オリンピアンを父に持つ鍵山優真は、ジュニア時代から、日本男子のエースになれる素質が注目されてきた。予想を裏切ることなく、着実にトップスケーターへ続く階段をじっくりと上ってきた鍵山は、5歳でスケートを始めた時から夢に描いてきたという五輪のひ…

 オリンピアンを父に持つ鍵山優真は、ジュニア時代から、日本男子のエースになれる素質が注目されてきた。予想を裏切ることなく、着実にトップスケーターへ続く階段をじっくりと上ってきた鍵山は、5歳でスケートを始めた時から夢に描いてきたという五輪のひのき舞台で強烈な光を放った。



北京五輪で銀メダルを獲得した鍵山優真のフリーの演技

 個人戦を前に、日本が初めて銅メダルを獲得した団体戦でフリー『グラディエーター』の堂々とした演技を披露。自己ベストを11.45点も更新する208.94点を叩き出す。そのピュアな滑りから、個人戦でもメダルを手にできるとの期待が高まっていた。

「団体戦は何もかも初めてだったので、謎の自信があったんですけど、ショートプログラム(SP)は団体戦でついた自信があったので、自信を持って臨めました。やっと自分らしい、いいプログラムを滑ることができたかな」

 そのSPでは、ほどよい緊張感のなか、『ウェン・ユア・スマイリング』の躍動感あふれる演技を見せ、ほぼノーミスの出来だった。冒頭の4回転サルコー、トーループの4回転+3回転の連続ジャンプ、そして苦手意識を克服したトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を完璧に跳び、見る者を笑顔にするというプログラムテーマを実践。会心の演技に右手を突き上げてのガッツポーズも飛び出し、うれしそうな笑顔を見せた。

 得点は団体戦に続いて自己ベストを更新する108.12点をマークして2位発進。五輪という晴れ舞台で自己ベストを連発し、次世代ホープの本領をアピールした。

「自己ベストはうれしいですけど、そこまで点数は気にしていなくて、いままでSPはうまくいかない演技が続いたので、全力でやりたいなという気持ちが強かったです。2位はとてもうれしい。でも、まだ競技は終わっていないので、気を抜かずに、メダルのことは考えずに自分の演技に全力を尽くしたいと思います。いつもどおりやれば、それなりの点数や結果はついてくるので頑張りたいです」

 シニア2年目の今季は、「どの大会でも1位を目指して戦う」ことを目標に掲げ、グランプリ(GP)シリーズ2大会と、北京五輪テスト大会のアジアン・トロフィーでも優勝を勝ち取った。GPファイナル進出を決め(大会は中止)、全日本選手権では羽生結弦、宇野昌磨に次ぐ総合3位で五輪代表に選出された。

【本番でも持ち味をいかんなく発揮】

 若さと勢いに乗ってはつらつとした演技と、基本に忠実な美しいジャンプは誰もが見入ってしまいほど。軸がしっかりしたスピンでは、男子としてはまれな美しいポジションが取れる稀有なスケーターだ。「武器はこれ」と言うよりも、ジャンプを跳んでスピンを回ってステップを踏むという、そのすべてが教科書に載せられるような滑りになっていることが持ち味であり、出来栄え点(GOE)で高得点を稼ぐ要因だろう。

 五輪本番でもそれはいかんなく発揮された。

 フリーで冒頭の4回転サルコーはキレキレのジャンプでGOE加点を4.43点も稼ぎ、4回転トーループではGOEで3.80点がついた。一方、今大会で初めて試合に投入した4回転ループは、4分の1回転が足りないq判定がつき、着氷も乱れて片手を氷上につく失敗で、GOEで4.65点のマイナスだった。また、4回転トーループからの3連続ジャンプでは、最後のジャンプが3回転から2回転になってしまったが、最後のスピンまで気合のこもった演技を全力でやり遂げた。

 演技後は少し顔をゆがめて、しばし氷上に突っ伏したが、それほど持てる力を出しきった演技だったのだろう。

「(演技直後の状態は?)疲れました。全力でというふうに考えていたので、最後まで何があっても諦めない滑りを見せることができたらいいなと思っていた。それができてよかったのと、オリンピックの舞台でひとつの悔いも残したくないという気持ちで思いきり滑ることができてよかったです。

 今日(のフリー)は、団体戦、SPと違って緊張しました。この演技ですべてが決まる、試合が終わってしまうと考えると、やっぱり緊張してしまいました。緊張があったなかでも楽しい気持ちを忘れずにいられることができたので、自分を保てて平常心でいられたかなと思います」

 フリーでの自己ベスト更新はならずに201.93点だったが、合計では18.28点の大幅更新となる自己最高得点の合計310.05点をマークしての銀メダルだった。

【「もっと上に上がれる」】

「とてもうれしいです。この銀メダルという結果は、この数年間オリンピックを目指してきて頑張ってきた努力が詰まった銀メダルと思うので、そこまでの成長をしっかりと感じることができて、とてもいい演技ではなかったですけど、全力でやれたと思います。

(コーチの父からは)おめでとうという言葉をもらいました。今大会は点数や結果をひとまず考えずにやってきたので、キスアンドクライで点数を見て結果を聞いて、すごくびっくりしました。自分は今後、もっと成長できるなと感じましたし、もっと上に上がれると思うので、まずはコツコツと成長できたらいいなと思います」

 親子鷹で目指した五輪で銀メダルを獲得した孝行息子は、隣で顔を紅潮させ、目頭を押さえる父の姿を目に焼きつけたに違いない。

「父からは『悔いが残らないように自分がやりたい演技をしてこい』と言われました。個人の銀メダルを獲れたので、いい親孝行ができたんじゃないかなと思います。メダルは掛けてあげたいです」

 銀と銅のメダルを手に入れた18歳にとって、今回の北京五輪は、今後の成長という点においても計り知れない経験となったのは間違いない。4年後の次の五輪では、五輪新王者ネイサン・チェンの連覇を阻止する金メダル有力候補になっている可能性は高い。そんな期待と予感を持たせる鍵山の五輪初陣だった。