悲願の金メダル獲得を目指した高梨沙羅(クラレ)の戦いは、北京五輪の女子ジャンプノーマルヒルで、初挑戦の2014年ソチ五輪と同じ4位に終わった。 平昌五輪3位から、「このままでは世界のトップから遅れる」と考えて自分のジャンプをゼロから作り直…

 悲願の金メダル獲得を目指した高梨沙羅(クラレ)の戦いは、北京五輪の女子ジャンプノーマルヒルで、初挑戦の2014年ソチ五輪と同じ4位に終わった。

 平昌五輪3位から、「このままでは世界のトップから遅れる」と考えて自分のジャンプをゼロから作り直してきた4年間だった。


調子がよかっただけに悔しさが残った4位となった高梨沙羅

「この4年間はすごくいろんなことがあって、いい時も悪い時もありました。でも私はそういうなかで頑張るのが当たり前だと思っていました......。ただやっぱり、頑張っても結果を出せなかったら意味がないので、私の頑張りが足りなかったのだと思います」

 こう話す高梨の目には、途中から涙があふれてきていた。

 今回が3回目の五輪。4位、3位、4位と常にメダル争いに絡んできた戦いを振り返り、「毎大会、試合のなかで強い選手たちが出てきて、そのなかで戦うことができたことに関してはすごく幸せな気持ちもあるし、この場に立つことができなかった選手たちもいるので、私がこうやって試合に出させてもらえたのはすごくうれしいことでした。今回は自分の結果を受け入れているし、『もう私の出る幕はないのかな』という気持ちにもなりました」と、弱気な言葉を口にした。

 だが、試合を見れば、運に恵まれなかった面が大きかった。1本目のジャンプは上半身が少しだけ起き上がるような飛び出しになったが、それでも98.5mまで飛距離を伸ばし、その時点でトップに立った。だが、そこからW杯総合上位勢の出番になると、徐々に向かい風が強くなる展開になっていった。

 高梨の次に飛んだニカ・クリジュナル(スロベニア)からは100m超えが続き、ヒルサイズ(106m)超えの108mを飛んだウルシャ・ボガタイ(スロベニア)が2位になり、105.5mながら着地でテレマークをきっちり決めたカタリナ・アルトハウス(ドイツ)が1位。高梨は5位で、3位のクリジュナルとは5.2点差とメダル獲得は厳しい状況になった。ボガタイやアルトハウスが秒速1.53mと1.07mの向かい風だったのに対し、高梨は0.50mと上位5人のなかでは最も風が弱かった。風の変化を横川朝治ヘッドコーチはこう説明する。

「このジャンプ台は向かい風が吹いても、強弱の変化が激しいだけではなく、吹き上げたり、斜めや横から吹くなど方向の変化も激しいんです。高梨の時は少し横からの風で、あとから飛んだ選手たちは方向もよくて強くなっていた。少し踏み切りが早いミスはあったものの、ほかの選手と同じような風なら、確実に一番遠くまで飛んだと思う。上位5人に関して言えば、風の条件のよさがそのまま順位に反映されたような結果だと思います」

【好調が故に生まれた迷い】

 踏み切りのタイミングのズレを少し修正した2本目は、1本目とほぼ同じ秒速0.58mの向かい風のなか、優勝したボガタイと同じ2本目トップタイの100mを飛んで意地を見せた。

「今はすごくいろんな感情が込み上げてきています。平昌からの4年間、いろんな人たちに支えてもらっていただいたが、結果で恩返しできなかったのが悔しいです」

 こう話す高梨は今季、W杯ではなかなか表彰台に上がれずに苦しんでいたが、1月1日の第9戦でシーズン初勝利を挙げ、通算勝利数を61に伸ばしてからは順調だった。

 1月末のラージヒルで行なわれたW杯2戦を欠場し、五輪へ向けて万全な準備をしてきた。それを示すかのように、2月3日の最初の公式練習では104mを最高に、100mジャンプを3本揃え、得点順位も1本目と3本目が1位で、2本目は3位と強さを見せていた。

 しかし、2日目からは少しずれ始めた。

「W杯で優勝してからは迷いもなかったし、ここに入ってきて1日目の公式練習を終えたあとは、道具なども大体固まったと思えました。でも次の日の練習は前日とは違う気象状況になってしまい、『これだ』と決めた道具があまり自分に合わないのではないかという気持ちになってしまって。毎日いろんな方向から風が吹いてくるなかを飛んでいて、道具を絞り切れないまま試合に臨んでしまいました。今回のようなクロスゲームのなかでは、そういうものが最初から決まっていないとダメなんだなと思いました」

 横川コーチは、高梨の身体面での調整は万全だったという。体が動いて切れ味がよすぎるからこそ、踏み切りのタイミングが少し早くなっていたのではないかと言う。試合でいつもの感覚で動き出しても、体が速く動きすぎるためにタイミングが少し早くなっていたのだ。

「考えすぎたというのもあるかもしれないですが、毎回飛ぶごとに風の条件が違いすぎるので、『本当にいいところはどこなのか』と少し迷ったのかなと思います。特にここは標高800mほどの高地で気圧も平地より低いので、風が少し弱くなっただけでも感覚的にはなくなったように感じてしまう。彼女の場合は感覚が繊細で、それが優れた能力ですが、今回はそれが逆に出てしまった感じです。

 2本目も含めて失敗しても、あそこまで飛べる選手なので、今回は気持ちが空回りしたのと、風の運のなさが結果として表れてしまいました」(横川)

【混合団体で再び自信を】

 ただ、小林陵侑などとチームを組む7日の混合団体は面白いのではないか、と横川コーチは期待する。「どちらにしても、試合では高梨選手が大きなキーポイントになると思います」と言う。

 少し弱気な面も見せた高梨だが、最後には「とりあえず私が次にやるべきことは、混合団体でしっかり自分の仕事を果たすことだと思っているので、今回の反省を生かしてしっかり準備していきたいと思います」と前を向いた。

 今回優勝したボガタイは、高梨より1歳年上でW杯にも初シーズンから出場していた選手。なかなか結果を出せない時期が続いていたが、今季の夏からいきなり表彰台に割り込んできて、五輪金まで駆け上がったベテランでありながらも新顔だ。

 ここ数年の20歳前後の選手の急成長に加え、ベテランも浮上。そんななかでも高梨の戦うべき舞台はまだまだある。今後も戦い抜いていくための勇気と自信を7日の混合団体の2本で手にするはずだ。