第56回スーパーボウルは、AFC王者のシンシナティ・ベンガルズとNFCを制したロサンゼルス・ラムズで争われる。33年ぶり3度目出場のベンガルズはフランチャイズ史上初の頂点を、対する3年ぶり5度目の出場となるラムズは22季ぶり2度目の優勝を、それぞれ目指す。

雌雄を決する頂上決戦は、見どころ満載だ。また、ヒップホップ界のスーパースターが目白押しのハーフタイムショーも見逃せない。

◆【予告映像】第56回スーパーボウル・ハーフタイムショーのトレーラー動画

■全体1位指名のQB対決

前年地区最下位から華麗なる飛躍を遂げたベンガルズは、ジョー・バロウの成長が今季躍進の大きな理由。

2020年のドラフト全体1位指名で入団した25歳は、1年目のシーズン終盤に左ひざ前十字靭帯断裂の重傷を負ったが、2年目の今季に完全復活した。パス成功率は、先発QBの中でリーグ1位(70.4%)と安定感抜群。

クオーターバックを評価する上で大事な指標となるレーティングがリーグ2位(108.3)。パス獲得ヤード(4611)、タッチダウン(34)でもリーグ10傑に入り、2年目にしてリーグトップクラスのQBに成長した。中でも特筆したいスタッツが、パス1回あたりの平均獲得ヤード。8.9ヤードは堂々のリーグトップで、新人のジャマール・チェイス、ティー・ヒギンズのワイドレシーバー(WR)コンビへのロングパスは大きな武器となる。

対するライオンズは、13年目のQBマシュー・スタッフォードが攻撃をけん引する。

2009年のドラフトでデトロイト・ライオンズからイの一番で指名されたベテランは、12年慣れ親しんだチームを離れて今季からラムズでプレー。新天地では水を得た魚のようにパスを通しまくり、移籍初年度でチームを2018年シーズン以来のスーパーボウルへ導いた。

スタッフォードの長所は、フィールド奥深くへパスを投げ込める強肩。レギュラーシーズンでは、40ヤード以上のパスをリーグトップの18本決めている。ターゲットには、クーパー・カップ、オデル・ベッカムJrといったリーグ屈指のWR陣がそろう。

■ディープスレッドのスーパールーキーと“三冠”レシーバーに注目

バロウの成長はベンガルズ躍進の大きな理由だが、チェイスの加入も忘れてはいけない。バロウとルイジアナ州立大からコンビを組むルーキーは今季、レギュラーシーズンでリーグ4位のパス獲得ヤード(1455)を記録。レシービングタッチダウン(13)もリーグ3位と先輩司令塔と息ぴったりだった。平均獲得ヤードは脅威の18.0ヤード。俊足と簡単には倒されないボディバランスを武器にランアフターキャッチでフィールドを縦横無尽に切り裂く。

バロウと同期の2年目WRヒギンズもレギュラーシーズンで、一流の証であるレシーブ1000ヤードを突破。ファーストダウン獲得率(71.6%)ではチェイス(69.1%)を上回るだけに、ここぞという場面ではヒギンズがターゲットとなる。

スタッフォードのメインターゲットは、WRカップ。5年目に覚醒した28歳は、パス捕球回数(145)、レシーブ獲得ヤード(1947)、レシーブタッチダウン(16)の部門で1970年以降では史上4人目の“三冠”を達成。スタッフォードが最も頼るレシーバーだ。

ベンガルズ守備陣としては、スタッフォードとカップのホットラインを止めない限り勝機を見出せないだろう。さらにシーズン途中に加入したベッカムも、ラムズにとって大きなウエポンだ。8年目のビッグプレーメーカーは、縦に駆け上がるスピードとキャッチングスキルは一級品。代名詞ともいえるワンハンドキャッチがさく裂するか。

■ラムズの守備はオールスタークラス

スーパーボウルのような大舞台で勝負のカギを握るのが守備力。そのディフェンスではラムズに分がありそうだ。最前線にアーロン・ドナルド、2列目に途中加入のボン・ミラー、最後尾にジェイレン・ラムジーとオールスター級が顔を揃える。チームのサック数はリーグ3位(50)。

ベンガルズのバロウは、リーグワーストの被サック数(51)でディビジョナル・プレーオフでも9サックを浴びただけに、ドナルドやミラーが前線からラッシュをかけて相手の得意なパス攻撃を分断したいところだ。

一方、ベンガルズ守備の要は移籍1年目のトレイ・ヘンドリクソン。チームとしては、2年連続で13サック以上を記録するパスラッシャーが前線からプレッシャーをかけ、イーライ・アップルらセカンダリー陣がビッグプレーを狙い、そこからリズムをつかみたい。

■キッキングの成否が勝負のカギ

ベンガルズとラムズともにプレーオフを決勝フィールドゴールで2試合連続制しているように、大一番ではキックの成否が勝敗の行方を大きく左右する。ベンガルズは新人のエバン・マクファーソンがポストシーズンで12本中12本成功とパーフェクト。しかも、ディビジョナル・プレーオフ、カンファレンス・チャンピオンシップで決めれば勝利という重圧のかかる場面でいずれも冷静に沈める新人離れした精神力が光る。

対してラムズのキッカーは、3年目のマット・ゲイ。ポストシーズンで9本中7本成功と悪くはないが、勢いでマクファーソンに軍配が上がる。

■ジンクスは関係あるか……

舞台となるSoFiスタジアムはラムズの本拠地だが、今年のスーパーボウルではベンガルズがホーム扱い。なんともややこしい話だが、スーパーボウルでは、AFCとNFCが交互にホーム扱いとなるので、今年はAFCの番だからベンガルズがホームとなる。

ホームチームはユニフォームの選択権があり、ベンガルズが選んだのは通常ホームで着用する黒のジャージ。ただ、ロードの白ジャージを着ているチームは、最近17回のスーパーボウルのうち14回優勝している。ベンガルズファンからは悲鳴が聞こえてきそうなデータだ。

ラムズは、過去4回のスーパーボウル出場のうち3回で白ジャージを着用し、第34回時に勝利している。一方のベンガルズは過去2回で黒ジャージをまとい2連敗。両チームともユニフォームの選択には運がなさそうだが、果たしてジンクスは関係するのか。

スーパーボウルの醍醐味は、勝敗はもちろんのこと豪華アーティストが出演するハーフタイムショーも大きな見どころの一つ。今年の顔触れは、ケンドリック・ラマー、スヌープドッグ、エミネム、メアリー・J・ブライジ、ドクター・ドレーといったヒップホップファンなら垂涎のラインアップ。

この錚々たる5人のアーティストは、合わせて43のグラミー賞を受賞し、22のビルボードアルバム1位を生み出している。世界的イベントのスーパーボウルだからこそ実現した奇跡的なコラボレーションは、忘れられないメモリアルな12分間となるだろう。

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著者プロフィール

一野洋●スポーツライター

青山学院大学を卒業後、米軍厚木基地に就職。その後、NFLを題材にしたライターを目指して渡米。アメリカでは寿司職人を経て、日系フリーペーパーの編集者となりNFL、MLB、NBAなどを取材。帰国後はNFL日本語公式サイト、海外競馬サイトのディレクション業務などに従事した。現在は、NFL、Xリーグ、サーフィン、海外競馬、ゴルフ、テニスなど様々なスポーツを扱うスポーツライターとして活動中。