来場者増加もバブル期とは違う様相、関係者が考える「2025年問題」対応策 国内外でゴルフ人口が増えている。特にこの2年は、新型コロナウイルス感染拡大により、ゴルフが屋外で安全にプレーできることが広く認知され、国内のゴルフ場、練習場でも来場者…

来場者増加もバブル期とは違う様相、関係者が考える「2025年問題」対応策

 国内外でゴルフ人口が増えている。特にこの2年は、新型コロナウイルス感染拡大により、ゴルフが屋外で安全にプレーできることが広く認知され、国内のゴルフ場、練習場でも来場者が増加している。一方で、バブル期(1990年前後)のゴルフブームとは違う様相があるという。ブームを歓迎する関係者たちが、「THE ANSWER」に「今、ゴルフ場で起きていること」と「ブームを一過性のものにしないための対応策と工夫」を明かした。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

 ◇ ◇ ◇

 R&A(全英ゴルフ協会)は昨年12月14日、スポーツ・マーケティング・サーベイズ(SMS)との調査によって、世界全体のゴルフ人口は、過去5年間で6100万人から6660万人に増加し、これまで最高だった2012年の6160万人を上回ったと発表した。その上で、R&Aの最高開発責任者フィル・アンダートン氏は「新型コロナウイルスのパンデミックにより、このスポーツが屋外で安全にプレーできると広く認知されるようになった過去2年において顕著だった」などと述べている。

 今年1月20日に発表された経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」でも、昨年年1~11月のゴルフ場の売り上げと利用者数は、1月と8月を除いて前年同月比100%を上回っている。特にハイシーズンの利用者数は顕著で、4月で161.2%、5月で130.8%を記録。練習場については、売り上げ、利用者数ともすべての月で100%を超えている。

 確かに私の感覚でも、昨今はゴルフ場の予約が取りづらくなり、練習場で打席に入れるまでの「待ち時間」があるケースが多くなった。そんな中、関東のゴルフ場でプレーする機会があり、旧知の職員に来場者状況を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「ありがたいことに増えていますね。特に若い人が増えて、1組4人全員が初心者というケースもあって、中にはその日に初めてクラブを握る人もいました。当然、ルールも知らないので、ティーグランドにボールを置いて、そのまま直ドラ(ティーを刺さないドライバーショット)でボールを打つなんて光景も目にしました。これはさすがに驚きました」

 千葉県大多喜町のマグレガーCCで勤務するマグレガージャパン(株)企画開発部の松下健課長も「先日も、初心者の方と1、2回の経験がある方々だけで3組12人でいらっしゃいました」と証言した。バブル期のブームでは、ゴルフ好きの上司が部下を連れてルールとマナーを厳しく指導するケースが大半だったというが、昨今は「若い人たちだけでゴルフに挑戦」というスタイルが珍しくなく、松下氏もさまざまな光景を目にしているという。

4人で1バッグ…「ボールはどこで借りられますか」

「ボールを自前で用意してないことで、『どこで借りられますか』という問い合わせは少なくありません。あとは、来場されてロッカーの存在を知らず、説明を受けてそこに荷物を入れるなどされたものの、シューズはバッグに入れてあるので、カートの前で履き替えるなんて光景もよく目にします。4人1組でバッグが1つでクラブを使い回すということもあったりしますね」

 初心者が4人でルールも分からなければ、プレー進行も心配になる。そんな空気を察した時は、コース職員や松下氏がスタートホールの様子を見に行き、さりげなく「ティーショットでボールが白杭を越えてOBになったら、前進4打というルールがありますから、打ち直さずにそのまま進んでください。グリーン上ではボールがカップに近づいたらOKにしましょう」などと声を掛けているという。

「その後も、マーシャル(コースを巡回して早い進行を促す担当)が見ていたりはしますが、初心者だけの組でも『迷惑をかけてはいけない』という思いは強いと感じます。ショットの度に『わーっ』『きゃー』と声が上がりはしますが、急いで移動していますし、何度かに1度はナイスショットもあったりして、うれしそうにもされています。ホールアウト後もスコアに関係なく、談笑されていて、『また、来たいです』と言ってくださる方もいらっしゃいます。これを機会にゴルフが好きなってくれたらうれしいですよね」

 同CCでは、昨年から全組セルフ、スループレーとなり、レストランの営業を取りやめている。冬季プレー料金は平日5990円、休日1万3400円(3月以降は6990円、休日1万4400円)。併せて2時間貸し切り(平日4900円、休日5900円)の練習ホール(250ヤード=パー4、130ヤード=パー3)を設置してあり、松下氏は「初心者の方がハーフ9ホールのプレー後、別料金を払ってこの2ホールで練習されるというケースもあります。貸し切りなので、アプローチでピンを狙うゲーム性を入れた練習もできます。ゴルフを楽しむ入口としておすすめです」と話している。

「2015年問題」を乗り越えても「安心できません」

 千葉県市原市の千葉よみうりCCは、いち早く「初心者応援」を掲げたコースとして知られる。深山泰司支配人がその歴史を説明した。

「取り組み始めたのは2001年からで、他のゴルフ場に比べてプレー料金を安価にしています。きっかけは、ゴルフ業界における『2015年問題』への対策でした。07年からは『手ぶらdeゴルフ・きっかけゴルフ』と題したプログラムを実施しています。初心者の方に手ぶらで来てもらい、クラブ、ボール、シューズを貸し出し、簡単な座学を受けてもらった上で、食事、打撃練習、パター練習、1ホールのプレー体験してもらいます。こちらで現在の価格は5930円になります」

「2015年問題」とは、同年には団塊世代が70歳に達して、続々とゴルフを止め、ゴルフ場の倒産、ゴルフ業界全体の縮小を懸念したものだった。結局は、健康寿命が延び、カートも普及したことで問題は起きなかったが、16年以降はプラス10年の「2025年問題」が叫ばれていた。そして、沸き起こった想定外のゴルフブーム。それでも、深山氏は「安心はできません」と話す。

「この流れを生かしていかないと、本当に2025年にはゴルフ場が厳しい状況になりかねません。これまでは『ゴルフ場は敷居が高い』と思われてきましたが、まずはそれを払拭しないといけません。ですので、初心者だけで18ホール回ろうとする方も歓迎しています」

 ただ、現実には初心者だけの組が前にいて、「プレーが遅い」とコース側に苦情を伝えくる利用者もいるという。その対策にも、同CCは取り組んでいる。

「カートの動きはキャディーマスター室で全て把握できていますで、できるだけ苦情が入る前にマーシャルが速い進行を促しています。スタート前に初心者だけの組と分かった場合には、後続を気にしないでいい時間帯の組に回ってもらうこともあります」

 なお、千葉よみうりCCのプレー代(昼食サービス、税込み)は2月中で平日7900円、休日1万1900円だが、49歳以下には平日5500円、休日9900円とさらに安価に設定している。また、他のゴルフ場にも初心者を呼び込むべく、「手ぶらdeゴルフ」のノウハウを無償で市原市に伝え、市原市ゴルフ場連絡協議会(市内33ゴルフ場が加盟)とも連携。市が主催した「手ぶらdeゴルフ」(税込み3300円、プレゼント付き)は、今年度だけで9回開催されるに至った。

 日本一ゴルフ場が多い市原市を巻き込んだ取り組みで、全ては「2025問題」を乗り越えるため。今のブームを生かしたいのは、ゴルフ関係者にとって共通の思いだ。

 〇…千葉よみうりCCも加盟している日本パブリックゴルフ協会は、初心者でもプレーペースが落とさずにゴルフを楽しむ1つの方法として、「スクランブル方式」を推奨する意向だ。4人(複数人)がティーショットを打ち、その中から1つのボールを選択。第2打を全員が同じ場所からを打ち、その中からまた第3打を打つボールを選択し、ホールアウトまで繰り返すという方式だ。同協会の林一郎専務理事は「近く正式に推奨という流れですが、協会としては初心者でも経験者と一緒に楽しめるこの方式を用いた競技を開催したいと考えています」と話している。

 また、ゴルフ場では「人のパッティングラインを踏まない」「バンカーショットの後はレーキで砂を整える」などマナーも重視される。初心者だけの組だと、その点も心配されるが、日本ゴルフ場経営者協会の大石順一専務理事は「マナーが悪い人はゴルフを長くやっている人にもいます」と指摘。その上で「(マナーを)知らないのであれば、ゴルフ場のスタッフが教えてあげるべきで、別組の人が優しさを持って声を掛けてもいいと思います」と話している。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)