北京オリンピック2022特集【近年の圧倒的な強さ】「絶対に前回のオリンピックよりも、体も技術も成長できていると思っています。だから、北京五輪でいい結果を残すために、気持ちの部分を直前のシーズンで整えたいですね」 2月4日から中国・北京で開幕…

北京オリンピック2022特集

【近年の圧倒的な強さ】

「絶対に前回のオリンピックよりも、体も技術も成長できていると思っています。だから、北京五輪でいい結果を残すために、気持ちの部分を直前のシーズンで整えたいですね」

 2月4日から中国・北京で開幕する冬季五輪。大舞台が控えるなか、スノーボード・ハーフパイプの金メダル候補として注目を集める戸塚優斗は、今シーズンを前にそう意気込みを語っている。



スノーボード・ハーフパイプの戸塚優斗

「オリンピックは重圧がすごいですけど、それを変に意識せずに、いつもの大会のように競技に臨めたらと思っています。いつも大会の時にスタートを待つ間は、好きなアーティストのライブ映像を見たり、みんなとワイワイ楽しく喋ったりしていて、『あれ? 次、俺の番? じゃあ、行ってくるわっ』みたいな感じなんですよ。そういう普段に近い気持ちでオリンピックに臨めるように、直前シーズンで気持ちを整えたいなって思っています」

 昨シーズン圧倒的な強さを誇った戸塚。北京五輪で「どれだけ"普段どおり"に競技に臨めるか」と強調する理由は、彼の歩みを知れば納得できるはずだ。

 コロナ禍の2021年3月に行なわれた『FIS世界選手権ハーフパイプ』で優勝。この勝利によって2020年3月の『BURTON US OPEN』、2021年1月の『LAAX OPEN』と『X GAMES』と、スノーボード最高峰の4大大会を4連勝で制覇した。

 向かうところ敵なしの20歳。それゆえ北京五輪でメダルの色をわけるものは、ライバルの出来ではなく、戸塚が"普段どおり"のパフォーマンスを見せられるかどうかにあるというわけだ。

「一番の目標は自分がやりたい技すべてを決めきることです。自分の思い描くルーティーン(技の構成)をすべて決めて、その結果が金メダルにつながればいいですね。それで金メダルに届かなかったら仕方ないので」

【16歳で平昌五輪に出場】

 もうひとつ、普段どおりを強調する理由は"経験"だ。銀メダルを獲得した平野歩夢と伝説的王者のショーン・ホワイトとの熱戦に日本中が沸いた、前回の2018年平昌五輪。戸塚も高校1年生だった16歳で出場した。

 予選10位で進んだ決勝は1本目で転倒。2本目はファーストヒットからフロントサイド・ダブルコーク1440(縦2回転・横4回転)を驚異的な高度で披露したものの、着地でリップ(パイプ側壁の最頂部)に乗り上げて体を強打。ボトム(底)に叩きつけられて担架で病院に搬送された。

「完全に経験不足だったし、雰囲気に飲まれました。空回りしたというか、テンションを抑えきれない感じで、『やっちゃえ!』的にいっちゃって......」

 戸塚が頭角を現したのは、平昌五輪前年の2017年3月。『第23回全日本スキー選手権スノーボード競技』のハーフパイプに初優勝。日本代表入りを果たした勢いは、平昌五輪を控えた直前のシーズンでさらに加速。キャリア初のW杯で優勝し、W杯種目別でも1位となった。ただ、その勢いだけでは通じなかったのが平昌五輪でもあった。

「いま振り返れば、オリンピックに対しての準備ができていない状態での出場でしたね。ただ、それだけにこの4年間で準備をしっかりできたし、成長もしたと思っています」

 その成長を強く印象づけたのが昨年1月に優勝した『X GAMES』。この大会の決勝最終ランで、戸塚はショーン・ホワイトや平野歩夢が平昌五輪で繰り出したのと同じルーティーンを披露。フロントサイド・ダブルコーク1440(らせん状に縦2回転+横4回転する技)からキャブ・ダブルコーク1440(最初のスタンスとは逆位置から縦2回転+横4回転)への大技を決め、同大会3連覇中だった平昌五輪銅メダリストのスコッティ・ジェームス(オーストラリア)を圧倒した。

「キャブフォーティー(連続して1440を決める技)をやりたかったんですが、あの時点ではまだ左からドロップイン(パイプに入ること)して、それを打てるルーティーンができてなくて。だから、右(バックサイド)から入ったらルーティーンが平昌五輪でショーンと歩夢くんがやったのと同じで。そんな気はなかったのに、めっちゃ宣戦布告だって言われちゃって(苦笑)」

【フィジカルを鍛えてさらに進化】

 あれから1年。戸塚はさらなる進化を遂げている。例年ならオフシーズンの夏場からは南半球で技を磨くところだが、コロナ禍でそれができなかったため、フィジカルを重点的に鍛えてきた。

「トリックを5発、6発やるなかで着地やジャンプの瞬間のインパクトで力を出すためにトレーニングをしてきました。あと、悪いクセがあるんですけど、飛ぶのが一度だけならいつでも直せるんですね。だけど、何度も飛んでいるとクセにまで気は回らなくて。だから、悪いクセが出ても、そこもカバーできるようにって感じですね」



今シーズンは、12月の大会で優勝を果たしている photo by Getty Images

 平昌五輪後のハーフパイプ界は、戸塚の台頭によって高難度化が加速している。戸塚自身は北京五輪でのルーティーンについては次のように考えている。

「X Gamesでやった右からのキャブフォーティーを左インから決めたいですね。でも、それ以外にもやりたい技がけっこうあるんですよ。ただ、ひとつひとつの技は単発なら決まるんですけど、それをつなげていくのが難しくて。イヤになるくらい回転しなきゃいけないから、意味がわからなくなるし(笑)。『次はどっちだっけ? 次はこっちか』って感じで(笑)。ルーティーンにどの技を入れるかは、五輪前のシーズンで調子を見て考えながら最終的なのを決めたいですね」

 五輪直前のシーズンは、2021年12月9日のW杯第1戦で幕明けした。戸塚は12月19日のアメリカ・コロラド州で行なわれた招待大会で、今季初優勝を果たしている。

 そして1月21日から23日までのアメリカでのX GAMESなどを経て北京五輪に突入する。オリンピック・ハーフパイプ4大会で金メダル3度獲得の35歳ショーン・ホワイトや、東京五輪スケートボードに出場して史上5人目となる夏冬での五輪出場を果たした平野歩夢も北京五輪に意欲を燃やしている。

 しかし、彼らが東京五輪を目指してハーフパイプから離れていた3年間で、競技レベルは格段に進化を遂げた。そして、それを強力に推し進めた戸塚が、超高難度トリックを連発で決めれば、表彰台の中央に立つことになるはずだ。

戸塚優斗
とつか・ゆうと/ヨネックス所属。2001年9月27日生まれ。神奈川県出身。169cm。光明学園相模原高から日本体育大に進み、現在2年生。母親の影響で2歳でスノーボードを初めて体験し、小学3年頃からハーフパイプを始める。趣味はスケートボードと、「乗るために目的地をつくっている」という大型バイク。この取材現場にも自慢の愛車で颯爽と現れた。