Sportiva注目アスリート「2022年の顔」第12回:鍵山優真(フィギュアスケート)(第11回:松島輝空(卓球)張本智和に続く「男子卓球界の怪物」>>)スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せ…

Sportiva注目アスリート「2022年の顔」
第12回:鍵山優真(フィギュアスケート)

(第11回:松島輝空(卓球)張本智和に続く「男子卓球界の怪物」>>)

スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せてくれるのか。「2022年の顔」と題して紹介する。

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昨年12月の全日本選手権の鍵山優真。3位で五輪出場の切符を手にした

【親子2代で五輪出場へ】

 昨年12月26日、全日本フィギュアスケート選手権の男子フリー。演技を終えた鍵山優真(オリエンタルバイオ/星槎)はリンクから上がって父・正和氏にねぎらわれると、涙をこぼした。そしてキス・アンド・クライで自分の得点を知ると、冷静な表情で何度もうなずいた。

 あとに宇野昌磨と羽生結弦の演技を残していたが、その時点でトップに立って3位以内が確定。グランプリ(GP)シリーズ2勝でGPファイナルへトップ進出した実績も考えれば、1992年アルベールビルと1994年リレハンメルに出場した父に続き、北京五輪出場はほぼ確実になった。

 GPファイナルがコロナ禍で中止も、練習時間が増えたとポジティブに捉えた鍵山。だが、全日本SPは納得できる演技ではなかった。

 前のグループで羽生と宇野が、それぞれ111.31点と101.88点を出したあとの演技だった。慎重に滑り出した鍵山は、最初の4回転サルコウ+3回転トーループはきれいに決めたが、次の4回転トーループは尻もちをついて転倒。そのあとのトリプルアクセルやスピンとステップはレベル4と隙のない滑りを見せたが、得点は95.15点。4位の山本草太に1.36点差まで迫られる3位発進だった。

 それでも表情は落ち着いていた。鍵山はSP演技後、「4回転トーループでコケたのは悔しいけど、同じ失敗でもパンクではなく、体を思いきり締めてやりきったうえでの転倒なので。他の部分はしっかり練習どおりにまとめられたし、失敗の原因も父と話して突き止められたので、明後日のフリーには生きると思います」と笑顔で話していた。

 フリーではまた違う緊張感があった。この大会ではSP下位から順番に演技する。2人前に滑った、今季の全日本ジュニア優勝の三浦佳生はサルコウとトーループ2本の4回転ジャンプをしっかり決め、合計276.16点にしていたからだ。

 それでも鍵山にはGPシリーズを戦い抜いてきた自信はあった。スピードに乗った滑り出しから、4回転サルコウと3回転ルッツ、4回転トーループ+3回転トーループをきれいに決めた。SPでミスをした4回転トーループはむしろ、他のジャンプより余裕があった。そのあとのトリプルアクセルからの3連続ジャンプは、最後の3回転サルコウが2回転になって基礎点を下げたが、GOE(出来ばえ点)の減点はなし。後半の4回転トーループと3回転フリップ+3回転ループは安定感のあるジャンプ。最後のトリプルアクセルはステップアウトになるも結果的には、フリーは宇野を上回る2位の197.26点を出し、合計を292.41点にして総合3位になった。

「自分も(代表)候補のひとりとして周りの期待もあったので、五輪選考会という舞台にすごく緊張しました。だから終わった時はホッとして......。父にも『とにかく全力で滑りきったな』と言われて、すごく涙が出ちゃって。よかったなという思いでした」

 鍵山は演技後の涙の理由をこう説明した。

【「五輪は無理なんじゃないか」】

 シニアデビューした昨季に世界選手権2位まで駆け上がったことで、今季はプレッシャーもあった。挑戦することで重圧を跳ね返そうとして、フリーでの4回転ループの導入にもトライ。だが、なかなかうまくいかず9月末の関東選手権は261.90点で、10月のアジアントロフィーは277.78点。そのためGPシリーズは4回転ループを中断し、4回転は昨季と同じサルコウとトーループ2本の構成にしていた。しかし、GP1戦目のイタリア杯はSPでミスを重ねて80.53点の7位発進と落ち込んだ。

「五輪に出られる可能性があるひとりとして練習してきましたが、試合では苦しい演技がすごく続いて、今季は全部うまくいかないんじゃないかと思うくらいにネガティブになったし、自分には今回の五輪は無理なんじゃないかとすごく不安な気持ちになりました。だから全日本前は五輪のことをあまり考えないようにして、とりあえず全力を尽くせれば、選ばれても選ばれなくてもいいんじゃないかと考えるようにしました」

 そう気持ちを切り替えられるようになったきっかけは、イタリア杯のフリーだった。SPのショックな気持ちを引きずり、フリー当日朝の公式練習でも落ち込んでいた。だが、練習のあとに正和氏から「去年の成績や立場は関係ない。今できることを思いきりやるだけだ」と言われたことで前を向いた。

 新たな気持ちで臨んだそのフリーは、4回転サルコウや後半の4回転トーループの加点こそ伸びなかったが、ノーミスの演技で昨季の世界選手権で出した自己最高を6.68点上回る197.49点。合計を278.02点にして逆転優勝を果たしたのだ。

 続くフランス杯では、SPで世界選手権以来の100点台に乗せる100.64点で、合計をシーズンベストの286.41点にして優勝。心の揺れは徐々に収まってきていた。

「全日本ではあきらめない姿をみんなに見せるのが目標だったので、それがかなってよかったなと思いながらガッツポーズをしました」

 そう笑顔で話した鍵山。周囲や自分自身への期待から大きくなりすぎていたプレッシャーを、跳ね返すことができた充足感を得ていた。

【追いかける羽生、宇野の背中】

 今回の全日本フリーでは、公式練習や6分間練習を羽生や宇野と一緒にしたこともいい経験になったという。鍵山は「あと何回一緒に試合ができるかわからないなかで、本当に貴重な1回1回を過ごせた。羽生選手の4回転アクセルに挑戦する姿や気迫を間近で感じられたし、宇野選手の4回転5本構成に挑戦している姿を目の前で見ることができていろんな勉強になりました。自分のあのふたりのようにいろんなことに挑戦していきたいなと思いました」と話す。

 五輪代表がかかった全日本選手権で、競技者としての殻をひとつ破った鍵山は北京五輪へ向け、「(4回転)ループはまだ一日に1回降りられるか降りられないかくらいだが、(構成に)入れるだけでは不十分だから、今のサルコウやトーループくらいの確率になったら入れてもいいかなと思います」と言う。

 その4回転4本の構成を北京五輪でできるかできないかにかかわらず、羽生や宇野と一緒に戦う機会を得た。彼らとのメダル争いに加わることができる初めての五輪は鍵山にとって、翌季からの飛躍のための大きな契機にもなるはずだ。