ロコ・ソラーレ鈴木夕湖インタビュー(前編)北京五輪で史上初の決勝進出を果たし、銀メダルを獲得したカーリング女子日本代表のロコ・ソラーレ。そのメンバーである吉田夕梨花、鈴木夕湖、吉田知那美、藤澤五月の4選手が以前、自らのカーリング人生、五輪と…

ロコ・ソラーレ
鈴木夕湖インタビュー(前編)

北京五輪で史上初の決勝進出を果たし、銀メダルを獲得したカーリング女子日本代表のロコ・ソラーレ。そのメンバーである吉田夕梨花、鈴木夕湖、吉田知那美、藤澤五月の4選手が以前、自らのカーリング人生、五輪という舞台について語ってくれた。

メダル獲得を記念して、そのインタビュー(取材は2020年7月。掲載は2021年1月~2月)を改めて紹介したい。今回はセカンドの鈴木夕湖。自らが目指すものについて語っている――。

――昨年から新型コロナウイルス感染拡大の影響で、大変な状況にあります。昨春からのオフの間、自粛期間中はどのように過ごされていましたか。

「ずっと自宅で過ごしていましたが、スーパー元気でした。毎日、犬の散歩をしていました。それで、だいぶ仲よくなりましたね」

――愛犬のお名前は?

「アメリカン・コッカー・スパニエルのオスで、『大豆』と言います。私の中では、ひらがなで『だいず』です。愛される顔をしていますよ。本当に可愛いです」

――散歩はどれぐらいされるのですか。

「私の担当は夕方だったので、1時間ぐらい。長い時は2時間くらい歩いている時もありました。私にとっては楽しい時間なんですけれど、しばらくすると、リードを引っ張ってもだいずが動かなくなって、こっちを見上げていることが増えてきて......。『ああ、これはもう家に帰りたいって訴えているんだな、悪いことしたな』と、最近やっと気づきました」

――ロコ・ソラーレのメンバーの中でも、鈴木選手は独特なプライベートを過ごしているようなイメージがあります。何か、他にやっていたことはありますか。

「美味しいお茶が飲みたくて、茶道をちょっと体験しました。のんちゃんという母の友人と、義理の姉と一緒に、1カ月くらい教わって。あとは、漫画を読んでいました。以前はYouTubeとかで、お笑い芸人さんのチャンネルをチェックしていたんですけれど、急に興味が漫画に移って。昨年は兄が貸してくれた『ゴールデンカムイ』と、(吉田)夕梨花が貸してくれた『リアル』にハマっていました」

――漫画を読んで、泣いたり、笑ったりするんですか。

「名場面で『おぉ』と感動はするのですが、私は滅多に泣かないんです。感受性が乏しいのかな。泣いたのは、オリンピックでメダルを獲った時くらいです」

――銅メダルを獲得した2018年平昌五輪から、はや3年が経ちました。

「感覚としては、はるか昔のことですね。もう来年は次のオリンピックがありますし、あっという間に時間が過ぎていって、怖いです」

――他のメンバーにも平昌五輪について振り返ってもらったのですが、鈴木選手にとって、五輪の舞台はどんなものだったのでしょうか。併せて、2022年北京五輪への思いも聞かせてください。

「五輪は楽しかったですけれど、やっぱり未知の世界ではあったので、『どんな感じだろう』という感覚が常にありました。次の北京五輪も出られるなら、知っている大会という感じで入られるので、もっと楽しめるかな、という気はしています」

――平昌五輪では銅メダルを獲得しましたが、勝ったのか負けたのかと言えば、鈴木選手ご自身ではどう解釈していますか。

「難しい質問ですね......。私にとっては"負けた大会"だったかな。現に予選では結構負けていますから(5勝4敗)。『勝った!』という記憶は、メダルゲーム(3位決定戦のイギリス戦)くらいですね」

――五輪での課題や収穫に関してはいかがですか。

「2月に開催されるオリンピックって、シーズンで言えば終盤なんですよね。単純に疲労が溜まってくる時期で、加えて、慣れない土地で、メディアも観客も多いので、いつもより疲れると思うんです。実際、選手村に入ってからも普通にトレーニングしていたんですけれど、今考えると、結構頭も身体も疲れていましたね。もっと調整メインで考えてもよかったかもしれません。

 あの時期に、あの舞台で高いパフォーマンスを維持するには、1年を通した過ごし方をもっと考えて挑まなければいけないな、と感じました。それも、トレーナーさんの意見に従うだけでなく、自分の身体をいちばん知っているのは自分なんだから、トレーナーさんと相談しながら、自分でしっかりと調整しないといけない。そのあたりが課題でしょうか」

――そういったことを考えると、北京五輪への意識が自然と高まっていくのではないですか。

「そうですね、と言いたいところなんですけれど、そこまで強い思いはまだありません。オリンピックというのは、もちろん目標のひとつですけれど、昨シーズンも、今シーズンも、(自分の)意識の中にはなかったです。それよりも、平昌五輪の前後あたりから、グランドスラム(ワールドカーリングツアーの最高峰の大会)にも出られるようになって、そこでの試合が本当に楽しくて。

 今季は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で残念ながら開催されていませんが、次はあそこで勝てるようになりたい――そういう新しい目標ができました。そのために、チーム(のメンバーやスタッフ)とも、JD(ジェームス・ダグラス・リンドナショナルコーチ)とも、いろいろと協力して、少しずつできないことが克服されてきた。そして、その一つひとつがつながって、いい試合ができるようになってきたんです。そうしているうちに、3年が経った、という感じがしますね」

――グランドスラムという舞台の面白さはどういったところにあるのでしょうか。

「観客も多く、会場はとても盛り上がります。世界のトップ16(or15)が集う大会なので、どのチームと対戦しても強いです。"抜ける"試合がひとつもない。ただその一方で、どのチームも楽しそうにプレーしているんですよ。

 もちろん、強いチームばかりですから、厳しさもあります。それまでは、だいたい(このあたり)でOKだったショットが、ピンポイントで狙わないと得点に結びつかない。いつだったか、ある試合で『だいたいOK』の悪くないショットを重ねていたら、いつの間にか(相手に)5点取られた、ということがあって。そこまでの精度を求められることが、やりがいにもなっています」

――新たな目標のひとつである、グランドスラムで勝つために大事なことは何でしょうか。足りない部分などありますか。

「互角に戦って、いい試合はできているんです。そこで勝ち切るための戦い方は、JDとも相談して考えているところです。(チームとして)アイスリーディングの面で言えば、大会に入ってからの"曲がらないアイスから曲がるアイス"への対応は得意になったんですけれど、"曲がるアイスから曲がらないアイス"への変化が苦手で、ミスが出てトラブルになってしまうことがある。

 グランドスラムも、世界選手権も、日本選手権も、長い大会になればなるほど、試合を重ねるごとに石の噛みがなくなるなど、アイスはどんどん真っ直ぐになってくる。その変化への対応が課題ですね」

――鈴木選手が自らの課題として、取り組んでいることはありますか。

「今季はトップ(ウエイト)の精度を上げようと思っています。うちは(リードの)夕梨花が、ウィック(フリーガードゾーンにある相手のストーンをずらす難易度の高いショット)が本当に上手なので、ミスがほとんど出ないのですが、万が一の場合、私のところでダブルピール(投げたストーンをプレーゾーンにある相手のストーンに当てて両方をテイクアウトするショットがピール。ダブルピールは相手のストーンを2つ弾き出すこと)ができると、簡単にブランク(エンド/両チームに点が入らないエンド)にできる。

 あとは、とにかく"やらかさない"こと。これ、私調べでしかないんですけれど、セカンドって男女共通で、世界的にやらかす人が多い気がするんです。だから、単純にセカンドさえやらかさなければ、勝てるんじゃないかなって。逆に言えば、ハッセルちゃん(平昌五輪金メダルのスウェーデン代表のスキップ、アンナ・ハッセルボリ)のところのセカンド、アグネス(・クノッヘンハウアー)ちゃんは、なかなかやらかさない。だから、強い。今季は"やらかさない私"になれるように、がんばっているところです」

(つづく)

鈴木夕湖(すずき・ゆうみ)
1991年12月2日北海道北見市生まれ。小学校2年生時にカーリングをはじめ、2010年のロコ・ソラーレ結成時からオリジナルメンバーとしてプレーする。145㎝という身長ながら、世界トップレベルのスイープ力を発揮。相棒の吉田夕梨花とともに「クレイジースイーパーズ」と呼ばれ、2016年世界選手権の銀メダル、2018年平昌五輪の銅メダル獲得などに大きく貢献した。最近、ハマっているものは漫画。好きな作品は『キングダム』『ゴールデンカムイ』『アカギ』。