちの過去の試合を見返したりもしたんですが、みんなで『あぁ~、あの頃はこんなことしてたね。下手だね~』って笑い合っていました。私たちはやっぱり、試合で改善点を見つけて、それを克服して強くなってきたんだなと、実感しました。

 本当に少しずつで、テレビの画面を通してではわかりにくいかもしれませんが、進歩はしています。だから、見てくれる方々には、その成長ぶりや変化を探していただきたいな、と思っています。間違い探しではなく、進歩探し。難しいかもしれませんが、見つけてくれたらうれしいです」

(おわり)


藤澤五月(ふじさわ・さつき)
1991年5月24日、北海道北見市生まれ。中部電力時代に日本選手権4連覇を果たし、2015年にロコ・ソラーレに加入。2016年の世界選手権銀メダル、2018年の平昌五輪銅メダルなど、日本カーリング史上初の国際大会でのメダル獲得の原動力となった。最近ハマっているものは朝ヨガ。

「『B-life』というYouTubeチャンネルを見ながらほぼ毎日やっています。とても調子いいです」