12月21日、四大陸選手権フリーダンスの村元哉中・髙橋大輔組【髙橋大輔の 「ふたつの性格」】 髙橋大輔(35歳、関西大学KFSC)は、引っ張り合うふたつの性格を等しく持っている。「僕でいいんですか?」 アイスダンスのカップルを結成…


12月21日、四大陸選手権フリーダンスの村元哉中・髙橋大輔組

【髙橋大輔の

 

「ふたつの性格」】

 髙橋大輔(35歳、関西大学KFSC)は、引っ張り合うふたつの性格を等しく持っている。

「僕でいいんですか?」

 アイスダンスのカップルを結成する時、村元哉中(28歳、関西大学KFSC)に対して抱いた気持ちだという。キャリアや実力を考えれば、謙遜を越えて自己評価が低い。自信満々ではない性分は、少年時代から同じだ。

 一方で髙橋はカップル結成を発表した日、こう言いきった。

「シングルでは現実的に(五輪の)メダルはないと思いましたけど、可能性では(アイスダンスは)少しのパーセントでもあるんじゃないか。課題だらけですが、大きな目標を目指してやっていきたい。そうやって一丸になったほうが、いいものを作れるはず」

 "作品"への志は高く、限界に挑む野心もみなぎっていた。あからさまなエゴや虚栄心ではない。さらなる可能性を求める向上心や好奇心と言うべきか。

 相反するふたつの性格は、彼を突き動かす両輪なのかもしれない。

 スケートが好きだからこそ、謙虚に練習で追い込める。その高いレベルにおいて、自分にもの足りなさを感じる。リンクでは「もっと」と貪欲で、その先にある風景を見たいと欲求を覚える。それは順位につながるが、順位だけを求めているのではない。無心にスケートを追求できる。

 一流の表現者、競技者だけのサイクルだ。

 アイスダンス転向2年目にして、髙橋は村元とISU(国際スケート連盟)シーズンベストスコアで日本選手最高点をたたき出し、シーズンランキングでも日本選手トップに立った。にもかかわらず、北京五輪出場を逃し、打ちひしがれる思いだったろう。しかし、五輪出場枠を巡る戦いを引きずらず、むしろ「次の世界選手権で日本の出場枠2枠を勝ち取る」と切り替えた。世界選手権10位以内(翌年大会で出場2枠が与えられる)は、日本選手では未踏だが(村元とクリス・リード組の11位が過去最高)、そこは先駆者の果敢さだ。

 発想の次元が違う。四大陸選手権でアイスダンス日本勢歴代最高となる銀メダルは、あるいは必然だったのかもしれない。

【異例づくしの活躍】

 2022年1月、エストニア・タリン。四大陸選手権のアイスダンスで、"かなだい"と呼ばれる村元・髙橋組は、リズムダンスから72.43点を記録し、凛然と2位につけている。

 冒頭、タイミングがずれて村元が転倒するアクシデントはあったものの、その減点以外、『ソーラン節&琴』の世界観を存分に見せた。ミッドナイトブルースは日本選手歴代最高得点を出したワルシャワ杯をしのぐレベル4だった。ふたりのステップの広がりが、雄大な波のうねりと漁師の心意気を氷上に再現していた。ローテーショナルリフトもレベル4で、ツイズル、ミッドラインステップと観客を引き込んだ。

「一つひとつ丁寧に、を心掛けました」

 演技後、ふたりは同じ言葉で振り返ったが、昨年12月の全日本選手権での交錯からの転倒という悪夢を振り払っていた。カップルとして初のチャンピオンシップで、これだけ臆することのない演技ができる。それは大志を抱く者だけに許されるものだろう。

「何年経っても、覚えてもらえるダンサーになりたいです」

 村元はカップル結成の時、そう決意表明をしていた。

「アイスダンスをやりたい、と思ってもらえるカップルになりたいですね。今までは、(シングルから転向すると)『アイスダンスに逃げた』と見られるところがあったので。(自分たちの活躍で)ダンスに興味があって迷っている人がいたら、『そうじゃないよ』って伝えたいです。日本でもっとダンスが盛んになるように」

 スポーツ界で、「かなだい」はすでに大きなトピックになっている。アイスダンスの人気は確実に向上。村元は「超進化」と表現したが、本人たちが思っている以上の化学反応が起きているのだ。

 フリーダンスも、かなだいは『ラ・バヤデール』で独自の世界を演出した。冒頭のコンビネーションスピンは、ふたりの色が溶け合う。ストレートラインリフトも華やかでレベル4を獲得し、リフトはほかふたつもレベル4だった。髙橋の肉体改造だけでなく、村元の熟練と度胸のなせる業か。緻密さとダイナミックさという矛盾をはらむ要素が同時に要求される競技に、ふたりは明朗に挑んでいた。スコアは109.48点で2位。トータルでも181.91点と、見事に銀メダルを獲得した。

 結成2年目、転向2年目の選手が初のチャンピオンシップで、ISUシーズン世界ランキングで暫定ながら10位まで順位を上げ、日本勢史上最高位で表彰台に立つーー。異例づくしだ。

「昨シーズンから考えると、表彰台は想像もつかなかったです。シルバーメダリストになったうれしさの半面、悔しさもすごくあって。そんな自分にびっくりしています」

 大会後、髙橋は戸惑いを口にしたが、その両面に本質があるかもしれない。

「やっぱりゴールドメダル、表彰台の真ん中に立つのを、ふたりでやってみたいというのは芽生えてきています。その先にもいろいろな景色が見られるんじゃないかなって。表彰台に上がると、そうした欲も感じています。(来季以降)どうなるかわからないですが、その先も楽しみなのかなとちょっと思っています」

 髙橋はこれからも自身のなかにあるふたつの性格を力に変換し、スケーターの道を行くのだろう。言うまでもないが、今はひとりではない。村元とふたり、その世界は広がり続ける。

「(髙橋)大ちゃんと2位になれて、すごくうれしいです。その反面、まだまだ自分たちはできるっていう悔しい気持ちがあって」

 村元は言う。ふたりの息はぴったりだ。

 次は3月の世界選手権、かなだいが再び歴史を作る。