「なおみ以上に、ベースラインからボールをクリーンに打てる人なんているかな?」 そんな1本のツイートがテニス界隈をにぎわせたのは、大坂なおみの全豪オープン2回戦中のことである。"つぶやき"の主はアンディ・マリー(イギリス)…

「なおみ以上に、ベースラインからボールをクリーンに打てる人なんているかな?」

 そんな1本のツイートがテニス界隈をにぎわせたのは、大坂なおみの全豪オープン2回戦中のことである。

"つぶやき"の主はアンディ・マリー(イギリス)。ボールをクリーンに打つことにかけては天才的とも評される、言わずとしれた元世界1位にして今なお大手術を乗り越え戦う不屈のチャンピオンだ。



クセ者を倒して2回戦を突破した大坂なおみ

 2回戦でマディソン・ブレングル(アメリカ)と戦う大坂は、マリーをも驚嘆させるほどの完璧に近いプレーを第1セットで披露した。

 奪ったウイナーは13本。相手に1ゲームも与えることのない、わずか20分の出来事である。

 ただ、6−0で取ったあとが難しいというのは、多くの選手が口を揃える真理だ。相手は当然、何かしら変えてくる。とりわけブレングルは、そのような状況を得意とするタイプだ。

 現在WTAランキング54位につける31歳のベテランは、ツアーのなかでもやや異質な選手である。

 特筆すべき武器はなく、かといって、トリッキーなタイプでもない。事実、今大会初戦のスタッツを見ても、ウイナーは1本で最速サーブは時速142キロ。それでも彼女はフルセットの試合を制し、もっと言えばそのテニスで8年以上、トップ100に定着しているのだ。

 粘り強く、分析力と順応力に優れ、試合のなかで作戦を立案する能力に長ける----。それが多くの選手も警戒する、ブレングルの強さだ。

 そんな自身の武器を、ブレングルは大坂戦の第2セットでも着実に発揮する。

 もちろん大坂も、相手の変化には気づいていた。

「彼女は急激に、わたしのプレーに順応し始めた。ショットのスピードを上げてきたし、それに私がどこに打つか......特にネットに出た時にコースが読まれていると感じた」

 打つコースが読まれているという焦りは、判断ミスや打ち損じにつながっただろう。サービスゲームでも常に劣勢に追い込まれていた大坂は、第7ゲームでついにブレークを許す。最後のポイントは、スマッシュのミスだった。

【16歳で初対戦した時は完敗】

 ブレークを許した時の心境を、のちに大坂は「落ち着きを失いかけていた」と認める。ただ、彼女は不安をすぐに振り払い、続くリターンゲームでブレークバックに成功した。

 素早い気持ちの切り替えを可能にしたのは、相手のプレースタイルへの知識。そして、戦前からの心構えだったという。

 ブレングルと大坂は年齢で7歳の開きがあるが、成長の過程で戦ってきたステージには重なりも多い。

 大坂が下部ツアーを回り始めた14〜15歳の頃、ブレングルは選手間で、すでに「どんなボールも返してくることで有名だった」という。実際に両者は2013年に対戦し、その時はブレングルがストレートで勝っている。大坂はその試合内容を「彼女と握手したこと以外、覚えていない」と言うが、それはつまりは「いい記憶ではないから」だと苦笑いした。

 いずれにしても大坂は、ミスを引き出すブレングルの強みを知り、だからこそ今回の対戦でも、「ミスをしてもイライラしてはいけない」と自分に言い聞かせたという。

 もうひとつ、大坂が心がけたのが、「ポイントをしっかり組み立てて、"テニスIQ"を使うこと」である。

 かつて大坂と言えば、ボールを粉砕するかのように全力で叩く、超パワーショットが代名詞だった。ただ、驚異のスピードショットは、驚くようなミスと表裏。もしかしたら、ブレングルと初対戦した16歳の頃の大坂は、博打的ショットに頼り、ミスを重ねたのかもしれない。

 そんな彼女も今や、あのマリーが絶賛するほどの「クリーンヒット」の名手になった。ブレングルとの試合でも、ムキになって強打に頼るのではなく、左右に打ち分けネットにも頻繁に出た。

 ブレークバックしたあとは、再び落ち着きと支配力を取り戻す。最後は8ポイント連取で、一気にフィニッシュラインを駆け抜けた。

 マリーから得た称賛と、クセ者相手に演じた勝利。それらはいずれも、大坂が積んできた経験値とプレー面の成長を物語る。

【3回戦の相手は2001年生まれ】

 まだ24歳とはいえ、大坂も下部ツアーを回り始めて10年が経った。会場の選手ラウンジにも、初めて見る若い顔が増えたという。

「2000年代生まれの子がたくさんいるんだから、ビビるわ!」

 そう言い彼女は、おどけるように笑みをこぼした。

 3回戦で大坂が当たるアマンダ・アニシモバ(アメリカ)も、そんな2001年生まれの選手である。

 15歳の頃から将来を嘱望されてきた新世代の旗手は、今季開幕戦の"メルボルン・サマーセット2"を制し、ツアー2勝目を得たばかり。新たな上昇気流を捉えた20歳は大坂との初対戦を控え、「ナオミとはずっと戦いたいと思っていた。ものすごく楽しみ」と目を輝かせた。

 一方の大坂も、フロリダを拠点とする若手の評判は以前から知っている。一時は重圧やケガで不調に陥った時もあったが、それらを乗り越えたアニシモバの活躍を「すばらしいと思う」と言った。

 ツアーに新顔が増えることを、大坂は「いいこと」と感じているという。新たな世代の台頭は、ツアーの勢力図を描き替え、それまでの常識や定石をも変えていく。それは自身を「ベテラン」と称する大坂にとって、「新しいことを学ぶ機会」でもあるからだ。

 とはいえ、若手との対戦は大坂のグランドスラムの戦いを振り返ると、実は鬼門でもある。

 昨夏の全米オープンでは、3回戦で当時18歳のレイラ・フェルナンデス(カナダ)に逆転負けを喫した。2年前の全豪オープンでは、やはり3回戦で当時15歳のココ・ガウフ(アメリカ)にストレートで敗れている。

 自身に敬意の目を向け、大物食いを狙う若い波をいかに止めるかは、連覇を狙ううえで避けて通れぬ課題だ。それら過去の教訓を生かし、アニシモバ戦では自分のテニスに徹しきれるか?

 全豪オープン3回戦は、大坂の成長を測るうえでも、かっこうの試金石になる。