北京五輪女子カーリングは日本代表のロコ・ソラーレが、前回の平昌五輪銅メダルを上回る銀メダルを獲得した。今回はチームのホームタウンである北海道北見市で応援していたという代表理事の本橋麻里はその快挙についてこう評した。「選手一人ひとりが強さと…

 北京五輪女子カーリングは日本代表のロコ・ソラーレが、前回の平昌五輪銅メダルを上回る銀メダルを獲得した。今回はチームのホームタウンである北海道北見市で応援していたという代表理事の本橋麻里はその快挙についてこう評した。

「選手一人ひとりが強さと弱さに向き合ってきたこの4年間でしたが、成熟度が増して世界で戦えるチームになった」

 また、日本でしのぎを削る現役のトップ選手たちもロコ・ソラーレの奮闘にメディアの取材や自らのSNSなどを通じて声援を送り、そのパフォーマンスについてリスペクトの念を示した。

 そのなかで最も称賛を集めたのが、リードの吉田夕梨花だ。



驚異的なショット成功率で日本のメダル獲得に貢献した吉田夕梨花

 出場全10カ国のリードでショット率はダントツの91%。決勝トーナメントでも、準決勝で99%、敗れた決勝戦でも97%という圧巻のハイアベレージをマークした。

 スキップの藤澤五月もフォースを務めた10選手のなかでトップのショット率80%という数字を記録したが、実はそれを支えていたのも「吉田夕梨花選手だ」という声も大きい。平昌五輪でSC軽井沢クラブのリードとして全9試合を戦った両角公佑もそれに同意して、こう語る。

「吉田夕梨花選手は今大会好調で、特にプレーオフ以降はほぼノーミスだったと言っていいと思います。リードの仕事自体を完璧にこなすだけでなく、スキップのラストロックのためのサポートという役割での貢献度もすばらしいものがありました」

 たとえば、準決勝のスイス戦の6エンド。先攻の日本は吉田夕が1投目、ハウス内にほぼ完璧なドローを決めた。3点リードの日本としては相手に1点をとらせる"フォース"をさせたいエンドだったため、サードの吉田知那美がヒットロールなどで相手の石を減らしながら、相手にプレッシャーをかけることにも成功していた。

 そして迎えたスキップ・藤澤の1投目。狙いのショットは、吉田夕が最初に投じたショットとまったく同じラインでのドローだった。

「リードとスキップが似たショットを投げるのは、カーリングではよくあることです。特にこのエンドは、ターンもパス(通り道)もウエイト(速さ)も同じでしたから、藤澤選手はアイスの変化にだけ気をつけて、吉田夕選手とほぼ同じ情報で投げればよかった。自信を持って投げているように見えました。

 ゴルフのグリーン上で、あとから打つ人が前の人のラインを参考にして決めるシーンがよくありますよね。それと同じで、パットのラインや芝目がわかるみたいなものです」(両角)

 現に藤澤は吉田夕から得た"芝目"などの情報によって、同じラインのドローを確実に決めた。続くスイスは難しいショットを選択することとなり、最終的にそのエンドは日本がスチール。決勝進出に大きく近づいた。

 両角が続ける。

「吉田夕選手は、続く8エンド、10エンドでも簡単ではないウィックを4本、完璧に決めています。これによって、センターラインが大きく開いて、藤澤選手が投げやすくなりました。吉田夕選手は明らかに藤澤選手のショット率をサポートしていますし、エンドセーブという意味でも大きな役割を果たしました」

 エンドセーブとは、カーリングでは「そのエンドを最低限のタスクで進行する」といった意味合いだ。

 両角の言うスイス戦の8エンド、10エンドであれば、複数点を得るのが理想だが、厳しければ、ブランクエンド、最低でも1点加点が最低限のタスクとなる。逆に、スチールだけは許してはいけない場面だった。

 そこで、吉田夕がウィックで露払いのようにセンターに風穴をあけ、重要なラストショットを放つ藤澤のドローの道を確保した。もちろん、藤澤の技術ありきではあるが、吉田夕のお膳立てによって、藤澤はプレッシャーの少ないショットを打てる状況を得られ、それをきっちり決めて日本は逃げきりに成功している。

 つまり、日本が銀メダル以上を確定させたのは、吉田夕という地味ながら堅実な土台がいたからこそ、と言っても過言ではない。

 21日に帰国したロコ・ソラーレはこのあと、隔離期間を終えると地元の北見に戻る。凱旋試合として予定されていたミックスダブルスの日本選手権は新型コロナウイルスの影響で中止となったが、5月には北見市常呂町で日本選手権が開催される予定だ。その舞台で再び、ロコ・ソラーレの雄姿が見られるだろう。

 今や日本のレベルも上がり、藤澤も「国内で勝つのが本当に難しい」と語っていたことがある。実際、日本選手権では世界選手権代表の中部電力、ディフェンディングチャンピオンでアジア王者でもあるフォルティウス、さらに昨夏のどうぎんカーリングクラシックでそれら2チームに加え、ロコ・ソラーレにも勝って優勝した富士急など、強豪ライバルたちが待ち構えている。どのチームも五輪銀メダルチームからの金星を狙って挑んでくるはずだ。

 ロコ・ソラーレの躍進によって、一段と注目度が増す日本選手権。各試合ではリードの1投目から注視して、その後のショットとリンク上の状況をつぶさに見届けてみてはどうだろうか。カーリングという競技が、より楽しめるはずだ。