明治大卓球部が誇るダブルス宇田幸矢・戸上隼輔インタビュー 前編『明治がやらねば誰がやる』『卓球界の王者たれ』 これは明治大学卓球部が掲げるスローガンであり、2021年3月まで、約60年間にわたって同大の監督、総監督を務めた児玉圭司さんの言葉…

明治大卓球部が誇るダブルス
宇田幸矢・戸上隼輔インタビュー 前編

『明治がやらねば誰がやる』『卓球界の王者たれ』

 これは明治大学卓球部が掲げるスローガンであり、2021年3月まで、約60年間にわたって同大の監督、総監督を務めた児玉圭司さんの言葉でもある。常に上を目指す姿勢と、卓球に対する情熱は脈々と受け継がれ、明治大は学生卓球界だけでなく日本の卓球界をも牽引する存在へと成長した。

 1931年の創部以来、Tリーグ創設者の松下浩二(卓球メーカーVICTAS社長)、長らく日本の男子卓球界を牽引してきた水谷隼、"天才レフティー"丹羽孝希など、多くの日本代表選手を輩出。ふたりが出場した東京五輪で、代表監督を務めた倉嶋洋介(現・木下グループ卓球部総監督)も同大学出身だ。同氏はコーチ期間を含めると約13年間、男子ナショナルチーム(NT)を国際大会で幾度も表彰台に導いてきた。

 こうして日本卓球の歴史を担ってきた明治大の強さの理由はどこにあるのか。ともに現役明治大2年生で、昨年11月開催の世界選手権(アメリカ・ヒューストン)の男子ダブルスで銅メダルを獲得した、宇田幸矢と戸上隼輔に話を聞いた。


昨年11月の世界選手権で銅メダルを獲得した

「明治大ダブルス」の宇田(左)と戸上

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――明治大からは日本代表やTリーガーが多数輩出されていますが、「強い選手」を生み出し続けることができる理由はどこにあると思いますか?

宇田 練習環境がいいことは理由のひとつだと思います。練習場やトレーニングルームといった施設が充実しているのと、僕や戸上のように海外遠征が多い選手の"文武両道"もサポートしてくれます。スケジュールによっては難しいこともありますが、先生方や監督が連携してうまく授業などを調整してくれるので、すごく助かっていますね。選手がやりやすい環境が整っているからこそ強い選手が集まり、卒業後も活躍できるんでしょう。

 僕は入学前、同じ東京出身で明治大OBの森薗政崇さんから、そういった環境に関する話を聞いていました。さらに、水谷さんや丹羽さんといった強い方々が昔からたくさんいたこと、高校時代に僕のコーチをしてくれた父の後押しも、同大学への進学を決めた要因です(宇田の父・直充氏は、日本卓球協会の強化スタッフとして主に息子の宇田を担当)。

戸上 僕は高校卒業後、プロなど進路に関していくつか選択肢があったのですが、「強くなるためには整った環境が必須だ」と考えました。水谷さんたちのように世界で活躍されている偉大な先輩たちと肩を並べ、いずれは超えたいという気持ちもあって、明治大に進むことを決めたんです。実際に卓球部は層が厚く、卓球に熱心な人がたくさんいたので、「ここなら強くなれる」と実感しました。

【練習環境とスケジュール】


オンラインでインタビューに答えた宇田(上)と戸上(下)

――どういった練習メニューをこなしているのですか?

宇田 練習メニューやスケジュールは日本代表とほぼ同じで、「限られた時間のなかで自分の課題とどう向き合っていくか」を中心に考えながら練習します。日本代表では「これをやりなさい」という決まったメニューはないんですが、明治大も同じように、一人ひとりが自分の卓球を見つめ直して課題に取り組んでいる。だからチーム全体の意識が高いですし、大学チームのなかでもトップクラスの環境で練習できているんじゃないかと思います。

戸上 一週間のスケジュールは、平日は大学の授業を終えてからの練習があり、土日は「1日練習」をこなします。土曜はずっと卓球の練習をして、日曜は午前に練習、午後にウエイトトレーニングをして月曜がオフです。この3日間はすごく大事なので、どう過ごすかをしっかり考えています。

宇田 僕も同様で、基本的に1週間で予定を立てますね。休みの前日を含め、週に2度はウエイトなど負荷が高いトレーニングをするようにしています。ウエイトのメニューは日本代表で作られたものを、大学でも継続してやっています。

――高山幸信監督は、自主性を重んじる指導方針なんですね。

宇田 そうですね。「自分たちで考えて」と、信用して任せてくれているのを感じます。特に僕と戸上は、大学入学前から日本代表の合宿に参加していて、そこでの練習方法や考え方が身についているので、NTに近い形で見てくれるのがありがたいです。

 もちろん卓球部の規定練習にも出ますが、自主練やウエイトの量が他の選手より多いので、疲れを残して故障に繋がることは避けなくてはいけません。体と相談しながら、自分たちの判断でスケジュールを立てさせてもらっています。

戸上 監督はすごく選手思いで、常に僕らの体を気遣ってくれますし、多球練習も出してくれます。いつも身近で見てくれているというか、選手に寄り添ってコミュニケーションを取ってくれる方です。

【大学生でTリーグに参戦】

――監督からコミュニケーションを取ることが多いんですか?

戸上 はい。練習中にも「こうしたほうがいいんじゃない?」と声をかけてくれますね。

宇田 国際大会終わりなどには、「ここの場面は何でこうしたのか」といった、意見やアドバイスをしてくれます。考えを押しつけてくるわけではありません。僕たちの考えとのギャップをすり合わせながら、「お互いの意見をどう取り入れていくか」を意識しながら話してくれるんです。明治大卓球部には現在20人以上が在籍していますが、選手個々のプレースタイルに合わせた考え方を持っているのがすごいですね。

――ふたりは大学と日本代表以外に、Tリーグの琉球アスティーダでも活躍されています。どういう流れでTリーグに参戦したんですか?

宇田 僕はもともと木下グループで、2019ー2020シーズンは木下マイスター東京でプレーしました。昨シーズンまで同チームの監督を務めていた邱建新(キュウ・ケンシン)さんが、高校生の頃に日本代表のコーチもしていたので、コミュニケーションを取る機会が多かったんです。

 初年度の2018ー2019シーズンから参戦の話はあったものの、その前にドイツのチームと契約したので叶わず。それでも、2年目の開催前に声をかけてもらえたのはうれしかったですね。木下はファーストシーズンの王者で、水谷さんや張本(智和)もいたのですごくいい刺激をもらえました。

戸上 僕はファーストシーズンから参戦できました。最初に所属したT.T彩たまの坂本竜介監督から声をかけていただいたのがきっかけです。当時は高校生だったんですが、通っていた野田学園(山口県)の橋津文彦先生も「せっかくの機会だし、ファーストシーズンから参加できることは非常にありがたい経験だ」と言ってくれて。僕自身も「このチャンスを逃さずに参加したい」と思い、参戦を決意しました。

――学生リーグや代表の国際大会以外に、Tリーグでもプレーができることをどう捉えていますか?

戸上 すごく大きいです。特に2020年は、コロナ禍の影響で国内外の大会がほとんど中止になるなかで、Tリーグは感染拡大の防止策を十分にした上で開催してくれました。そこで僕が結果を残すことは、他の明治大のメンバーのいい刺激になるんじゃないかと思いながらプレーしていました。

宇田 戸上が言うように、試合ができることは本当にありがたかったです。Tリーグにはレベルが高い選手が集まっていますし、そこでの試合の経験値は貴重なものになりました。

――Tリーグや日本代表でプレーする選手が多いと、普段の練習で明治大メンバーが全員集まる機会も少なくなると思います。そんななかで、どのようにチーム力を高めているのですか?

戸上 確かに、近年は大会数が増えてきて、僕も明治大で練習する回数が減っていますね。その分、練習に参加できる時には、チームにいい影響を与えられるような存在感を出していくというか、緊張感を生み出すことを意識しています。実際にやるとなると難しいんですけど、僕らは「プレーでチームを引っ張る」という目標を掲げているので、練習でのプレーする姿で張り詰めた空気を作れたらと思っています。

宇田 昨年の9月から12月ぐらいまでは海外遠征が多くハードなスケジュールでしたが、明治大のメンバーはそれを理解してくれている。そこがチーム力というか、団結力の高さを感じる部分です。僕たちが参加できる時は、戸上も話したように練習の質、意識の高さを示してチームを引っ張ることを意識しています。

 明治大のメンバーはみんな意識が高くて"卓球好き"な選手ばかりですから、逆に僕たちが引っ張られることも多いです。よきチームメイトであり、ライバルであるという関係性が、チームとしての強さにつながっているんだと思います。

(後編:水谷隼の「なかなかマネできない」筋力の調整力に驚き>>)