2月15日にショートプログラム(SP)、17日にフリーが行なわれる北京五輪フィギュアスケート女子シングル。強豪ロシア勢と対決する日本の3人は、どんな戦いを見せてくれるだろうか。団体女子フリーに出場し、日本初のメダル獲得に貢献した坂本花織 …

 2月15日にショートプログラム(SP)、17日にフリーが行なわれる北京五輪フィギュアスケート女子シングル。強豪ロシア勢と対決する日本の3人は、どんな戦いを見せてくれるだろうか。



団体女子フリーに出場し、日本初のメダル獲得に貢献した坂本花織

 2018年平昌五輪で6位入賞した坂本花織は、2大会連続で五輪出場を決め、「全日本選手権で優勝して、一番初めに代表に決まったので、責任と覚悟を持って、メダル獲得を目標にして自分のベストを尽くしたい」と意気込んで、大舞台に立つ。

 個人戦に先立って行なわれた団体戦でフリーに出場した坂本は、スピード感あふれるノーミス演技を披露して148.66点をマーク。しっかりと大トリの役割を果たして、チームの五輪初メダル獲得に貢献した。

「できる限りのことを本番でやるだけだと思っています。わけもわからず、ただひたすらにがむしゃらにやっていた17歳の時に五輪を経験できたことは本当に大きかった。何も考えず、自分らしくやれて終わったみたいな感じだったけど、4年前のことを振り返って考えて、今回は『こうしよう』という改善する部分が見えている感じで臨めるのが楽しみです」

 活躍も挫折もあったこの4年間で、心にも余裕ができ、2度目の五輪は初出場のチームメイトを引っ張る立場になる。前回の初五輪では、各国の料理が提供される選手村の食堂で「調子に乗って食べていたら太った」と言い、食事の管理には気をつけたいという注意点まで挙げていた。

 ここまでの飛躍を後押ししてくれた気鋭の振付師、ブノワ・リショー氏と一緒に、難易度の高いプログラムのブラッシュアップを図ってきた。試合を重ねるごとに、洗練されたプログラムの完成度は増して、4回転ジャンプもトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も跳ばない戦略を貫き、ミスのない完璧な演技で、大技を跳んでくるライバルたちとの勝負に挑む。

 全日本選手権からの五輪までの約1カ月の調整期間も、さらなる成長のための時間だった。

「オリンピックまでは伸ばせる部分を感じているし、伸びしろみたいなものが自分にあると思うので、GOE加点や演技構成点をもっとアップできるような演技をしていきたい。(疲れが出てくる)フリー後半の演技はもうちょっと伸ばせると思っているので、ステップやコレオはもっと迫力が出るように思いきってやりたいです」

【樋口新葉はトリプルアクセルにかける】

 大技がない坂本がロシア勢に対抗して上位争いに加わるためには、誰にも負けないスケーティングスピードを"本来の速度"に上げて演技を見せることだろう。ここまでの試合では、持ち前のスピードをセーブして、ジャンプやステップ、つなぎの動作を乱さないためにコントロールしてきた。中野園子コーチも「もっとスピードを出さないといけない」と、勝負のカギはスピードだと語る。果たして本番に向けてどこまでスピードアップを図ってくるかも注目してみたい。

「SPもフリーもパーフェクトな演技で、前回よりもいい成績で終わりたいです。前回の平昌大会は出られたことがうれしくて、浮かれた気持ちが大きかった。今回は全日本選手権優勝という責任もあるし、覚悟が4年前と全然違う感じ。やるぞという気持ちです」

 2度目の五輪で、トレードマークの笑顔を輝かせてほしいところだ。

 一方、有力候補でありながら平昌五輪代表を逃して悔し涙を流した樋口新葉は、4年越しの願いを叶えて北京五輪代表になった。この4年間はただひたすら、五輪シーズンの代表最終選考会となる全日本選手権に照準を合わせてきたと言っても過言ではない。4年前の全日本選手権でミスを連発して自滅した同じ轍は踏まないと誓ったからだ。さらに、一時は諦めかけたトリプルアクセルも、習得を目指して練習を積み、ついに五輪に間に合わせて試合でも跳ぶレベルまで持ってきた。

 全日本選手権ではSPでの挑戦は回避、フリーでは着氷したもののステップアウトだった。「武器」として戦いを優位に運ぶまでにはまだ至っていなかっただけに、その後の約1カ月の調整期間でどこまで成功率を上げているか。樋口が初出場の五輪で上位争いに食い込むには、トリプルアクセルをSPとフリーで成功させることに尽きる。

 団体戦の女子SPに出場して初舞台に立った樋口は、ほどよい緊張感を漂わせながら落ち着いた表情で『ユア・ソング』を伸び伸びと滑り、ステップでは音楽に溶け込むような演技を披露した。会心の出来に笑顔でフィニッシュポーズを決め、74.73点を出して女子2位となり、決勝進出に貢献した。団体戦では「ミスはできない。一番安定できる演技でいく」と、トリプルアクセルを回避したが、個人戦で挑む覚悟はできている。

「全日本以上の演技をすることと、SPからトリプルアクセルを入れたいです。思いきって練習してきたことを出せるように、何も考えずに滑れたらいいなと思います。トリプルアクセルを2本入れることもそうですけど、もし失敗してしまっても、(フリーで)150点に近い点数や超える点数を出せればベストでいいなと思っています。

 トリプルアクセルを跳ぶということは、オリンピックの前からずっと目標にしていたので、それをとりあえず達成しないと、(現役選手を)やめるとまではいかないですけど、とにかく現役のうちに跳びたいということを考えて、ケガを治して練習に取り組みました。自分ができるということをアピールするためにも必要でしたし、すごく大きな点数になるので、そこはすごく考えていました」

 リスクの大きなジャンプであるトリプルアクセルだが、いまの樋口にとっては大きな武器となった。まずは、目標に掲げるSPでのトリプルアクセルを成功させ、上位争いの一角に食い込むこと。そのうえで、競技人生の集大成が詰まった、樋口らしさが存分に発揮されているフリー『ライオンキング』を、はつらつと演技してもらいたいところだ。

【河辺愛菜「SPもフリーも自己ベストを」】

 全日本選手権で3位に食い込んで五輪代表切符を手に入れた河辺愛菜は、「びっくりしているのが一番大きい」と、神妙な顔つきで代表決定会見に臨んでいた。だが内心は「あの大きな舞台で滑れるんだというワクワク感が大きかった」と、実は度胸もある17歳だ。

 五輪出場を意識し始めたのは、今季GP2戦目のNHK杯で2位となり、表彰台に立ってからだという。それでも指導する濱田美栄コーチは、河辺にプレッシャーがかからないように、目標設定を五輪ではなく、四大陸選手権にしたそうだ。あくまでも挑戦者として無欲で出場できた全日本選手権では、SP、フリーともにトリプルアクセルを思いきりよく跳んで、五輪代表の座をたぐり寄せた。

 初体験となる晴れ舞台でやるべきことは決まっている。

「北京ではSPとフリーの両方でトリプルアクセルを決めたいと思います。自分のできる精いっぱいの演技をしてSP、フリーともに自己ベストを出して、できたら(合計)215点を獲得したいです」

 どこまで平常心を保ち、自分の演技を全うできるか。若さと勢いの流れに乗り、キレのいいトリプルアクセルをしっかりとSPとフリーで跳ぶことができれば、チャンスは生まれるだろう。