Sportiva注目アスリート「2022年の顔」 第10回:早田ひな(卓球)(第9回:中島啓太(ゴルフ)松山英樹らに続く快挙>>) スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せてくれるのか。「2022…

Sportiva注目アスリート「2022年の顔」 
第10回:早田ひな(卓球)

(第9回:中島啓太(ゴルフ)松山英樹らに続く快挙>>)

 スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せてくれるのか。「2022年の顔」と題して紹介する。



東京五輪後、好結果を残し続けている早田

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 東京五輪以降、早田ひなの快進撃が止まらない。

 昨年9月に開催された卓球アジア選手権で、シングルス、団体、混合ダブルスを制し、1974年大会の枝野とみえ以来47年ぶりの「3冠」を達成。飛ぶ鳥落とす勢いで臨んだ世界卓球選手権(11月/アメリカ・ヒューストン)でも、日本勢は中国勢に敗れ金メダル獲得はならなかったが、そのなかでひとり、早田は大きな存在感を放っていた。

 女子シングルスは4回戦で中国の王芸迪(ワン・イーディー)に敗れてベスト16に終わったものの、女子ダブルスと混合ダブルスでは銀メダルを獲得。中国メディアから「早田の研究をする必要が出てきた」と報道されるほど、堂々たるパフォーマンスを披露した。

 それほど警戒される要因としては、卓球台から離れたポジションからでも放てるパワードライブに加え、長いリーチを生かし、広範囲で球を拾えるディフェンス能力の高さが挙げられる。

 現に女子ダブルス準決勝で、世界ランキング1位で東京五輪金メダリストの陳夢(チェン・ムン)と、2018年世界ジュニア女王の銭天一(チェン・ティエンイ)のペア相手にも、その持ち味を随所で発揮。ペアを組んだ伊藤美誠とともに、卓球台の周りを縦横無尽に動き回りながら、ことごとくラリーを制した。

 結果、フルゲームの末に3−2で勝利し、中国ペアの牙城を崩した"みまひな"。試合後、早田は「やったことのない相手だったんですけど、自分たちのよさをしっかり活かせたことが結果につながった」と手応えを口にした。

【代表に欠かせない「パワー」と「左」】

 さらに、張本智和と組んだ混合ダブルスでも「早田だからこそできる戦術」が多々見られた。

 まず卓球の混合ダブルスにおいて、女子は前陣、男子は後陣でプレーするというのがセオリーとしてある。女子はあまりパワーがないぶん、打点が早く、ピッチも速いスピードを駆使した卓球が主流。逆に男子は、パワーのあるドライブを武器に中陣〜後陣でプレーする選手が多いからだ。東京五輪の同種目で金メダルを獲得した伊藤と水谷隼ペアのスタイルがいい例だろう。

 だが早田の場合、身長の高さとリーチの長さを生かし、卓球台から後ろに下がった状態でも十分にプレーができる。それゆえ、張本が前で揺さぶり、返ってきたところを早田が後ろから叩き込む、という珍しいパターンで得点するシーンが多く見られた。早田が「後陣からでも強いドライブを打てる選手」だからこそ可能な構図だろう。

 加えて早田が「左」であることも、日本代表の現状からすれば大きい。

 水谷が東京五輪を最後に引退を表明し、伊藤との最強タッグも解散。2024年のパリ五輪で混合ダブルス連覇を狙う日本として、次はエース張本とのペアが有力視される。彼が「右」のため、ダブルスで相性のいい左利きの選手と組み合わせるのは間違いない。そこで適任なのが、2年前にもペアを組んだ経験のある早田というわけだ。

 2人は2019年11月に、ワールドツアー・オーストリアOPで中国の林高遠(リン・ガオイェン)・朱雨玲(シュ・ウレイ)ペアを破って優勝。同年6月のLION卓球ジャパンOP荻村杯でも、優勝こそ逃したが、準決勝で中国の樊振東(ファン・ジェンドン)・丁寧(テイネイ)ペアに勝利した実績がある。

 まだペア歴は浅いが、今回の世界卓球で相性のよさとその実力を見せつけた。張本も「早田選手を信じればきっと勝てると思って、早田選手を信じられた」とコメント。伊藤とのコンビも含めて、ダブルスにおける"左の強打者"として早田は欠かせないピースになってくるだろう。

【東京五輪で抱いた想い】

 そして、世界卓球直後の12月に行なわれたWTTカップファイナルズ・シンガポールでも、世界女王の王曼(ワン・マンユ)を下して勝ち上がってきた香港の杜凱琹(ドー・ホイカン)を破り、女子唯一のベスト4入り。準決勝で、同い年のライバルでもある中国の孫穎莎(スン・イーシャ)に敗れたものの、持ち前のパワフルなドライブで応戦するなど、早田らしい戦いで年内最後の国際大会を締めくくった。

 試合後には、「2022年はしっかり自分で勝ち上がって、中国人選手とどんどん試合をして、いつか勝てるように頑張りたい」と、来季に向けて意気込みを語った。

 2021年の後半、"卓球王国"中国をはじめ、世界各国を"警戒モード"にさせた早田。ここまでの快進撃を見せた裏には、東京五輪での経験を経て抱いたある想いがあった。

 同大会で早田はリザーブとして参加し、ボール拾いや練習相手として伊藤、石川佳純、平野美宇を陰ながらサポート。その献身ぶりは、伊藤が「朝早くから夜遅くまで帯同してくれて、みんなで戦ってるんだなって感じたので、毎日感謝しっぱなしでした」と話すほど。表舞台からは見えない裏側で、早田の存在は彼女たちの大きな支えとなっていた。

 幼少期から切磋琢磨してきた伊藤や平野が、夢の大舞台で躍動する姿を間近で目にし、悔しい気持ちは当然あっただろう。だがそれ以上に彼女の心にあふれていたのは、伊藤らの活躍に対する喜びと、周囲への感謝の気持ちだった。そのことについて、自身のSNS(Instagram)でこう綴っている。

「監督、コーチ、スタッフが常日頃から選手が勝つためにどれだけの想いで指導をして、どれだけの想いで一つ一つの技術や人間力の指導をしているかを身に染みて感じました。今回この気持ちを自分の肌で感じることが出来たからこそ、お世話になった方々へ恩返しをしたい気持ちがこれまで以上に強くなりました」(原文ママ)

 そして最後に「人としてもっともっと成長し、皆さんの期待に応えられるような、今卓球を始めた子達に大きな夢を与えられるような人になりたいと思っています」と決意を新たにした。その想いが、その後の彼女を卓球選手として、ひとりの人間として強くした。

 2022年、夢のパリ五輪に向けて、早田の進撃は加速する。

(第11回:松島輝空(卓球)張本智和に続く14歳の「怪物」>>)