1月8日、大阪・東大阪市花園ラグビー場で101回目の「花園」こと全国高校ラグビー大会の決勝が行なわれた。6度目の王者を目指す東海大大阪仰星(大阪第2)と、初の決勝となる國學院栃木(栃木)が激突。結果は仰星が多彩なアタックと固い守備で36−…

 1月8日、大阪・東大阪市花園ラグビー場で101回目の「花園」こと全国高校ラグビー大会の決勝が行なわれた。6度目の王者を目指す東海大大阪仰星(大阪第2)と、初の決勝となる國學院栃木(栃木)が激突。結果は仰星が多彩なアタックと固い守備で36−5と勝利し、4年ぶりに頂点を掴んだ。

 中高一貫の仰星は、高校生のラグビー部員だけで110人、中学生を入れれば150人以上となる巨大クラブ。それら部員を引っ張るNo.8(ナンバーエイト)薄田周希キャプテンはノーサイドの瞬間、ヘッドキャップを外して天を仰いだ。

「最高にうれしい! 1年、2年とベスト8だったので、しんどいことをやってきた結果。花園は自分もチームも成長できる最高の場所でした」



4年ぶりに花園を制した東海大大阪仰星

 今季の仰星は専門のフィジカルコーチを週1回招聘し、体作りに時間を割いてきた。その成果もあり、夏の7人制ラグビーの全国大会では見事優勝。努力と結果が結びつき、自信を深めていた。

 今大会も勢いは止まらず、大阪府予選から花園3回戦まで相手を零封に抑えるなど、攻守ともに充実した内容。準決勝では春の選抜大会で圧倒(17−46)された優勝候補筆頭の東福岡(福岡)を42−22で下し、ついに決勝まで駒を進めた。

 決勝の相手は今季の関東大会王者「國栃」こと國學院栃木。花園には過去26回出場しているが、これまでベスト8の壁を打ち破ることはできていなかった。しかし今大会では堅守を武器に、3回戦で流通経済大柏(千葉)、準々決勝で長崎北陽台(長崎)、準決勝で花園3連覇を狙った桐蔭学園(神奈川)と、強豪チームを次々に撃破。今大会、最も注目を集めるチームになった。

 試合の焦点は、仰星がどうやって國栃の守備を崩して得点を挙げるか。國栃としてはロースコアに持ち込み、自分たちの土俵で戦いたいところだ。

 國栃の固い守備を崩すために、仰星を率いる湯浅大智監督は選手たちに「はやさ」というテーマを与えたという。そして、状況に応じてどう判断し、プレーするかは選手たちに任せた。

【湯浅監督がハッとした言葉】

 仰星の生徒たちは2日間で、國栃を分析した。そして、決勝ではSO(スタンドオフ)吉本大悟(3年)のロングキックを使い、相手陣で戦う時間を増やすことを自分たちで決めたという。

 前半5分、その作戦どおりキックで敵陣に入った仰星FW陣はモールを10メートルほど押し込み、相手の守備を右サイドに集めたあとに素早く左に展開。最後はキャプテン薄田が左隅にトライして先制する。

 さらに12分、再びキックで敵陣深くに侵入すると、はやいテンポで攻撃を繰り返し、最後はCTB(センター)野中健吾(3年)のショートパスにCTB中俊一朗(3年)が縦に抜けて12−0。連続トライで試合の主導権を握った。

 その後、前半22分にトライを許したが、その後は國栃が武器とするモールを止め、接点でも相手のボールを奪い返す激しいディフェンスでゴールラインを割らせることはなかった。一方、仰星伝統の「ノーラックラグビー」も冴えわたり、最終的に5トライを挙げてノーサイドを迎えた。

 2010年代、仰星は高校ラグビーを引っ張ってきた。しかし、早稲田大で活躍するCTB長田智希(4年)やFB(フルバック)河瀬諒介(4年)が高校3年時に5度目の優勝を果たしたあとは無冠。3季前は花園にも出場できず、一昨季、昨季はベスト8と、苦しんでいた印象は否めなかった。

 昨年2月に新人戦が行なわれた頃、湯浅監督は生徒に「今のプレー、何でしたの?」と問うと、生徒たちが口ごもっていることがあった。それを見ていた同僚の数学の先生に、こう諭されたという。

「生徒は湯浅先生に『正しいことを言わないといけない』と思っている。正しいことでなくても、正解でなくてもいいのでは?」

 そう言われた時、湯浅監督はハッとした。

「過信というか、仰星はこうあるべき、と押しつけていた。監督として経験したことで傲慢になっていた部分があったのでは」

 高校時代は仰星のキャプテンとして初優勝を成し遂げ、コーチになっても優勝、さらに監督でも3度の優勝を経験してきた湯浅監督は、これまでを振り返って自省した。

【後輩たちに受け継いでほしい】

 さらに昨年3月の卒部式で、こんなことがあった。昨年度のキャプテンCTB近藤翔耶(東海大1年)は後輩に向けて、ある言葉を残したという。

「湯浅監督を疑え」

 自分たちで考えることの大切さを伝えたかったのだろう。

 そこで湯浅監督は、生徒に指示する割合を意識的に下げることにした。それまで4分の3ほど湯浅監督から指示していた割合を3分の2に下げて、選手に考える自由・余白を多くした。さらに大会に入ると関与する割合を3分の1ほどに下げて、花園では生徒主体のチームとなっていた。

「間違ってもいい、思いっきりチャレンジしていいと伝えて、生徒が探求し、思考する。そのほうが僕も楽しいし、選手たちが(自ら)考えているので、応用になったときのスピード感があった」(湯浅監督)

 薄田キャプテンは「監督に言われたことに対して受け身になるのではなく、本当に日本一になるために必要なことを自分たちで解釈して考えた」と話す。ライバル東福岡を組織的な守備で押さえ込んだ準決勝、そして自分たちで試合を組み立て、判断と展開の「はやさ」で國栃に勝利した決勝は、まさしくこの1年の集大成だった。

 仰星では毎年、3年生が自分たちで決めるスローガンがある。今季は「不朽の仰星で日本一」だった。薄田キャプテンは「後世に語り継がれるような取り組みができたと思いますが、後輩がどう思ったか、引き継いでいってくれるか。監督の話を疑う、(自分たちで)考えることは後輩たちにも受け継いでほしい」と期待を寄せた。

「監督を疑え!」

 選手たちが主体となって考えるラグビーを貫いた仰星が来季、どんなプレーを見せるか楽しみだ。