2月のバルセロナは、暑いくらいの陽射しが降り注ぐ午後の陽気とは裏腹に、陽が沈むと急に寒さがやってくる。 2022年のF1最初の走行セッションとなるバルセロナ合同テストは、あっという間に最終日の3日目を迎え、午後6時のセッション終了とともに…

 2月のバルセロナは、暑いくらいの陽射しが降り注ぐ午後の陽気とは裏腹に、陽が沈むと急に寒さがやってくる。

 2022年のF1最初の走行セッションとなるバルセロナ合同テストは、あっという間に最終日の3日目を迎え、午後6時のセッション終了とともに慌ただしく撤収作業が始まるパドックには肌寒い風が吹いた。

 そんななかで、ホスピタリティユニットをあとに空港へと向かう角田裕毅は、1年前とは見違えるように落ち着いた表情をしていた。



角田裕毅の2年目のシーズンが始まった

「今日の午後に最後に走れなかったのはフラストレーションも溜まりましたし残念ですけど、テストなのでしょうがないですし、今回の3日間のテストでいろいろとデータは収集できたので気持ちを入れ換えて、バーレーンに向けてチームとともに力を合わせて準備をしたいと思います」

 午前担当のピエール・ガスリーが冷えたタイヤでクラッシュを喫し、そのダメージが予想以上に大きかったために、午後に走る予定だった角田の半日は丸々失われてしまった。

 F1デビュー初年度の角田なら、ここで苛立ちをつのらせていただろう。

 昨年幾度となく犯したミスのほとんどは、焦りや苛立ちからくるオーバードライブだった。メンタルのアップダウンの大きさは角田の人間的魅力でもあるが、昨年はそれがそのまま走りに現われてしまっていた。

 しかし、2年目の角田は違った。

 苛立ちを覚えている自分自身を見詰めることができ、それを客観視して冷静さと前向きさを取り戻すことができるようになっていた。

「2年目の裕毅は経験が増え、テスト初日にミスなく速さを見せてくれて、私は驚いたくらいだ。マシンのペースはとてもよく、信頼性も非常に高い。ドライバーはふたりともにすばらしい走りを見せてくれている。今年はコンストラクターズ選手権5位前後、いやそれ以上が狙えると自信を持てるのは、そういう理由からだ」

 チーム代表のフランツ・トストは、121周を走り込んだテスト初日の角田を絶賛した。

マシンが小刻みに縦揺れする

 昨年から引き続き、今年もアルファタウリのパワーユニット運営責任者を務めるHRC(ホンダ・レーシング)の本橋正充エンジニアも、角田の成長ぶりに感心しているひとりだ。

「今年の角田選手はすごく落ち着いていますし、テストも安心して任せられるようになっていました。マシンやパワーユニットに対する理解度は去年の開幕前から高かったんですが、去年のシーズン前半戦は結果を焦るあまりミスをして、さらに焦りが重なってオーバードライブしてしまうというような状況でしたけど、シーズン後半戦からは落ち着いて周りがよく見えるようになっていましたから」

"グラウンドエフェクトカー"で初めての本格走行となったバルセロナでは、ストレート後半でリアが浮いたり沈んだりを繰り返すマシンが多く見られた。

 事前にミサノで新車AT03のシェイクダウンを行なっていたアルファタウリは、高速走行中にマシンが小刻みに縦揺れする、この「ポーパシング」と呼ばれるバウンス現象に気づいていた。

「目標はバーレーンGPまでに、マシンをしっかりと開発し仕上げることです」

 角田は繰り返しそう強調した。ここで問題に焦って過剰反応するのではなく、次のバーレーン合同テスト(3月10日〜12日)に対策部品を投入することで根本的解決を図る。ある意味では自分たちに言い聞かせるように、チーム内でも目指すべきターゲットとしてそれを掲げている。

 角田自身は冷静なドライビングを心がけるだけでなく、フィードバック面でも意識をしたと言う。そんなところにも、2年目のシーズンに臨むドライバーとしての自覚と成長が感じられた。

「初日はまず、できるだけマシンについてのフィードバックをできるように心がけました。チームからそうしろと言われたわけではありませんけど、今回のテストでマシンの問題点をしっかりと洗い出して、次のバーレーンテストに向けてマシンの開発を進められるように、そうすべきだと思ったからです」

記憶が飛んでも僕は問題ない

 初日の角田、そして2日目のガスリーとテストは順調に進み、ポーパシングの対応策も見えているといい、チームの雰囲気は明るい。

「詳しくは教えられないです、言うなって言われてるんで(苦笑)。でも、ターゲットは完全にハッキリしていて、何をすればいい状態に辿り着くかというのはすごくハッキリ見えています。それをセッションごとに確かめながらしっかりと進めていくこと。自分たちがやっていることが正しいよねっていうことをひとつひとつクリアしながら進んでいるので、今はいい方向に進んでいると思います。

 バウンシングがひどくてもクルマが速ければ、僕的には問題ないですね。たとえバウンシングのせいで(頭が揺さぶられて)記憶が飛んだとしても、今この瞬間のドライビングを楽しめるのであれば、僕は問題ないです(笑)」

 2022年型F1マシンは、フロア下に設けられたエアトンネルで負圧を生み出して地面に吸いつけるグラウンドエフェクトカーで、高速コーナーでは従来以上に安定したダウンフォースを生み出す。その一方で、低速コーナーではダウンフォースが少なく、車体重量が増していることもあって、従来よりも鈍重な挙動になる。

 それでもアルファタウリのAT03は昨年型AT02に似たキャラクターで、ドライビングスタイルもそれほど大きくは違わないと角田は言う。角田自身の本来の好みとは違うかもしれないが、1年間慣れ親しんだ特性で戦えるのは決して悪いことではない。

「去年はいろんなことがありましたし、完全にコントロールできなくなって、どうすればいいのかわからなくなっていた時もありました。そういうなかでたくさんのことを学びましたので、今はすべてがコントロールできています。

 今は自分の置かれた状況がわかっていますし、それに対して適応しようとしています。(2021年の)最後の3レースは自分がやるべきことを見据えて自分自身を安定させるのに役立ったと思いますし、今は自信がさらに深まって、とにかく自分のことに集中することができていると思います」

ひと回りもふた回りも成長

 2年目の今年は、結果が求められる。昨年のようなミスの連続は許されない。

 しかし、角田は冷静だ。

「まだテストなので、プレッシャーを感じる必要はないと思います。マシンは開発の段階ですし、バーレーンGPまでにいかにしっかりとマシンを仕上げるかが重要で、今はその開発を楽しんでいます」

 1年間の荒波を泳ぎきったことで、角田はひと回りもふた回りも大きく成長した。それがはっきりと感じられたバルセロナ合同テストの3日間だった。