2月7日、団体戦女子フリーの坂本花織。華麗な演技を見せた【「あなたで決まる」プレッシャー】 坂本花織は4年前の平昌五輪団体戦でフリーを滑った時、最初のジャンプで失敗してから残りの3分半は頭のなかがパニックになり、何をしているかわからないまま…


2月7日、団体戦女子フリーの坂本花織。華麗な演技を見せた

「あなたで決まる」プレッシャー】

 坂本花織は4年前の平昌五輪団体戦でフリーを滑った時、最初のジャンプで失敗してから残りの3分半は頭のなかがパニックになり、何をしているかわからないままに終わったという。日本チームに貢献できず悔しかったと語った坂本は、今回の北京五輪団体戦もフリーに出場した。

 本番2日前の取材で坂本は笑いながらこう話していた。

「団体出場が決まって『フリーをお願いします』と言われた時に、フリーか、前回と一緒やと思って......。それでスケジュールを調べたら最終種目だったのでえーっとなったら、中野園子先生が『あなたで決まるので』と言うから、死んじゃう! と思いました。世界国別対抗戦でも女子が最後というのを経験しているから、それを生かして。メダル、メダルと考えすぎてしまうとどこかですっこぬけてしまうので、演技に集中しようと思っています」

 平昌五輪と違い、メダル獲得の可能性も高かった今大会。坂本が心配したのは、競り合った状況で自分の出番を迎えることだった。だが、それは避けられた。2日目の樋口新葉の女子SPと、鍵山優真の男子フリーのそれぞれ2位と1位の滑りで、合計ポイントで4位のカナダを大きく引き離し、メダル獲得にぐっと接近した状況だった。

 最終日の2月7日、最初に登場したペア・フリーの三浦璃来、木原龍一組が序盤の3連続ジャンプなどで細かなミスがありながらも、自己最高を4.16点上回る139.60点を獲得する大健闘の滑りを見せた。

 ふたりは2番滑走。1番滑走のカナダのバネッサ・ジェームズ、エリック・ラドフォード組が130.07点にとどまった時点で、日本の4位以上は確定していた。さらにペアのショートプログラム(SP)で3位だったアメリカのアレクサ・クニエリム、ブランドン・フレージャー組も、大きなミスがあり128.97点と低迷。ペアSPはウェンジン・スイ、ツォン・ハン組が1位だった中国はフリーでは、2019年GPファイナル2位で今季もGPシリーズ・イタリア杯2位のチェン・ペン、ヤン・ジン組を起用したが、自己最高より10点弱低い131.75点しか出せないまさかの結果になった。



ペア・フリーの三浦璃来、木原龍一組。自己ベストを叩き出した

「演技前半で細かいミスがあって体力を消耗していたので、最後のポーズのあとで三浦さんが倒れ込んだと思い、減点されるのが心配で頭が回っていなかった。冷静に考えれば自己ベストだったのでうれしいですが、振り返ってみればもっと、もっといいところが出せたので悔しかったです」

 木原はそう言うが、2位で9点獲得という予想以上の結果だった。その時点で合計ポイント4位のカナダとの差を11点にして銅メダル以上を確定させた。アメリカとも同点で並び、銀メダル獲得の可能性さえ見えたのだ。

【平昌五輪からの大きな成長】

 結局、銀メダル争いは、次のアイスダンスでアメリカが1位、日本は5位で4点差をつけられて難しくなったが、銅メダルは確定した状況で坂本の出番になった。

「不安は今日の朝がピークだったと思うが、ペアとアイスダンスでしっかりやってくれて銅メダル以上確定にしてくれたので、あとはカッコよくメダリストになりたかった。しっかりノーミスの演技で締めるだけだなと思っていました」



アイスダンス・フリーダンスの小松原美里、小松原尊組

 坂本のフリーは、大会前にブラッシュアップする段階で、2週間前に振り付けのブノワ・リショー氏から「曲の一部を変えた」と伝えられた構成。コレオシークエンスの要素の順番を変更したが、これまで不安を感じていた最後の3回転ループへの入り方はラクになったという状態だった。

 2番目の3回転ルッツはノット・クリア・エッジ(明確でない踏み切り)の判定はついたが、演技後半のジャンプはすべて高いGOE(出来ばえ点)加点をもらう。スピンはすべてレベル4のノーミスの滑りで、昨季の世界国別対抗戦で出した自己最高に1.63点と迫る、シーズンベストの148.66点を獲得。カミラ・ワリエワ(ロシアオリンピック委員会=ROC)に次ぐ2位になり、団体初の銅メダル獲得に花を添えた。

「4年前(の平昌五輪)は(宮原)知子ちゃんのうしろをついていただけで彼女の背中しか記憶にないくらいだったし、試合でもジタバタしていた。でも、今回はこうやって団体戦の締めとしてノーミスで終えることができたので、4年間頑張ってきてよかったなと思います。今回のメダルは部屋に置いておくけど、個人戦へ向けてはこのメダルが恥にならないような演技をするために、毎日調整していきたいです」

 団体戦の銅メダル獲得は、坂本にとっては個人戦でロシア勢に挑戦するための大きな弾みになった。