日本発のプロダンスリーグであるD.LEAGUE(Dリーグ)は、9チームで行われていた20-21 SEASON を終え、昨年11月14日から始まった21-22 SEASONではさらに2チームが加わって全11チームの戦いを繰り広げている。現在は12ROUND中の7ROUNDを終え、シーズン後半戦に突入したところ。そんな激戦真っ只中の2月中旬、今シーズン新規参入チームのひとつであるdip BATTLESの中心的ダンサーの一人であるRAIKIと、ディレクターのSHUHO氏へのインタビューが叶った。
dip BATTLESは、今シーズン開幕直前に行われたプレスカンファレンスで新規参入チームとしてお披露目された時から、各ダンサーの高いダンススキルが際立ち、フレキシビリティに溢れた柔らかいボディムーブメントで魅せながら、確かな迫力と鮮烈なインパクトを打ち出してきたチームだ。 ROUND.1からROUND.7まで、毎回コンセプトも世界観も大きく違う、様々なカルチャーを背景としたテーマと衣装、また、ダンスジャンルの掛け合わせや個性あふれる楽曲で、洒落っ気とミュージカリティに富んだナンバーを届けてくれている。
そんなdip BATTLESのディレクターを務めるSHUHO氏は、これまで日本と世界を舞台に活躍し、数々のアワード受賞歴を持つ名ダンサー。今シーズンからのDリーグ参入に当たり、前例をみない“ドリームチーム”の実現を目指し、多くのチームがディレクター1名体制の中、他ジャンルのプロフェッショナルを集めてアシスタントディレクター3名体制を採用したという。チームメンバーの層も厚くするべく、結成当初の5人に加えて、200人以上の挑戦者のなかから6名のダンサーを選出。さらに今年2月には1名を追加メンバーとして迎え、現在は12名体制で臨んでいる。
◆日本中の「ダンサー」に幸せをもたらすDリーグ 魂までが踊りだす喜びがここにある
■「人間的魅力も上げていきながら踊っていって欲しい」
今回のインタビューでは、世界を見てきたSHUHO氏の、Dリーグにおける広い視野での考察と、Dリーグの未来を見据えた熱い思いが語られた。
「Dリーグが始まって、今こうやって若い皆が“プロダンサー”という資格をもらいましたけれど、踊ることだけでなく、それ以外の言動をも含めた、本物のプロとして中身の伴ったダンサーを育てていきたいと思っています。それもあってのプロだとしたい。まだまだこれから形成されていくところですが、色々体験して、失敗もして。各ダンサーが会社名を背負うという大人としての責任も感じながら、プロとしての適性や人間性も上げたうえで踊る、ということが必要だと考えています。
そして、ダンス界を超えた、国民的スターをつくっていかなくてはというのも課題です。そうでなければ、一般的には振り向いてもらえない。まだ思ったほどには見てもらえていないという現状があるんです。それなのに、みんないまだに、“スター”ではなくて、“ダンサー”という意識で踊っている。全Dリーガーが、国民級のスターになるのだと自覚して、本気で、MLBの大谷翔平選手みたいな存在を目指すつもりで、人間的魅力も上げていきながら踊っていって欲しいと思っています。
ROUNDの結果を見ても、そういう意識を持って積み重ねているチーム、ダンサーとしての厚みがある選手のいるチームはやっぱり上位にいると感じていて……。dip BATTLESは、今はまだ思ったような結果が出てはいませんし、ダンスに正解はないけれど、自分たちの勝ちパターンを探って見つけながら、上位陣に追いつくには、そうやって内面も変えていくことが必須だと感じています」。
確かに、dip BATTLESがダンスの上手さという点で引けをとっている感は全くない。むしろ本当に身体レベルも高く、上手いダンサーが揃ったものだと感心しながら毎ROUND見ているのだが、それがなかなか高順位に結びつかない訳は、もしかしたら意識、すなわち、各ダンサーのマインドに違いがあるということなのだろうか?
エンターテイナーとマインドの関係は、スポーツでのそれと同様に深くて重要な永遠のテーマでもあるだろう。SHUHO氏は、それはチーム内だけでなく、Dリーガー全員の課題であり、今後のDリーグの命運を分ける大事なポイントでもあるとも語ってくれた。コロナ禍での開幕で、当初の無観客開催など思わぬ苦戦を強いられてきたとはいえ、彼の言う通り、ぜひとも全Dリーガーには、プロダンサーとして踊ることが出来ているという幸運で満足せず、その先を見据えた、国民級のスターとなる高みを目指す気概で、ダンス界を更なる興隆へと導いていって欲しい。
踊り手側の大いなるマインドが、見る側へと伝播し、それこそMLB並のスケールが当たり前だと思える土壌を作り上げていく。SHUHO氏は、Dリーグが切り開く、そんなダンスの未来を見据えているのだろう。
■dip BATTLESのきら星、RAIKIの思い
現在20歳のRAIKIは、子供の頃に始めたいくつかの習い事では飽き足らず、7歳のときにテレビで見たアーティストの踊りに惹かれ、自ら親に望んでダンスの世界に足を踏み入れたという。その後、めきめきと頭角を現し、高校生の時には「DANCE ATTACK!!」で高校生日本一を獲得し、Dリーガーになる前からOVERSTEP CREWというダンスチームのリーダーとして活躍していた。
また、Dリーグの初シーズンである20-21 SEASONはSEPTENI RAPTURESに在籍。それらの豊富な経験の後に、dip BATTLESに新たに加入したという経緯を持つ。既に14年に亘るダンス歴を持つRAIKIだが、Dリーグに自分が参入できたことのすばらしさを、この一年半を経てことさら強く感じているという。そんなRAIKIの思うDリーグとdip BATTLES、そしてダンスへの思いを言葉にしてもらった。
「これまで僕がやってきたダンスと、Dリーガーとして踊ることの一番の違いは何かというと、12ROUND連続する競技なので、いろいろ試行錯誤で難しさもありますが、本当にありがたいことに、チームにしっかりと固定ファンがついてくれていることです。いつもファンの存在を感じながら、応援してくれている人たちのためにひとつでも順位を高くしたいという思いがあって、それをモチベーションに頑張っています。
チームメンバーは皆ナチュラルというか、自然体でとても仲が良いのが特徴です。なによりも全員が、ダンスを楽しむという気持ちをとても大事にしています。皆のダンスに対しての思いが熱いので、時にはぶつかることもありますが、お互いが引いたり、尊重したりして結果的には良い状態で踊れています。それでも、何かうまくいっていないな、と感じるときには一人になって、まずは自分の心の中を振り返ります。そうすると、あるべき心持ちや、進むべき方向が見えてくるので。そのふり返りは定期的にやっています」。
Dリーグの11チームはそれぞれに違った魅力と個性を持っているが、dip BATTLESの演技を見ていると、チームの一体感と躍動感がことさら楽しく迫ってきて、惹き込まれると同時に元気を運んでもらえるものだ。それはこのような、メンバー同士の真摯な“思いの交感”の賜物であり、それが彼らの演技のポジティブな雰囲気にまで昇華されているのだろう。
■Dリーガーの域を超えた、国民的スターへの道筋
21-22 SEASON、新たにdip BATTLESに加入を果たしたRAIKIは、自分がDリーガーとなったこと、今シーズンdip BATTLESに参加できたことを話すときに「有難いことに」という枕詞を必ず付けて発言する。Dリーグという類まれな舞台でプロダンサーとして活躍できること自体、本当に、後で振り返れば“邯鄲の夢(かんたんのゆめ)”のような出来事かもしれない。しかし往々にして、人はその夢の中では、文字通り只々夢中でその時を過ごしてしまうものだと思うが、RAIKIのようにしっかりとそれが「有難いこと」だと日々認識するならば、その思いは必ず美しい結晶となって踊りに現れてくるに違いない。
実際、RAIKIのダンスは、関節を感じさせない程に滑らかな動きとバネのような強さでスキルの高さを存分に感じさせながらも、全体的には、無垢な魂が燃えているような清廉な印象を残すものだ。そんなRAIKIのピュアな魂に、SHUHO氏の望む、スターになるという気概が十分に伴ったときに、一Dリーガーの域を超えた、国民的スターの輪郭が浮かび上がってくるのかもしれない。
毎ROUNDでジャッジの入れ替えがあり、1シーズン12ROUNDという長丁場のなかで、テーマや衣装、振り付けはもちろん、演技の順番や他チームのナンバーとの兼ね合いも見据えて、いかなる戦略を立てて戦うかということは、Dリーグで勝ちすすむためには必須のポイントであるが、21-22 SEASONからの参戦後、 ROUNDを経るごとに戦い方を心得て、徐々に順位をあげてきているdip BATTLESの煌めきは増すばかり。後半戦の健闘が楽しみだ。そしてRAIKIが今後さらに、スターとして花開くであろう可能性を思いながら、来たる2月28日、ROUND.8の闘いの火蓋が切られる時を待ちたい。
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著者プロフィール
Naomi Ogawa Ross●クリエイティブ・ディレクター、ライター 『CREA Traveller』『週刊文春』のファッション&ライフスタイル・ディレクター、『文學界』の文藝編集者など、長年多岐に亘る雑誌メディア業に従事。宮古島ハイビスカス産業や再生可能エネルギー業界のクリエイティブ・ディレクターとしても活躍中。齢3歳で、松竹で歌舞伎プロデューサーをしていた亡父の導きのもと尾上流家元に日舞を習い始めた時からサルサに嵌る現在まで、心の本業はダンサー。