Sportiva注目アスリート「2022年の顔」第9回:中島啓太(ゴルフ)(第8回:松木玖生(サッカー) 「一番の武器はメンタル」>>)スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せてくれるのか。「20…
Sportiva注目アスリート「2022年の顔」
第9回:中島啓太(ゴルフ)
(第8回:松木玖生(サッカー) 「一番の武器はメンタル」>>)
スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せてくれるのか。「2022年の顔」と題して紹介する。
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中島啓太(日体大3年)が、今春のマスターズ(4月7日~10日/ジョージア州)に出場する。日本のアマチュア選手としては、松山英樹、金谷拓実に次いで3人目の快挙である。
アジアパシフィックアマチュア選手権を制して、今春のマスターズに挑む中島啓太
日本人アマチュア選手のマスターズへの道が生まれたのは2009年、アジアパシフィックアマチュア選手権が開催されるようになってから。同大会の優勝者に、翌年のマスターズの出場権が与えられることになった。
アマチュア選手の枠はそれまで、全英アマと全米アマの勝者などに限られていたが、世界のアマチュアに門戸を広げるため、マスターズなどが主導となって同大会を開催。その後、南米でも同様の大会が開催されている。
言うまでもなく、松山はその権利を得て2011年のマスターズに初出場。ローアマを獲得し、それから10年後の2021年マスターズで見事に頂点に立った。
その松山が切り拓いた道を、金谷が追随し、そのあとに今年、中島が続く。
実は中島は、金谷が勝利した2018年の大会でも優勝するチャンスがあった。金谷に2打差の2位タイに入っているのだ。
その大会後、ある企画で行なわれた金谷と中島の対談に立ち会った。そこで金谷は、優勝した同大会についてこう語っている。
「う~ん......実は(中島との優勝争いは)やりにくかったですね。なんか、嫌だったですね。それまで(ナショナルチームの一員として)チーム一丸となって一緒に戦ってきたわけですから。気持ち的に、嫌だなぁって(笑)。
途中、リーダーボードを見ると日の丸が上に2つあって、これが日本での戦いならば、そういったことも思わないで戦えていたと思うんですけど......。海外で、しかもこの遠征でも(中島とは)ずっと同じ部屋でしたから。ほんと、昨日まで(一緒の)チームでしたからね。
もちろん、勝ちたいという気持ちが強かったけれど、嫌な感じでした。どっちかが悔しい思いをしなければいけないわけですからね。チームなら、一緒に喜んだり、悔しがったりできますけどね。どちらかが傷つくわけですから、複雑でした」
対して、中島はこう語っている。
「たぶん(最終日の)14番ホールぐらいまでは、リーダーボードでは金谷さんより上に(自分の名前が)あったと思うんですけど、金谷さんが(猛追して)来ているのはわかっていました。(金谷の組から)すごい拍手が聞こえてきたし、(金谷が)ガッツポーズしているのも見えたので(笑)。
終わってみれば、僕は10番でバーディーをとって、その後はノーバーディーでした。一方で金谷さんは、14番、15番、16番とバーディー。結果的には2打差でしたけど、内容的には10打差ぐらいの感じがありました。
ですから(敗戦は)ちゃんと受け止められましたし、ほんと素直な気持ちで金谷さんの優勝を祝福できました」
その時、中島に「じゃあ、来年のマスターズには、金谷くんの応援に行かないと」と話を振った。すると、中島は「いや、マスターズは選手として行きたいので、我慢します」ときっぱり。その姿が強く印象に残っている。
中島の性格は、冷静沈着。物事をひとっ跳びに進んでいくことはなく、足元をしっかりと見つめ、足りない部分を補強しながら、あらゆる準備を怠らない誠実さがある。
振り返れば2021年、中島はまず日本アマチュア選手権で念願の優勝を果たした。目標への階段をまた一歩進めると、「次は全米アマチュア選手権に挑みます」と力強く語ったが、同大会では惨敗。上位64名で行なわれるマッチプレーにさえ進むことができなかった。
しかし、その惨敗がまた、中島を太く育てた。現に「全米アマでこてんぱんにやられて、さらに踏ん張れた」と中島。こうしたプロセスが、パナソニックオープンでのプロツアー史上5人目のアマチュア優勝、さらにはアジアパシフィックアマチュア選手権の戴冠へとつながったに違いない。
中島は「準備を怠らないこと」をモットーとしている。これは、JGA(日本ゴルフ協会)ナショナルチーム・コーチの、ガース・ジョーンズ氏の薫陶をきちんと実践している証拠だろう。その教えの一部を、中島が語る。
「試合に向けては、それまでの生活態度から始まって、試合のために準備することが相当あります。具体的な例をひとつ挙げれば、ヤーデージーブックに書き込む情報量ですね。グリーンの傾斜から始まって、考えられるすべての情報を書き込みます。ですから(試合の時は)練習日がいちばん疲れるんですよ」
そうしたジョーンズコーチの教えを受けた選手の多くが、プロ転向後も目覚ましい活躍を見せている。男子は金谷、片岡尚之、久常涼ら、女子は勝みなみ、畑岡奈紗、稲見萌寧、古江彩佳など、そうそうたる顔ぶれである。
近い将来、プロに転向した中島もその顔ぶれのなかに加わるのだろうが、その前にアマチュアとして2022年のマスターズに挑む。中島が「強い刺激をいっぱい受けた」という金谷も参戦し、ふたりを引率し大きく包み込むような存在として、ディフェンディングチャンピオンの松山もいる。
その大一番に向けて、「ワクワクします」という中島。どんな準備をし、自分のゴルフをどこまでやり通せるか、注目である。