スペイン・バルセロナで開催されている「バルセロナ・オープン・バンコサバデル」(ATP500/4月24~30日/賞金総額232万4905ユーロ/クレーコート)のシングルス2回戦で、杉田祐一(三菱電機)が第9シードのリシャール・ガスケ(フラ…

 スペイン・バルセロナで開催されている「バルセロナ・オープン・バンコサバデル」(ATP500/4月24~30日/賞金総額232万4905ユーロ/クレーコート)のシングルス2回戦で、杉田祐一(三菱電機)が第9シードのリシャール・ガスケ(フランス)を4-6 6-3 7-6(3)のフルセットの戦いの末に下し、3回戦に進出した。

 予選決勝で敗れたが、ラッキールーザーで本戦入りのチャンスをつかんだ杉田は、意図していた通りの攻撃的姿勢を貫き、2時間27分におよぶ死闘の末にテクニシャンのガスケを退けた。杉田は木曜日の3回戦で、やはりクレー巧者の第7シード、パブロ・カレーニョ・ブスタ(スペイン)と対戦する。

◇   ◇   ◇

 リスクをおかしてでもアグレッシブに打っていく。試合が終盤に差し掛かると、張り詰めた糸の上を渡るような杉田の危険で果敢な攻撃に魅せられ、コート1の観客たちから“スギタ・コール”が沸き上がった。

 病み上がりとはいえ、ガスケといえば錦織圭(日清食品)さえが昨年まで6対戦連続で破れていた相手。ここ数年は9位と25位の間を定宿としているガスケに対し、一歩も引かない“見知らぬスギタ”のプレーがバルセロナの観客の心をとらえたようなのだ。

 実際、スリルとサスペンスに満ちた試合だった。第3セット5-4からの自分のサービスで3マッチポイントを握りながら、杉田はそのチャンスをふいにしていた。第1セット4-4の、やはり40-0から挽回され、サービスをブレークされた一幕もあった。

 「勝ちきれて本当によかった。5-4から落としてしまって、流れが悪いという感じはあったが、最後まで思いきっていくしかないと思った。ああいう流れだったので、勝利を決めた瞬間の気持ちは、うれしいというより、ほっとしている、に近かった」と試合後、杉田は明かしている。

 ガスケに対し、「攻撃的にいきたい」と言っていた杉田は次々にやってくる苦境にも負けず、その姿勢を貫いた。実際、甘いボールがあれば逃さず叩いてくるガスケ相手に、守勢に回っていては太刀打ちできなかっただろう。

 「ガスケ選手のバックハンドは世界最高峰。バックのクロスラリーに関しては、正直、最初の数ゲームでこのままではまずいと感じ、どうやったらもっと僕がフォアを使っていけるかを考えた結果、散らしたりと、少しやり方を変えた。瞬時に戦術を変えて対応できたのは良かった点だと思う。バックで多少やられてしまうのは計算のうち。大事なところで、フォアでどうやって仕留めようかを考えて戦った」と杉田は振り返る。

 攻撃的姿勢と精神的粘り強さ---前日より相手のレベルが上がった分、攻撃をより徹底させた。

 「ちょっと途中打ちすぎかな、体力的に大丈夫か、という考えも頭をよぎったが、3セットなので飛ばしても大丈夫かと思い、攻められるときは思いきってガンガン前に入っていこうと努めた。それは昨日の試合から大きなひとつの課題だったから、その姿勢を最後まで貫いた」

 ただ強く打っても生半可なボールではガスケに切り替えされる。フォアの強打のコンビネーションで相手を振りつつウィナーを奪った杉田だが、そのショット以上に印象的だったのが、厳しい状況に追い込まれても折れなかった、気持ちの強さだった。

 第1セット4-4からの自らのサービスゲームで、杉田は目の覚めるようなフォアのウィナーとボレーで40-0とリードするが、そこからガスケがいぶし銀の粘りを見せ、好プレーを連発。杉田は逆にブレークを許し、第1セットを落としてしまう。

 その流れに乗って第2セットの第1ゲームでもブレークされた杉田だが、次のゲームではフォアの逆クロスに続き、前に出てスマッシュを叩き込む超攻撃的プレーによって、ブレークバックに成功。4-3からの第8ゲームでは、辛抱を持ちながらもしっかり打ち込んでいくプレーで長いラリーも制し、最後はフォアをダウン・ザ・ラインに決めてセットを取り返した。

 「離されてしまうと相手に余裕が出てきてしまうので、こういう競った展開にもっていくのが最善だったと思う」と杉田。「3セットの中で精神的アップダウンはもちろんあったが、その中でも大事なところでしっかりくっついていけたというのが勝因。第2セットでワンチャンスをものにし、自分のペースにもっていけた」。

 しかし、真の山場は第3セットにやってくる。

 しぶとくミスを誘おうとしてくるガスケと競り合いを続ける杉田は、第9ゲームで、「自分でもやや打ちすぎかと思った」と言うほど打ちまくり、フォアのダウン・ザ・ラインを決めてブレークに成功。5-4からの自分のサービスゲームで40-0と3マッチポイントを握った。ところが前述の通り、そこからサイドアウト、ダブルフォールト、粘られた末のミスが続き、試合を終える代わりにブレークを許してしまったのだ。

 通常なら精神的にがくっと落ちてもおかしくない場面。実際、5-5からのガスケのサービスゲームでは、「ああまずい」という気持ちになり少し考えてしまったと明かす。しかし次のエンドチェンジですぐに気持ちを切り替えたという杉田は、5-6からの自分のサービスゲームでも強気で打っていく姿勢を崩さず。フォアを厳しいコースに打ち込んで、今度はしっかり決めきり勝負をタイブレークにもち込んだ。

 3マッチポイントを逃しても精神的に折れず、苦しい場面で踏ん張り抜けた理由は何だったのか。

 「もちろん自分はチャレンジャーだ、という気持ちもあるし、相手が素晴らしい選手だというのはわかっていたので、もったいない試合はしたくないという気持ちに支えられた。あそこで頭を下げてしまっていたら、今日の試合でそこまでやってきたことすべてを台無しにしてしまうところだった。あそこでしっかり自分のペースにもってくることができ、本当によかったと思う」と杉田は言った。

 試合を通し、杉田の強打を、球種を混ぜた返球で巧みにいなしてミスを誘ってきたガスケだが、タイブレークでのガスケは杉田がたたみかけるように打っていく中、ややディフェンシブになりすぎていた。

 「自分で決めないと終われないコートなので、自らしっかり攻めていった。速いサーフェスと違い、クレーの場合はしっかり打ちきって勝たないといけない。それがたぶんクレーの醍醐味なのだと思う。その分、絶対打ちきって勝つぞ、という意気込みで最後までいくことができ、その効果がタイブレークで出た」と杉田は満足感を覗かせる。

 タイブレーク最初のポイントは、杉田のドロップショットのミスだったが、その後はほぼ杉田の独壇場だった。スライスで粘るガスケにフォアのダウン・ザ・ラインのウィナーを食らわせて4-2。次のポイントで、ネットコードに当たった杉田のショットがぽろりと相手コート側に落ちた好運は、この終焉のシンボルだった。フォアのウィナーで6-2としたあと、ガスケもフォアのダウン・ザ・ラインで一矢報いるが、杉田は、もはや相手に挽回を許すことはなかった。最後のショットはフォアのクロスのウィナーだった。

 「クレーでガスケ選手に勝ったというのは、本当に価値のあること。僕自身、今からクレーにトライするというときに、この経験は今後のクレーの試合に役立つはず。本当に素晴らしい経験をさせてもらった」と杉田は言う。

 ここで手にした自信を手に、杉田は木曜日の3回戦でさらに高いシードのクレー巧者、カレーニョ・ブスタに挑むことになる。

(テニスマガジン/ライター◎木村かや子)