明治大卓球部が誇るダブルス宇田幸矢・戸上隼輔インタビュー 後編(前編:明治大卓球部の強さの秘密>>) 昨夏の東京五輪の混合ダブルスで、水谷隼は日本史上初の金メダルを獲得。丹羽孝希、張本智和とともに戦った男子団体では、2大会連続の表彰台となる…

明治大卓球部が誇るダブルス
宇田幸矢・戸上隼輔インタビュー 後編

(前編:明治大卓球部の強さの秘密>>)

 昨夏の東京五輪の混合ダブルスで、水谷隼は日本史上初の金メダルを獲得。丹羽孝希、張本智和とともに戦った男子団体では、2大会連続の表彰台となる銅メダルを手にした。日本男子代表のリザーブとして参加した宇田幸矢と、スパーリングパートナーとして帯同した戸上隼輔は、そんなメダリストたちの活躍を観客席から見ながらパリ五輪への思いを強くした。

 ふたりは明治大2年の同級生で、小さい頃から切磋琢磨しながら世代を牽引してきた。高校時代の2020年には宇田が全日本の男子シングルスでを優勝し、戸上が3位に。ダブルスの相性もよく、昨年9月開催のアジア選手権(カタール・ドーハ)で日本勢45年ぶりの優勝。同年11月の世界選手権(アメリカ・ヒューストン)でも、同種目で銅メダルを獲得するなど結果を残し続けている。

 そんな"明治大ダブルス"に、東京五輪があった昨シーズンを振り返ってもらいながら、お互いのことや、明治大の大先輩である水谷からもらった言葉、パリ五輪への思いなども聞いた。



アジア選手権の男子ダブルスで優勝し、記念撮影する明治大の戸上(左)と宇田

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――昨年は国際大会での活躍が目立ちましたが、この1年はどのような課題を改善しながら好調につなげていったのでしょうか。

宇田 シングルスにおいては、バックハンドの安定感や、もう少し相手を崩せるような戦術を組めるように練習してきました。ただ、腰を痛めてしまってからフォアハンドが不安定な時期が何カ月も続き、すごく自信をなくしたこともあるんですが......。そのなかで、少しでもいい状態で試合に臨めるように修正していく1年でした。

戸上 僕は試合後に毎回、課題として台上技術(短いボールを処理する技術)を挙げられていました。特に負けた試合ではその技術が相手より劣っていたので、そこを重点的に改善していきました。

――そんななかでも、アジア選手権で優勝、世界選手権で銅メダルとダブルスで結果を残しましたね。

宇田 戸上とは高校時代からペアを組んでいますけど、この1年で、よりお互いのことを知れたことが成長につながったように思います。ダブルスはコンビネーションが大事ですが、今までは「自分で得点を取りにいくんだ」という感じで、それぞれが無理して決めようとしていたんです。どちらも攻撃的なスタイルですし、いいボールを打てば得点できる可能性が高いので、「自分がっ!自分がっ!」という気持ちがお互いに強かったですね。

 そこに気づいてから、僕は戸上に決めてもらえるようにアシストしたり、うまくバランスを取れるようになりました。ふたりで展開を読んで、いい判断ができるようになったことが安定感につながっている一番の要因だと思います。

戸上 僕としても、より宇田のプレースタイルを知れました。以前は"個"のプレーが多く、ダブルスなのにどこか噛み合わなくて、勝てるはずの相手にも勝てない時期が続いていた。でも最近は、お互いに先を読んだプレーができているので、連携している感じがすごく出てきました。僕らは"点数を取れるペア"なので、「ラリーに持ち込んだら絶対に負けない」という自信があります。振り返ると、「ラリーまでどう持っていくか」をずっと話し合っていた1年でした。

【コロナ禍で芽生えた"自覚"】

――ペアで一緒に過ごす時間が長いと、どこかギクシャクしたり、感情を相手にぶつけてしまったり、ということは起きないのでしょうか。

宇田 それはないですね。相手に寄り添う、受け入れることだけ考えているので、戸上がミスしても「なんで」と思うことはありません。ミスも割り切って、作戦を立てるのが僕らのスタイル。もちろんそれぞれの考えはありますが、意見がぶつかることはないですね。

――戸上選手、それで間違いないですか?

戸上 ......間違いないですね(笑)。

宇田 何かあるんですか(笑)?

戸上 いやいや、宇田が言った通りです。ぶつかり合いではなく、相手の意見を尊重しながら話し合っています。本当にパートナーとして信頼しているので、揉めたり、怒ったりしたことも、されたこともありませんよ。

――よかったです(笑)。ちなみに、ダブルスでの飛躍のきっかけとなった試合を挙げるとしたら?

宇田 アジア選手権の前に開催された、WTTスターコンテンダードーハ大会の男子ダブルス準決勝で、安宰賢(アン・ジェヒョン)/趙勝敏(チョ・スンミン)の韓国ペアに負けたんですけど、これが昨シーズンでもっとも学びが多い試合でしたね。先ほどお話ししたように、お互いにシングルスのように個の力で戦ってしまっていたのが、「しっかりダブルスをしないといけないんだな」と気づかされました。

戸上 WTTの大会やアジア選手権に出場していた頃は、僕らのなかに"自覚"が芽生えた時期でもありました。コロナ禍の影響で大会が中止になり、結果を出したくても出せず、2024年のパリ五輪を見据えた時にものすごく危機感があったんです。だから1試合、ひとつの大会を大事にして、少ないチャンスで結果を出さないといけない。そういう自覚が出てきたんです。

【驚いた水谷の"調整力"】

――パリ五輪への思いも口にされていましたが、ふたりとも東京五輪のチームに帯同し、大舞台で戦う代表選手の姿を見てどのような気持ちになりましたか?

戸上 僕たちは東京五輪の事前合宿から帯同させてもらって、観客席に座って試合を見られる機会をいただけたことには感謝しかありません。大会中は、選手から感じられる緊張やプレッシャーが想像以上のもので驚きましたし、そのなかでも勝利につながるプレーができる3人は本当にすごいと思いました。

 水谷選手と丹羽選手は明治大学の尊敬する先輩ですけど、試合中はさらに背中が大きく見えましたね。それを近くで見て、「次の五輪は自分が必ず出場して、日本卓球界に貢献したい」という気持ちが強くなりました。

宇田 僕は、東京五輪の試合は「3年後は自分がそこに立つ」つもりですべて見ていました。戸上も言ったように、今までで一番緊張感がある大会でしたし、五輪だからこその難しさ、1点の重みをすごく感じました。合宿からチームに帯同するなかで、「そこに調子のピークを持っていくのか」という驚きがありましたね。その高い"調整力"は、近くで見ていて本当に勉強になりました。

――その"調整力"の高さは、具体的にどういう部分を見て感じたのですか?

宇田 水谷さんたちを見て感じたのは、細かい技術や、ダブルスで使う連携プレーの調整です。しっかりと試合を想定した練習をして、それらが最大限に高まった状態で本番を迎えていたので、本当にすごいと思いました。

戸上 僕が感じたのは、筋力の"調整力"です。合宿当初は技術面もそうですが、体もあまり仕上がっていません。フットワークなどの動きの感覚や、試合勘もほぼ失っている状態なんです。でも、特に水谷選手を見ていると、日を追うごとに肉体の状態が右肩上がりになっていって、合宿の初日と比べて筋肉量が目に見えて違うんですよ。試合勘も鋭くなって、五輪の舞台で相手を圧倒する余裕がある状態まで持っていっていた。「これは、なかなかマネできないな」と感じました。

【「次はお前たちだ」】

――長年、世界と戦い続けた経験値がある水谷選手だからこそですね。帯同中は何か話しましたか?

宇田 水谷さんはずっと、「五輪には別格の緊張感がある」と言っていました。自分たちだけじゃなく、相手もすごく気合いが入っているから、誰と戦ってもなかなか勝てない。普段どんなに実力差があったとしても、その差を埋めるぐらいの緊張感が五輪にはあるからすごく難しいと。

戸上 印象深かったのは、混合ダブルスの表彰式が終わった後に、水谷選手から「次はお前たちだ」と言われた時です。宇田も一緒にいたんですけど、それがめちゃくちゃ嬉しくて。僕たちに期待してくれている気持ちが伝わってきました。

――これから、その期待に応えていきたいですね。全日本選手権(1月24〜30日)も始まりますが、最後に今年の意気込みをお聞かせください。

宇田 パリ五輪の代表選考レースが始まるので、今年は勝ちにこだわっていきたいです。まずは目の前の全日本選手権で、3種目(男子シングルス、男子ダブルス、混合ダブルス)に出場します。全種目で優勝できる可能性はあると思っているので、しっかり調整してチャンスをモノにしたいです。

戸上 全日本選手権での結果は、パリ五輪の代表選考レースに影響してきます。僕も優勝を目指して、2022年、幸先のいいスタートを切りたいですね。