「REJECT」の甲山翔也氏(左)と「ZETA DIVISION」の西原大輔氏eスポーツ対談 前編 日本のeスポーツ市場において、比較的若いチームでありながら注目を集めるのが「ZETA DIVISION」(ゼータ・ディビジョン)と「REJE…


「REJECT」の甲山翔也氏(左)と

「ZETA DIVISION」の西原大輔氏

eスポーツ対談 前編

 日本のeスポーツ市場において、比較的若いチームでありながら注目を集めるのが「ZETA DIVISION」(ゼータ・ディビジョン)と「REJECT」(リジェクト)だ。ZETAは2021年に、日清食品やモンスターエナジーなどと相次いでスポンサー契約を締結。REJECTも昨年3.6億円の資金調達を発表するなど、eスポーツ業界において大きな話題となった。

 どちらも業界の先頭を走るチームではあるが、ZETA代表の西原大輔氏とREJECT代表の甲山翔也氏は、お互いのことを「市場を開拓する仲間」と称す。年齢もキャリアもまったく異なるふたりは、なぜeスポーツチーム運営に至ったのか。彼らの歩みを追った。

――そもそも、おふたりがチーム運営を始めるに至った経緯は何でしたか。

西原 僕はもともとグラフィックデザインの仕事をしていて、趣味のひとつのゲーム、とくにeスポーツタイトルのプレーや観戦が昔から好きでした。それが高じてゲームコミュニティの案件を請ける会社を2017年に立ち上げたのですが、当初はプロチームを作るつもりはありませんでしたね。

 ただその翌年、会社の社員がメンバーとして関わっていたコミュニティチームが、PC向けのバトルロイヤルゲーム『PUBG: BATTLEGROUNDS』(※)の大会でプロも参加するなか優勝したんです。それがきっかけで、彼らをプロチーム化してチーム運営に携わるようになりました。会社としては、eスポーツの大会案件などの制作業務とチーム運営の両軸になったんです。

 ただ、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、2020年頭に経営方針を変えてチーム運営専門の会社となりました。
※100人が島に降り立ち、最後の1人・1チームになるまで戦うバトルロイヤル形式のPC向けガンシューティングゲーム。

甲山 自分は昔からコアなゲームプレーヤーで、大学1~2年生の頃に『PUBG: BATTLEGROUNDS』の選手として活動していました。当時はまだ大会への注目度も高くなく、賞金も1万円程度で......。そんな時期に、月10万円でプロチームに所属しないかと誘われたんです。タイトルの盛り上がりを考えると、破格のオファーですよね。

 公式リーグも開催されて、徐々に盛り上がりそうなタイミングだったので、気合を入れてチームに参加しました。メンバーもそろい、これから頑張ろうと思っていたら、唐突にチームオーナーが音信不通になりました。自分もチームメイトも面食らいましたね。

西原 あったね、その事件。eスポーツの黎明期だったから、アマとプロの境目が曖昧だったように思います。特に『PUBG: BATTLEGROUNDS』は盛り上がっていたから、いろんなチームが生まれる反面、トラブルも多かった。とはいえ、選手を残してオーナーが失踪するなんて聞いたことがありませんでした。

甲山 僕らも「まさか」と思って、なにか事情があるに違いないと考えていました。しかしいくら待っても連絡はこず、リーダーとして選手を集めてきた自分が責任を取る形でオーナーになる決意をしました。「給料は俺が代わりに出す」と他の選手を説得し、しばらくは選手兼オーナーとして活動を続けましたが、2018年12月に会社を登記して選手を引退。オーナー業に注力していくことにしました。

「REJECT」や以前のチーム名「All Rejection Gaming」には「拒否」という意味合いがあって、この頃の自分はまさにそんな心情でした。「大人たちは汚いのが当然だから周りを信頼しちゃいけない」「頼れるのは自分と仲間だけ」、そんな反骨精神を原動力にしていました。西原さんとの出会いもあって他のチームオーナーの熱意を知り、今では「一緒に市場を開拓する仲間」と意識が変わりましたね。

――どちらもさまざまな苦労を経て現在に至ったわけですが、現在のチーム運営はいかがでしょう?

西原 苦労はずっと続いています(笑)。でも、チームオーナーとしての仕事はかなりエキサイティングなんですよ。僕は今年46歳になるんですが、デザインのディレクション仕事でやりとりするプロデューサーなど周りもそれなりの年齢で、いわゆる同年代や少し下の世代の方々と会話することが多いんです。

 しかしeスポーツチームのオーナーになると、高校生や大学生くらいの若者とコミュニケーションすることが普通です。僕の年齢でこんな環境はほとんどないと思うので、若い子といろいろぶつかり合っている日々がすごく楽しいです。

甲山 自分は逆に年齢がネックになることがあります。3月で23歳になるのですが、この年齢でのマネジメント業はかなり難しいです。自分より年上の選手と契約することも珍しくなくて、西原さんのような「大人の包容力」「懐の深さ」がないことで悔しい思いをすることもあります。

 ただ僕の場合は選手と一緒に成長していく感覚が、他のチームのオーナーよりも強いと思います。僕も選手も経験が不足しているなかで、一緒に苦労しながら等身大で成長を感じられるのが楽しいですね。

西原 等身大って、甲山さんじゃないと味わえない楽しみ方かもしれないね。僕は保護者目線になりやすいし、それを求められている面もある。だから年長者として、特にモラルとコミュニケーションには気をつけていますね。

 未成年の子どもを預かる身だから、親御さんやファンに対しても誠実に対応するようにしていますし、逆にどれだけ気をつけても意思疎通の齟齬が起きて誤解されることもあります。そこが難しく大変でもあるけど、オーナーとしてのやり甲斐や面白さを感じる部分でもあります。

――ZETA DIVISIONもREJECTも、さまざまなタイトルの部門を抱えているチームです。多方面に展開しているからこその苦労などもあるのでは。

甲山 部門ごとの多様性は面白い部分ですね。eスポーツチームの場合、複数のタイトルでチームを抱えることが多くて、それぞれ選手の強さや特徴が異なります。ファン層が求めることも違っていて、それぞれのタイトルでオーナーとしての発言の仕方を変える必要があります。

西原 甲山さんの言うとおり、他の業界からすると考えられないような臨機応変さや変化を求められるので、経営的には大変です。ただ、eスポーツが持つ熱量や喜怒哀楽には、他のスポーツと同じレベルの熱狂があります。応援しているファンの熱さは半端じゃないです。このカルチャーをより根づかせていくのも、僕たちチーム運営者の仕事だと思っています。

甲山 応援といえば、オーナーをやっていてかなりつらいことがひとつありました。チームの部門が多いので、大会の日程が被ることが多く、すべての試合を生で観戦できない点です。これはオーナーとして悔しいし申し訳ないけど、対処のしようがないのがつらいですね。多分、西原さんも同じですよね。

西原 それは本当によくわかる。大会の日程が被る以外にも、オーナー業が忙しくて見られないこともあります。多くのeスポーツチームが抱えているジレンマだと思います。どうにかならないですかね、この問題(苦笑)。

――では、お互いに「ここは直したほうがいい」と思っている部分はどこですか。

西原 難しいですね......。そうだ甲山さん、最近Twitterの元気がなくなってきてない? 前はもっと尖っていて、いい意味で選手愛が強かったじゃないですか。今はだんだん大人になって、いろいろ言わなくなったのが寂しいな。尖ったところが甲山さんのいい所だから、もっと出してほしいですね。

甲山 あー(苦笑)。去年REJECTが多額の資金を調達させていただいたじゃないですか。でも投資家の方々からすると、自分は投資先のなかでもダントツで経験がないわけです。他は海外の一流大卒とか、天才が集まる企業とかが多くて......。だから投資家の方々からのプレッシャーもひときわ重く、最近はリスクを考えてしまいがちです。挑戦に対する身軽さがスタートアップの長所ですが、リスクのある挑戦をしづらくなってきたのが現在の悩みですね。

西原 あくまで僕の意見だけど、甲山さんはのびのびやったほうがいいところが出てくると思うよ。ちなみに僕の悪い所はどこかな?

甲山 西原さんの悪い所ですか? あんまり思いつかないですけど、あえて言うなら、堅そうなところですね。Twitterの運用があまりにも堅実で、面白味がないところは気になりますよ(笑)。

西原 ああ、そうかもね(笑)。よしわかった、2022年はお互いにTwitterを頑張ろう。甲山さんは前みたいな破天荒さを、僕はもう少し柔らかい感じを出すようにしていこう。

【Profile】
西原大輔(にしはら・だいすけ)
eスポーツチーム「ZETA DIVISION」のオーナー。GANYMEDE株式会社代表取締役。20代よりグラフィックデザイナー、アートディレクターとして広告制作や音楽アーティストのアートワークなどのデザイン業でキャリアを重ね、現在はeスポーツチーム運営に携わる。

甲山翔也(こうやま・しょうや)
株式会社REJECT代表取締役社長。1999年生まれ、大阪府出身。10代前半よりFPSのプレーヤーとして活躍し、プロゲーミングチームのメンバーに勧誘されるもオーナーが失踪。そこで大学在学中の19歳で自ら会社を立ち上げ、選手からオーナーに転身した。