「不思議ですが、テレビで応援しているだけなのに、自分もまだチームの一員のような感じがして......。汗をかきながら応援していました(笑)。準々決勝のフィンランド戦(世界ランキング3位)は残念でしたし、きっと選手がいちばん悔しい思いをしてい…

「不思議ですが、テレビで応援しているだけなのに、自分もまだチームの一員のような感じがして......。汗をかきながら応援していました(笑)。準々決勝のフィンランド戦(世界ランキング3位)は残念でしたし、きっと選手がいちばん悔しい思いをしているはず。でも、一次リーグを首位通過したのは本当にすごいこと。次につながる大会だったことは間違いないと思います」

 惜しくもメダルには届かなかったが、4度目の五輪で初めて一次リーグを突破するなど、北京で快進撃を見せた女子アイスホッケー日本代表「スマイルジャパン」。その戦いぶりについて、14年ソチ、18年平昌と、2度の五輪に出場した元スマイルジャパンFW足立友里恵さん(36)はそう話した。足立さんは平昌五輪のシーズンを最後に現役引退したが、今回北京五輪に出場したメンバー23人のうち約半数はソチ五輪からのメンバー、かつてのチームメートでもある。

 振り返れば、自国開催枠で出場した98年長野五輪、初めて予選突破した14年ソチ五輪は、いずれも全敗。前回の18年平昌五輪では初勝利を含む2勝(3敗)を挙げたものの、一次リーグ敗退に終わっていた。

 北京五輪の女子アイスホッケーは、前回より2チーム多い10チームが参加。一次リーグは、世界ランキング順に1~5位がグループAとなり、同6位のスマイルジャパンはグループBに振り分けられた。

 北米のカナダとアメリカの二強の力が抜きん出ているアイスホッケーのレギュレーションは変則的で、グループAは5チームすべて一次リーグ通過が決まっていた一方、グループBは上位3チームが勝ち上がり、準々決勝はグループA1位対グループB3位、グループA2位対グループB2位、グループA3位対グループB1位と「たすき掛け」での対戦となる。準々決勝でカナダ、アメリカとの対戦を避けたいスマイルジャパンは、狙いどおりグループBを首位通過した。

 一次リーグは初戦でスウェーデン(同9位)に3-1と勝利すると、続くデンマーク戦(同11位)にも6-2と勝利。3戦目の中国(同20位)には、ゲームウイニングショット戦(以下GWS)の末に1-2と敗れるも、第4戦でチェコ(同7位)にGWSの末3-2と競り勝った。



準々決勝フィンランド戦を戦い終わったスマイルジャパン

 だが、準々決勝ではフィンランドに開始2分8秒で先制されると、4分32秒にも追加点を奪われる苦しい展開に。その後1点を返して、第1ピリオドは1-2で折り返すも、最後は1-7と点差を広げられてしまった。

【フィンランド戦でも好プレーが】

 足立さんは、早々に2点をリードされてしまったのが痛かった、と話す。

「フィンランドの攻撃を十分警戒していたと思いますが、序盤の2点で流れを持っていかれてしまった気がします。フィンランドはスケーティングのスピードが速く、パスの精度も高い。フェイスオフからのセットアップもいろいろなパターンがあって、守っても前線からのバックチェックが早く、日本がやりたいようなホッケーをやられてしまった。ゴール前の迫力やゴールへの執着心はもちろん、シュートもそこしかないという角度やコースに決めてきて、本当に強かったです。

 一次リーグでもパックを相手に支配される展開はありましたが、危ないところでシュートを打たせず、インサイドは全員で守ることが徹底されていた。そのうえで、数的優位となるパワープレー(PP)で効果的に得点を奪って勝ってきたのですが、フィンランドは寄せが早く、なかなか思い通りに攻撃させてくれませんでした。失点の場面でも相手のスピードにマークをはがされ、対応できない場面がありましたね」

 最終的に点差はついてしまった。それでも、8年前、4年前と比較すれば、スマイルジャパンの戦い方は大きく進歩していたと、足立さんは強調する。

「(フィンランド戦の)得点シーンは(相手ゴール前で)3対1と数的有利な場面で、右サイドから20歳の志賀紅音が決めましたが、私たち世代の選手なら、あそこまでのシュート力がなく、パスを選択してしまう場面だったと思います。GKは中央へのパスも警戒していて意表をつかれたと思いますし、ああいうところでシュートを打てるのが紅音の強みです。

 私が現役時代、代表合宿で彼女と同部屋になったことがありました。若い選手は、日本人相手でも最初は練習で吹っ飛ばされてしまったりするものですが、彼女には最初から力強さがありました。当時はDFの選手だったのですが、のちにシュート力を買われてFWにコンバートされました。DFからFWへのポジション変更は簡単ではなかったと思いますが、本当に成長を感じました。

 それ以外にもチャンスはありました。1点を返したあとの第2ピリオドは、米山知奈、山下光らのFWのセカンドセットで惜しい場面もありましたし、そこで得点できれば流れが変わっていたかもしれません。もちろん、そこを突いて逆に得点してきたのがフィンランドだったのですが......」

【信頼されていたファーストセット】

 一次リーグでは体格で上回る欧州勢から3勝。特にスウェーデンは、ソチ、平昌といずれも初戦で負けていた相手だった。勝因のひとつに選手の経験値が上がったことが挙げられる。

「ソチや平昌に出た経験のある選手たちが、1試合目から落ち着いてプレーしていたことで、チームが締まった部分はあったと思います。ソチのときは、どこかフワフワしていた部分もありましたし、たとえばスウェーデン戦なんて、ほとんどDゾーン(ディフェンスゾーン)から出られなかったような記憶があります(苦笑)。その点、今回は堂々と戦っているのが印象的でした」

 そして、大会を通して目についたのは若手の成長と、長く日本の課題とされてきた得点力不足の解消だった。

「亜矢可と秦留可の床姉妹、葵と紅音の志賀姉妹、それに浮田留衣で組んだファーストセットは、フィンランドに対しても十分戦えていました。これまでは基本メンバーを4セットで回すことが多かったのですが、今回はそのファーストセットを軸に、基本3セットで、場合によっては2セットで回しているんじゃないかと思うほど、(ファーストセットの選手が)出場していた。大会を通して出場時間が多かったのは、彼女たちが信頼されているからこそだと思います。

 紅音はもちろん、攻撃の中心だった秦留可(24歳)と浮田(25歳)もまだ若いのに、本当に頼もしかった。一次リーグでは、数的有利なPPからもうまく得点につなげていましたし、PPの精度もかなり向上したように見えました。

 もちろん、ファーストセットだけじゃなく、GKの藤本那菜は好セーブ連発で、チェコ戦のGWSで唯一の得点を決めた英恵さん(久保)もさすがでした。高涼風、小山玲弥、主将の大澤ちほで組んだFWのサードセットも、決してサイズの大きい選手ではないですが、常にハードワークしていましたし見ていて本当に胸が熱くなりました」

 足立さんが指摘する通り、最も高い得点力を誇ったファーストセット。たとえばDFの床亜矢可と志賀葵は一次リーグ4試合中3試合で出場時間が30分を超え、床秦留可や浮田もほとんどの試合で30分近い出場時間を記録した。特定の選手に頼ることは選手層の薄さの裏返しとも言えるが、若い力の台頭は、今後のスマイルジャパンの明るい兆しと言っていいだろう。

 FW久保(39歳)、GKの藤本(32歳)、FW米山知奈(30歳)らは北京五輪を競技生活の集大成と公言しており、今後はチームのさらなる若返りも考えられる。

「ソチのときは、学生だった選手も多かったですし、働きながら競技を続けることが難しかったり、環境的な問題もありました。そういう面もだいぶよくなってきていると思います。そもそも10年バンクーバー五輪では、私も予選に出ましたが、負けてしまい本戦には行けませんでした。そこから2度の五輪を経験し、今回は世界ランキングを上げて予選なしで出場できた。チームは確実に前進していますし、次こそはメダル争いまでいってほしいです。私も将来的には指導者などでアイスホッケーに携われたらという思いもありますし、OGとしてこれからもスマイルジャパンを応援していきたいです」